上 下
3 / 3

第3話 悪魔と氷山と伝説の目的

しおりを挟む
 さむい。さむいしすごくいたい。

 そう思いながらがばっと起きるともうそこに肌色はなかった。

 いつの間にかあたり一面まっしろな銀世界にいる。
 おまけに吹雪の中なので、視界全部が限界まで白色。

 先ほどまでいた場所から移動した覚えがないのに。
 
 精々どうしても耐え切れずに一度目を瞑ってしまったくらいのはずだ。

 肌色の世界に帰りたい。そう思いながらきょろきょろと周りを見回してみるが、オールホワイトアウト。

 女神から遠くに去り、かわりに限りなくそばへ近づいて来た死神を目に見えなくてもひしひしと感じる。

「めがみをかえしてよおおっ!」
 と叫んでみても口の中までホワイトアウトするだけだった。やめる。

 とりあえず立ち上がり。顔が痛すぎたのですぐにしゃがんで両腕でガード。

 まずい、このままでは体温とやる気を奪われて死んでしまう。ちょっと前に別の理由で死んだばかりだというのに再び死ぬのは嫌すぎる。

 上はTシャツ1枚、下はトランクスとジーンズにサンダルだけの姿で長く持つとは思えない。

 どこか逃げ込む場所か都合よく燃えている焚火でもないものか。女神の膝ベッドでもよい。
 現実逃避のようにそんなことを考えるが、突然目の前に現れるはずもない。

 ああ、どうしよう。
 目を開いているのもつらくなってきた。さっきあんな無理をした反動だろうか。閉じた目を再び開く動作がひどく億劫になってきた。

 しかし災い転じて福となすぞボクは。

 視界をふさぐことで鋭敏になったのかボクの耳がかすかにその音をとらえた。

 正面だった。思い込みでもいい。
 ボクは姿勢を低く四つん這いのまま音のする方へと進んでいくことにした。

 ずりずりと。
 少しずつ進んでかなりの時間がたったのではないか。
 やはり無駄だった。もうやめてしまおうと思ったその時。

 吹雪に閉ざされた視界のその向こうに少しずつ大きくなっていく音と小さな赤い光が見えた気がした。

 でももうこれ以上動けそうもない。

「たすけて」

 辛うじて出た助けを求める声を最後にボクの意識はゆっくりと雪と氷の山へと沈んでいった。

〇〇〇

「おおでんせつのうたをうたおう」

 うーん・・・・・・。

「ああけんじゃのみちびきにしたがいせいけんをぬいたゆうしゃはまおうのもとへむかう」

 ・・・・・・焚火のそばに寝かされてる。そしてそばでだれかが音痴な歌を歌って下手くそな楽器をかきならしている。女だ。

「おおまおうはにしにはいない、ああまおうはひがしにおらず」

 ・・・・・・北か南にいるのかな?

「ああきたにもみなみにもいない。まおうはあそこだあそこにいるのだせいけんがそのばしょをしめす」

 ・・・・・・いったいどこにいるんだ?

「おおせいけんはまおうのいばしょをずっとしめしていたのだ。それこそがせいけんのやくわりだった。ときすでにおそくゆうしゃはそのばしょをふたたびみつけることはできず」

 ・・・・・・ああなるほどね。

「ああけんじゃなどいなかった。いたのはただのあくまでしかなかった」

 ・・・・・・。

 ボクは目を開けた。
 焚火の向こうには吟遊詩人みたいに振る舞う悪魔がいた。 
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

過去と現在を結ぶ異世界ストーリー

なつきいろ
ファンタジー
ある日クラスごと転移に巻き込まれた白兎雄司。クラス全体が混乱する中、彼にはある秘密があった。神から与えられたチートを引っ提げ、異世界にて自由きままに暮らしていくことになる。主人公は基本女たらしですが、自分の中の明確な基準を設けています。チート、ハーレム、恋愛、無双、ほのぼのなどなどおりなすストーリー。戦いのシーンより、女の子とのいちゃいちゃを優先しています。処女作な為読みづらいです。 12/8 お気に入り100人達成!ありがとうございます! 12/10 お気に入り200人達成!ありがとうございます! ※こちらは不定期更新となります ※なかなか展開が進まないことが多々あります。 ※小説家になろうサイトでも同名にて活動しています。 https://ncode.syosetu.com/n8221eh/

左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!

武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

魔王を倒した勇者

大和煮の甘辛炒め
ファンタジー
かつて世界に平和をもたらしたアスフェン・ヴェスレイ。 現在の彼は生まれ故郷の『オーディナリー』で個性的な人物達となんやかんやで暮らしている。 そんな彼の生活はだんだん現役時代に戻っていき、魔王を復活させようと企む魔王軍の残党や新興勢力との戦いに身を投じていく。 これは彼がいつもどうりの生活を取り戻すための物語。 ⭐⭐⭐は場面転換です。 この作品は小説家になろうにも掲載しています

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

処理中です...