加護なし勇者

静月 

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1話 唐突の追放宣言

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「イル、お前をこのパーティから追放する」

 彼の言葉は唐突だった。
 魔王討伐の旅をしている途中、ある街の宿で荷物を片付けていると、パーティのサブリーダーであるプロダシアから唐突な招集がかかった。
 プロダシアの部屋に入ると、私とリーダー以外は皆集まっているようで、ドアの前に立つ私を囲むような配置になっていた。
 何かと思って椅子に座ろうとした瞬間、プロダシアからこんなことを言われたのだ。
 不意に周りを見渡すと、みんなが私を睨んでいたので私も反射的に睨み返す。

「ちょっと、何?冗談のつもり?」

 始めは下手な冗談かと思って笑い飛ばそうとしたけど、相手は嘲笑っているだけで一向に微笑う気配がない。
 どうやら冗談ではないらしい。

「お前もわかっているんだろう?【忌み子】ちゃん」

「その名前で呼ばないで!」

 忌み子 ― 私のこと。生まれ持って呪いを神につけられた世界に嫌われた子。
 これのせいでどれだけ私は今までにどれだけ苦しめられたことだろうか。
 私に言わせればその呼ばれ方をされるのは愚か、言葉を聞くだけでも反吐が出る。
 私は怒りに任せてさっきよりも強くプロダシアを睨んだけれど、当の彼は早く部屋を出ろと言わんばかりに私の後ろにあるドアを見ている。

「まって…!パラは?どうしてリーダーだけいないの?」

 パラ ― パルル・ロウラ。私の幼馴染兼パーティのリーダーで神の加護を持った勇者。
 さっきも言った通りこの部屋にまだパラの姿はない
 仲間を迎え入れるのも仲間を解雇を決めるのも、今までパラがしていたことだ。
 パラを通さずに追放ができるわけがない。
 パラが肯定するまで、私はまだ旅を続けられる。
 だけど、プロダシアは笑ったままの表情を崩さない。

「それは無理だね。だって、パラは優しいから。幼馴染みのイルを追放するだなんて、決断できるわけ無いだろう?今まで迷惑をかけてきたんだ、そろそろ潮時だろう?」

「っ…最期に挨拶くらい」

「させられないよ。したら絶対止められるだろ?大丈夫、パーティの解雇手続きも済んでいるし、パラには自分から責任を感じたと伝えておくから」

 薄々気づいていたけど、これは唐突的なのじゃない。前々から準備を重ねて計画していたらしい。
 この部屋にいる全員が共犯だ。
 追放だから、拒否権なんて用意しているわけ無いか
 さっきまで、やっぱりただの長い茶番なんじゃないかって期待を持っていたけど。
 本当はもっと長い、人生こそが下らない茶番だったみたいね。

「あっそうそう、荷物は全部おいていけよ。それはパーティが集めたものなんだから」

「それはおかしいでしょ!あくまで私が装備しているんだし!見つけたのが私のだって…」

「無能のくせに、私に楯突く気か?これは『私たちの』だ。これをあげるから、部屋には戻らずそのまま宿を出ていけ、【忌み子】が」

 そう言い終えるとローブから1つの杖を取り出し私に投げ渡す。
 どこの町でも売っている初心者用の粗雑な杖。
 その中でもより室の悪いものを選んだのだろう。所々にささくれが目立つ。
 私は其の場できていたローブを脱いで後ろの扉に手をかける。羞恥心なんて、感じている余裕はなかった。

「お疲れさま」

 部屋を出る間際、笑いながらにそう投げかけるかつての仲間たちの姿を見た。

「さようなら」

 どうせもう会うことはないから、一応一言くらいは返しておく。
 なんの未練もないけれどね。

 宿を出る時、シャツ姿で杖だけ持って出ていこうとする私に、宿主が全身を覆えるほどの皮のマントをくれた。

「私の腕、大丈夫なの?」

「さて、何のことかな。少し目が悪くて腕がぼやけてしまっているよ」

 忌み子の象徴である左腕の文様、普通の人なら見た瞬間に血相変えて拒絶してくるだろう。
 だけど、宿主はあからさまに気付いていないふりをして、徐ろにメガネをずらした。
 彼なりの優しさなのだろうけど、追放を食らった私にはその気遣いも惨めに感じてしまった。
 私はちいさくお礼だけ言って足早に宿から出ていった。
 流石に素っ気なさ過ぎたと思いつつも、恐怖で宿から離れる足は止まらない。

 この国を出たら、今度こそ森の中ででもひっそりと暮らしていこう。
 私が魔王討伐の旅に出たのだって、元はといえばパラに誘われただけ。
 そのパラの作ったパーティも今日からなんの関係もなくなった、私を縛るものはもうないのだ。
 そう、パラは私を縛っていたの。こんな惨めな気持ちを強制させていたの。
 ごめんね、パラ。私が弱かったから、約束、守れそうにないや。

「よう嬢ちゃん、こんな所に独りで何してんだ?」

 不意に後ろから声がかかった。
 私が振り向くと、にやにやと鼻の下を伸ばしたいかにもならず者の雰囲気を醸し出している酔っ払い2人が立っていた。

「何か用かしら」

 私はそっけなく答えた。

「嬢ちゃん見たところ貧乏なんだろ?俺たちとイイコトしたら金やるから、ちょっとこっち来いよ」

 宿を出て始めに会うのがこんな変態だなんて私はつくづく運が悪いみたい。
 いや、こんな体で生まれてきた時点で運が悪いなんて今更か。

「悪いけど、私はあななたちみたいなのと馴れ合う趣味はないの。早く失せてくれる?」

「ァン?んだとゴルァ!俺様が優しく声かけてやったってのによう!俺様に逆らうってのがどういうことか、今から教えてやるよ!」

 戦闘はやむを得ないらしい。
 私はサッといつものように杖を構えて魔法を詠唱しようとするといつもと違う違和感を感じる。
 全く魔力が杖を通らないのだ。
 そうだった。
 これは初心者用。今まで使っていたのと同じ性能な訳がない。
 想定外のことで私が呆気に取られていると、酔っ払いたちは慣れた手つきで杖を奪い取り、見せしめと言わんばかりに眼の前で杖をおった。
 それでも反抗的な目を続ける私に更に腹を立てたのか、乱暴に私の腕をつかんで路地裏へ引っ張り込んだ。

「お前に最後のチャンスをやろう。今直ぐ裸になって俺の素足を舐めろ。そして俺様に許しを乞え。そうしたら半殺しで許してやるよ」

 1人の酔っぱらいが私を適当な壁に投げつけて靴を脱いだ臭い足を私の目の前へ持ってくる。
 勿論私は否定して鼻で笑ってみせた。
 こんな奴らに屈するほど私は堕ちる気はない。私はできる限りの軽蔑を酔っぱらいたちに食らわせた。
 だけど、私は忘れていた。そんなこと言える腕はもう持っていないということを。
 信じたくなかっただけなのかも知れないけど。
 私が屈しないとわかった瞬間、酔っ払いは怒り狂った様子で私の顔を蹴りつけた。
 私は抵抗しようとしたけど明らかな体格差の前ではなんの意味もなくただ無力に衝撃を受け入れ続けるしか無い。
 どれだけ殴っても私が謝らないから、酔っ払いはしびれを切らしたとばかりに 辱めようと脱がせ始める。
 そして私の腕の模様が見えた瞬間、酔っ払いの表情が一転して青ざめていった。
 忌み子は厄災をもたらす存在。
 そんな奴に憎まれでもしたら何が起きるかわからない。
 マントを投げつけて急いでその場から去っていく酔っ払いの姿を最後に私の視界は途切れた。
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