加護なし勇者

静月 

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3話 英雄を目指す訳

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 私は旅支度するために一度家に帰ることにした。
 家と言っても、たまたま丘に空いていた洞穴を私好みにアレンジして家具やドアを付けたようなものだけど、住むにはそこまで不自由は感じないほどにこだわったつもり。
 そんな家も今日を境にもう戻ることはないだろうから、必要なものは全て鞄に入れてそれ以外は自然に捨てておこうと思う。
 その間ルクスが何をしていたかと思うと、何故か私の鞄を凝視していた。
 私の持っている鞄は空間魔法の魔法陣が組み込まれている中堅冒険者の便利グッズのようなもの。
 少し高価ではあるものの、普通の鞄よりも頑丈な作りになっているのでそこまで損をするというイメージはない。
 鞄自体は本当に一般的なのに、ルクスは鞄のことを全く持って知らない様子だった。
 私に出会う前も長く冒険していたと聞いたけど、本当なのかしら。

 旅支度を終えて最後の仕上げをしていると、ルクスがとても怪訝そうな顔でこちらを見つめていた。

「何してんだ?」

「何って、壁に薔薇の花を彫ってるの」

「さっきもう戻らないって言ってなかったか?それなのになんで」

 何も知らない人から見ると、やっぱりこれはおかしいことなのかもしれない。
 最後の仕上げというのは、今口にした通り土壁を削っての絵を描くこと。場所によっては置物を置いたり渡したりもする予定だ。

「ちょっとしたアピールよ。私が存在していたっていう」

 そんなに深い理由はない。というのも、私は産まれてから目立たないようにひっそり生きろと言われて育ったせいで、殆ど承認欲求というのも無かった。
 だけど、パラに誘われて魔王討伐を目指すようになって、自分が認められるのがどれだけ嬉しいことなのか気付いたのだ。それと同時に忌み子とバレた時の苦しみにも気づかざるを得なかった。
 だからこうして生きていた証を遺すことにしたの。魔王を倒した勇者が伝説を綴るように、私も世界に軌跡を綴るの。
 忌み子だって普通の人間と同じようにに生きているという思いも込めて。ね。

「いいな、それ。なら俺も書こっと」

 そう言ってルクスは薔薇の右下に何かを書き始める。

「俺、茸好きなんだ。だから茸!」

◇◇ ◇◇

「そういや、旅ってどこ行くんだ?まだ決めてなかったり」

 森を歩いてる途中、何も考えていなかった私に大きな図星が降ってくる。

「…とりあえず森を出ましょう。森を出たら教えてあげるわ」

「…イルさん、もしかして嘘下手?」

 出来るだけ素っ気無く返したつもりだったが、直感が強いルクスには効かなかったらしい。

「…どうする?」

 流石にこれ以上はごまかせずに助けを求める。
 前のような感じなら、これで「これだから忌み子は」とか「役立たず」とかの罵倒が飛び交っていた来たはずだが、意外にルクスはそんな漢字の表情は面影もなかった。

「やっぱり目的がないと旅は楽しくないよなぁ…あっ魔王討伐とか!?」

 これを聞いた瞬間、ルクスに聞いた私が馬鹿だったと実感した。
 私に精神攻撃をして倒すスパイだったりするのかしら。流石に冗談だけど。

「私が勇者パーティから追放されたのって覚えているわよね?」

「いや流石に忘れてはいないけど、だってあんな奴らに見下されるの腹立たねえか?」

 ルクスは真剣そのものでこちらをまじまじと見つめてくる。本気で私のことを想ってくれてるのだろう。
 自分を忌み嫌う人たちを嫌うのはしょうがないかも知れないけど、たしかにそんな人たちに振り回されるのも納得がいかない自分はたしかにいる。
 今は誰にも縛られていないんだ。勇者パーティーなんて今は関係ない。

「そうね、それに最終目的はあった方が良いし。良いわよ、魔王を倒しましょう」

「じゃあ、今度こそ旅を出発だ!」

 そういうとルクスは笑顔で私を追い抜いて前を歩き出した。私も負けじと真横につく。
 ルクスと居れば、私も一人の人間と確証がもてる。そんな気がした。

◇◇ ◇◇

 そこから2回の夜を跨ぎ、ようやく私たちは森を抜けた。
 森を抜けた先には広大な草原と川が流れていて、森ばかり見てきた私の目には最上級の美しさに感じた。
 草の緑は勿論、丘の下にはには色とりどりの花畑が広がっていて、遠くの方には白い雪を被った高い山も見えている。
 この景色を見て思ったの。
 私が初めパラの誘いに乗った理由は、承認欲求とかの話よりも前に、昔見た自然の美しさを魔王に奪われたくなかったから。そんな記憶が舞い戻ってきた。
 その時はたしかパラに忌み子とバレた時。忌み子を恐れなかったパラに静かに涙をながしたのだけど、その時に見た森の景色も同じぐらいに美しかったと思う。
 誰かに認められるより、誰も知らないところででも自分の好きなものを守りたい。
 思い出したからには、もう二度と忘れないようにする。私は誓った。

「倒すよ、この手で。」

「おうよ!」

「聞かないの?どうして私が逃げないのか」

 無意識にルクスに問いかけていた。
 理由なんて、忌み子が役立たずだというのを否定するためって肯定したはずなのに。

「聞かなくても分かるぜ。だって俺も“同じだった”から」

 ルクスは不思議そうな顔はせずにずっと景色を眺めながら答える。
 少しぼかされてしまったから“同じだった”というのがどういう意味なのか良くわからないけど、もう一度景色に目を向けているとだんだんとどうでも良くなってくる。
 ルクスがどんな想いであったって、魔王を倒すその目的は変わらない。今はこの景色に身を任せていよう。

「そういやさ、結局ここからどこ行くか決めてなくね?」

「…本当ね」

 急に現実に戻されて私はキョトンとする。完全に忘れていたのだ。
 目をそらそうと適当な方に目を向けると、どこからか叫び声が聞こえてきた。

『誰か助けて!』

 急いで声の主を探すと、少し奥の花畑の方に魔物の影と子供の姿が2つあった。
 魔物はヤギの角の生えた3メートルくらいの羊の見た目をしていて、背中にはコウモリのような羽がついている。
 近くの村の家畜が脱走して運悪く瘴気を吸ってしまったという所でしょう。
 それならあそこに居る人は家畜を探しにきた羊飼いといったところだろう。

「イルさん、考えんのはあの子供を助けてからにする?」

「そうね。もしかしたら村まで案内してくれるかもだし」

 向こうにいたときは戦闘以外では雑用と家事しかしていなかったから情報が少なかったから、村に行って色々情報収集がしたい。
 知ろうとしていなかったんじゃなくて、雑用が多すぎて知ろうとする暇がなかったんだだけど。

「流石にここからじゃ射程圏外ね」

「森のときは油断してたけど、今度こそ名誉挽回だ!時間稼ぎは任せろ」

 そう言ってルクスは丘を足で滑って魔物のところへ一直線に丘を滑っていく。
 魔物はまだこちらには気付いていない。このまま不意打ちで決めようかと思ったけど、私が魔法を唱えている間にいつの間にかルクスが魔物を攻撃していた。
 子供の命が危なかったから、仕方ないことなのかもしれない。

『もう無理だ!村まで走れ!』

 地上からルクスの叫び声が響く。

『…、!…!……』

『…!…、、!』

 子供たちは逃げようとせず必死になってルクスに縋り付いている。
 何を話しているかわからないけど、きっと子供たちに懐いていたから、「私のこと覚えてるから大丈夫」みたいな事を言っているんでしょう。
 あの子たちには悪いけど、1度瘴気を吸って魔物化した動物はもう元には戻らない。
 それを理解しているルクスが必死が説得しているようだ。

『イルさん今だ!動きを止めたぞー!』

やっと子供たちが逃げたのか下からルクスの声が届く
私は子供たちが遠くへ行くのを見てから布でぐるぐるまきにした初心者用の杖を握る
だけど、もう打つ必要はなくなったみたい
私が杖を戻して地上へ降り立つとルクスが不思議そうに駆け寄ってくる

「どうしたんだ?なんで打たないんだよ」

「もう、死んでるわよその魔物」

 魔物はもう動かない
 あの初心者用の剣じゃこの魔物の皮膚が貫けるわけがないから、打撃だけで倒したことになる
 魔王に怯えていないだけあって、ルクスはかなり強かったらしい
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