加護なし勇者

静月 

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2話 少年との出会い

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 私が目を覚ますと、次はとっくに顔を出し街を薄く照らしていた。
 太陽は私を見捨ててしまったらしい。

「いつの間にか、気を失っていたのかしら…。もうこの街にはいられないんだから、早く逃げないと」

 あの酔っ払いのことだ。あることないこと全て混ぜ込んでギルドに通報していてもおかしくない。
 気性からみて丸く収めようとはしないだろう。
 急いでこの国から離れないと。
 この路地裏は外灯があるわけもなく、ランプを持ってない私からするとまるで闇に監禁でもされているよう。
 こんなところに長居する必要はない。
 近くに投げ捨てられたマントで体を覆い、私は大通りの光を探す。
 壁に手を掛けながら痛む足を必死に動かす。
 途中、足に何軽いものがあたった感覚がした。

「こんな場所に木?…あっこれは」

 気になってそれを拾い上げてみると、素朴な木の棒だった
 一部にねじったような加工が施されていて、よく見る初心者用の杖だと分かった
 きっと、昼に折られた私の杖だろう。
 少し探すともう片方もしっかり落ちていたから、道に落ちてたものを誰がが捨てようとして路地裏へ投げ捨てたんだと思う。
 治せるかはわからないが、お金がない今はこれしか武器がない。
 私は杖をベルトに挿し、もう一度大通りを目指した。

 路地裏はあまり変わっていなかったけど、大通りに出ると街行く人は大きく変わっていた。
 商人や買物などをしていた住民で賑わっていたお昼と違い、夜は依頼帰りの冒険者たちで溢れかえっている。
 冒険者たちはみんな自由な服装をしているから、私のようにマントだけの姿をしていても普通に歩いているだけでは誰にも怪しまれなかった。
 だけど、私は運が悪かったの。

「おっと、ごめんよ。怪我はないかい?」

 突然後ろから走ってきた冒険者とぶつかって前に倒れ込んでしまったの。
 重戦士なのか私のニ回りは大きい体で、それに押された私は足をくじいて上手く立ち上がれなかった。
 そんな私を見て、冒険者は少し慌てた様子で手を右手を差し出し起こしてくれようとした。
 足がジンジンして痛いが、だからといって慰謝料請求をしたいわけではない
 世古氏こちらも謝ってすぐに去ろうと思っていた。
 一応善意は貰おうと冒険者の手を借りて起き上がっている途中、不意に前から強い風が吹いた。
 結構強い風だったようで、手で抑える間もなく頭のフードが取れてしまったのだ。
 その瞬間、冒険者の優しい表情は一転して激しい動揺に変わったへと変わっていった。
 忌み子とバレるのは腕の文様を見られた時。
 今回は見られていないからはずだから動揺の理由は別であるはず。
 一体何が起きてるの?
 酔っ払いだ。
 ギルドが酔っぱらいの話を真に受けて指名手配にしたんだ。
 ギルドならプロダシアたちが知らないはずはないから、余計な裏工作をしていてもおかしくない。
 由緒正しき勇者パーティが嘘をつくだなんて考えても見ない冒険者たちは、それを全て鵜呑みにし私を探していたってところかしら。
 もしそうなら、どうせ弁明しても信じちゃもらえない。

「っ放して!」

「あっ待て!皆ー、指名手配犯だ!」

 私は力いっぱいに冒険者の腕を振り払って門のの外へ走った。
 冒険者が大声を出したせいで道を歩いているほぼすべての冒険者に狙われたけど、昔からすばしっこさに定評があった私は止められない。
 私はそのまま門を出ることができて、そのまま森に姿をくらました。

◇◇ ◇◇

「これが、私の森に住んでいる理由」

「なんか…色々大変っしたね」

 私の横でずっと話を聞いていた少年が、朱い髪を掻きながらそう返す。
 彼の名前はルクス、夕方を彷彿とさせる朱い髪色に炎のような赤い瞳が特徴的な大体14くらいの少年。
 少し目尻が上がっていて少し印象がきついが、話を聞いている途中を見ると根は優しいことがわかる。
 ルクスと出会ったのはついさっき。
 食料調達でいつも通りの道を歩いていたら、たまたま大きめの魔物に襲われているルクスを見つけたの。
 始めは装備は明らかに初心者用で、一方的に攻撃されていると思って助太刀のつもりで参戦した。
 ただ、私も装備が初心者用だったのに加えて武器が折れた杖一本なことを忘れていて危うく無駄に命をなくすところだった。
 結果はこの通り間一髪にでも勝てたから良かったのだけれどね。
 そんなこんなでルクスは私を命の恩人のように扱い、渡しについていきたいと言い出したのだ。
 だから、事情を話して本当に良いのか確認をしよう ― みたいな感じで今に至るって感じ。

「まぁ、忌み子なのがバレていた以上、いつか言われるでしょうとは想像していたからね。追放自体はそこまで傷ついたってわけではないわ」

「そういうもんなんすかねぇ…あっそういや忌み子ってみんな障がい持ってるんスよね。見た目は普通の人間に見えるっすけど、どんな呪いかけられてんすか?」

 忌み子ぎどれだけ苦しいかって話の後によく堂々と聞けるわねこの人。
 まぁ、目に軽蔑の色は全く感じられないし。それこそそういう事するやつと会話するより、興味を持って聞いてくる人のほうがよっぽど交換が持てるからいいかな。

「私の呪い?……今は秘密にしておくわ」

「ええマジすか。まぁしゃーなしっすね。もうちょい信頼勝ち取ってから聞くことにするッスよ」

 ルクス少し残念そうに口をとがらしたけど、すぐに表情を戻して切り替えた。
 こんなに明るくて優しい人が、どうして私なんかとと思うところはある。
 そんな性格なら、街に行けばいくらでも仲間なんて見つかるでしょうに。私と違って。

「で、どうする?私についてくるの?」

「勿論っすよ。なんか、イルさんと戦った時によくわかんないけど「これだっ!」って思ったんで。それに、イルさんも1人より2人のほうが良くないスか?」

 ルクスはなんの迷いもなさそうな笑顔で私の前に立つ
 誰がどう見てもバカで無鉄砲。だけど、噂に流されないで自分の道をしっかり選べてる。
 ルクスといれば、私ももっとマシに慣れたりするのかしらね。
 ルクスがそこまで言うなら、私だって本望だ。

「分かったわ、連れて行ってあげる。」

「ありがとうっス!」

 ルクスは分かりやすく喜ぶ動作を見せる。

「ただし、付いてくるならその変に訛った敬語はやめて頂戴。尊敬なんてされる筋合いないから」

「っ、おーけっす…あっ了解!」

 私が座っていた丸太から立ち上がって歩き始めると、当たり前のようにルクスは私の横に立っている。
 この指名手配がどこまで届いているかわからないけど、プロダシアのようにただ私を弄んでいる人なら、あの国だけっていうのもありえる。
 それに、あれから結構日は経ったわけだし、ずっとココにいても仕方ないわよね。
 もう森に隠れて過ごすのは辞めにしよう。
 新しい冒険の幕開けだ。
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