加護なし勇者

静月 

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4話 過去の夜明け

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 勇者パーティーを追い出されてから、私は毎日代わり映えのない日々を過ごしていた。
 ずっと1人で居たから、誰かに軽蔑されたり、拒絶される苦しみを味わうことはなかった。だけど、パラと会えなくなって空いた心の穴を埋めるものも無かった。
 たまにどうしてこんな思いをしてまで森で生き続けなきゃいけないんだと生きる意味を見失ったりもした。
 私はこのまま一生独りで生きていくんだと思っていた。
 だけど、ルクスと出会いその考えは覆った。
 まだ会って3日なのに。私、笑えてるよ。
 これからどんな旅になるかわからないけど、前よりもずっとマシで、懐かしいと思えるような幸せな旅にしたい。

◇◇ ◇◇

「路銀に変わりそうな素材はこれくらいかしら」

 私はナイフに付いた魔物の血を足元の草で拭き取り、鞄に付いた鞘に戻す。
 私の眼の前に倒れていた羊の魔物は、私の解体によって角も翼もないただの巨大な肉塊へと変化している

「ルクス、終わったわよ」

 ルクスに声を掛けようと後ろを振り向くと、少し遠くで自然に咲いている花をまじまじと見ているルクスの姿が目に入った。
 そんなに珍しい花は見えないのに、どうしてそこまで集中出来るのかは少し気になる。
 私の声に気がついたルクスは少し驚いたような表情をしてこちらへ戻って来る。

「えっ早くね!?まだそんなに時間経ってないはずでしょ?しかも丁寧って、職人さんじゃん!」

 ルクスは大袈裟に驚いて毛の剥ぎきった魔物のお腹を撫で始める。
 これでも遅いと言われていた解体作業だ。そこまで褒められるとなんと返していいかよくわからなくなってしまう。

「それより、この後は村に行くってことで良いわよね」

 スルーして話題を変えることにした。
 それに対してルクスは気にすること無くニカッと笑う。

「おう。イルさんのための旅なんだから、イルさんのしたいことをしていけば良いんだぜ」

「…そう」

 無愛想な返事をしてもルクスのみは一切崩れない。
 気付いていないのか気にしていないのか。
 どっちにしても、こんな私に対してここまで愛想を振りまいてくれると、距離を取っている私が馬鹿馬鹿しく感じてしまう。

「なら、今日はここで野宿して。明日村の方までいきましょう」

 私が少し空に視界を向けると、いつの間にか太陽は半分山に隠れ既にいくつかの一等星が草原を照らしている。
 たまには目的地に縛られずに好きなところで夜を過ごそうと思ったのだ。
 私は鞄から数本の太い木と細枝を取り出し、土魔法で火花が散らないよう組んだ土台に置いていく。
 無事に火が点き、太い木が燃えるようになってから瘴気の抜けた羊肉を焼いていく。
 瘴気は無機物に留まることはない。魔物も死ねば抜け殻だけを残して浄化していくのだ。

「それにしても、魔法ってほんとに便利だよな。俺も使ってみてぇ」

 一通りの食事を終えて寝袋を用意していると、ひとりでにルクスが呟く
 私がルクスの方を振り向くと、視線はずっと焚き火に向いていた。

「魔法は誰でも使えるはずだけど」

「そうなんだ…あいつにも見せてやりたかったな」

 魔法が発言していない昔の人じゃあるまいし、魔法なんてみんな使えるはずなのに。たまたま運が悪かったのかな。
 それに、『あいつ』って誰なんだろう。今思えばあまりルクスの昔のことについて聞いたことがなかった気がするから、また今度聞いてみようと思う。
 もしどこかで生き別れたのなら、その人を見つけるのも旅の目的に入れるのも考えておこう。

 ルクスがそばで寝たのを確認して、私も焚き火を消して寝袋にる。
 寝袋から見上げた空は、木に邪魔されない久しぶりの満点の星空だった。
「パラもみているのかな」
 そんなことを考えながら私は静かに眠りについた。

◇◇ ◇◇

 私が起きるとまだ日は出ていなかった。
 だけど深夜に目を覚ましたわけではなさそうで、緑がかった空が広がっている。
 久しぶりに悪夢を見ずに眠れた気がする
 勇者パーティーの頃は毎日が疲れすぎて夢なんて見ている暇なかったし、仮に見てももう戻れない楽しかった日々とプロダシアにいびり続けられる夢しか見なかった。
 だけど、私はもうただの旅人。
 プロダシアたちに縛られる必要なんでない。
 パラだって、友達がいなかった私に同情してくれて仲良くしてくれていたんだ。
 私何回でもいなくてもみんなと楽しく出来る。あんなに情が深くて頑張りやで、ルクスを嫌う人なんていないもの。
 だから、勇者パーティのことはもう忘れましょう。

 ルクスが起きたのはその少し後。
 焚き火の片付けをして、素材の整理諸々を含めた準備が終わった直後に目を覚ましたのだ。
 起きたばかりで少し寝ぼけていたけど、ご飯を食べるとすぐに元気になったようで、準備を待つ時間はそこまで長くはならなかった。
 私の料理を美味しいなんて言ってくれたのはパラ以来だったから、やっぱり褒め慣れてないなと自覚してしまう。

 それから私たちはその場を出発して子供たちが走っていった方向へずっと進み続けた。
 近くの川沿いをずっと歩いていき時間は昼下がり、ようやくたどり着いた。
 川を跨ぐ広めの橋が架かっていて、その向かい側に村があったのだ。
 そこまで発展はしていなく質素な村のようだが、貧乏の雰囲気もなく上手く自然と共生している村のように見える。

「そういやいるイルさん指名手配じゃなかったっけ、大丈夫なのか?」

 ルクスは今思い出しとばかりに私の顔を見る。

「多分大丈夫。プロダシアのことだからあの国の外まで広がることはないわ」

「なら良かった。」

「お姉さんたち何してるの?」

 急に後ろから声が聞こえた。
 少し驚いてして後ろを振り向くと子供が数人私たちを不思議そうに見上げていた。

「えぇと、ただの旅人よ。たまたま見つけたからちょっと寄ってみたの」

「そっか!サモネア村へようこそ!」

 子供たちは私たちを旅人とわかるやいなや元気よく歓迎してくれた。
 門番が子供たちなのをみると村がいかに平和がわかって気分も和む。

「アッお前、昨日の子供だな!?」

「あぁ!あのときの兄ちゃん!」

 どうやら子供の中に昨日いた子供も混ざっていたらしい。
 上からだとよく顔が見えていなかったからわたしは 気づかなかった。

「そういやもう一人は居ないのか?」

「あぁ。あいつは家畜を逃がしたバツとして3日は家の手伝い地獄って言ってたぜ」

 子供は若干ルクスから目を背けながら答える。
 本当は2人にかけられたが隙を見て一人だけ逃げてきた感じだろう。

「なぁなぁ、兄ちゃん旅人何だよな?俺達に話聞かせてくれよ!」

 子供たちは徐ろに話をすり替えようとルクスに詰め寄り始める。

「はぁ?ったくしょうがねぇな。良いぜ、嘘みたいなほんとの昔話してやるよ」

「昔話?俺は冒険の話が聞きたいんだ!」

 「昔話」と聞いて子供は隠さずに嫌な顔をする。
 でも、私も少し意外に感じた。
 昔話なんて持ってる雰囲気全く無いんだもの。

「安心しろって。昔話は昔話でも、勇者の冒険についてだ。俺しか知らない掘り出し物の話も持ってるんだぜ」

 「勇者の冒険」と聞いてまたすぐに表情が明るくなる。
 子供は本当に単純で誰にでもすぐに懐く。
 私は忌み子のせいでこんなのとは無縁だったから、ルクスも子供たちも羨ましいと思ってしまう。
 でも、慣れてないのに変に触れ合おうとして嫌われたくはない。
 ここはルクスに任せて私は村人に話を聞きに行こう。

「ルクス、情報収集は私がしておくから、子供たちと遊んでいていいわよ」

「おっ了解!じゃあ後で」

「えぇ」
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