結晶樹断章――秘録

上月琴葉

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その証を、ちょうだい(石妖異聞 ハヤトツ)

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「ありがとうございましたー!」
 本日、喫茶店ピエトラはいつもよりも混んでいた。メイドの日ということで従業員はみなメイドに扮している。上品なクラシカルメイドの桜耶といつもの服に少しアクセサリーを足した主人役のヒメ。そして一際目立つのがーー
「そろそろ休憩ですよ、ご主人様?」
「あ、ああ。報告ご苦労、鳥束」
 短めのメイド服にガーターベルト、黒のサイハイソックス。はっきり言ってかなり似合っている。だが、鳥束は紛れもなく男だ。童顔で声も高めなのでこのような姿をされてしまうと女にしか見えないが。
 休憩室に戻ると机の上に既に昼食が置かれている。手を洗って「いただきます」と挨拶をし、口に運んだ。
「美味しい。さすがはゆー兄さん」
「うん。ああでも本当思ったより大忙しだったぜ。まさか写真撮影まで頼まれるとは。隼陽とペアで。ああでもそれっていいコンビ……か恋人に見えてるのかな俺たち」
 口に含んだ水を噴き出しかけて堪えた。
「こ、こいび……」
 間違っていないような気はする。俺はこいつへの気持ちを自分で認めたはずだ。なのに何故こんなに照れくさいのか。
「隼陽は俺のことパートナーって思ってくれてる?」
「もちろん、それは。けどな、改めてそう言われると恥ずかしいというか照れるというか」
 鳥束はそんな俺を見て、柔らかく笑った。
「あはは。照れてる隼陽って貴重な気がする。ところで、この格好するにあたって、下は何を穿いてると思う?」
「いきなり何を言い出すんだお前は昼間から」
 幸い休憩室にはふたりしかいない。
「……ねえ、隼陽。俺今日一日頑張るから終わったらご褒美、ちょうだい?」
 耳元で囁かれてゾクッとした。こいつは本当こういうところが油断ならない。
「……わかったから、とりあえずその話はおしまい」
「はーい。休憩時間もそろそろ終わりだから頑張ろうね、ご主人様」
 さっきまでが嘘のような無邪気な笑顔で鳥束はそう呟いた。

ーー
 離れの空き部屋。閉店後のこの場所は昼とはうってかわり急に静かになる。
この離れに部屋を持っているのは俺と鳥束のふたりだけ。ヒメと桜耶は別棟にいるので声は聞こえない。念のため部屋には鍵をかけて、部屋の明かりを一段階暗くした。
「ねえ、隼陽」
 メイド服のままで、鳥束はベッドに腰掛けている。俺も主人の服のままで、見つめ合った。
「……ご褒美、ちょうだい」
 頷いて鳥束の服のリボンを解く。鳥束の指が同じように俺のループタイを解いた。
「んっ……」
 鳥束が唇を重ね、舌を入れてくる。キスをしながら互いの服をはだけた。
 そのまま露わになった胸の飾りを弄ぶ。
「ひゃ……う……!」
 甘い声を漏らして、鳥束が小さく体を震わせる。そのままベッドに押し倒して、スカートを捲り上げた。
「お前……これ」
「えへへ……どうせならと思って……」
 フリフリのリボンとレースのついた女性ものの下着。既にじわりと濡れたその中に手を入れた。
「あ、やだ……きもち……わる……っ……」
 そしてそのまま鳥束のそれを掴んで弄ぶ。ぐちゅぐちゅという水音が大きくなり、ますます下着が濡れていった。
「ふ……あ……んっ……」
「……ここなら声出せるだろ。出していい。出したいんだろ?」
「ああ……っ……!」
 耳元で囁く。次の瞬間彼は限界を迎えたように体をのけぞらせて絶叫した。

「……あ……ああっ……」
「可愛い」
 キスを落とし、所有印を残しながら濡れそぼった下着を取り払い、代わりに秘部に指を挿れた。既に柔らかくなったそこは、何なく中指を飲み込む。
「ふ……」
 鳥束は全てを受け入れるように目を閉じ、増えていく指を受け入れていく。
 静かな部屋に響く水音と掠れたような声。それがたまらなく可愛くて、ひたすらからだを開くために指を動かす。
「っ、ああっ!」
「ここか」
「そこばっかりはやめっ……!」
 めくり上げたはずのスカートが振動でそこを隠すようにずり落ちて、じわじわと濡れていく。鳥束の中から溢れ出したマナが、太腿を伝っていく。
「ふ……あああ!」
 それを見て満足した俺は指を引き抜いて、代わりにそれを秘部に当てる。
「……ご褒美だよ、鳥束」
「はや……ひ……」
 ゆっくりと楔を打ち込む。
「んっ……」
 抵抗もせず、鳥束のからだは全てを呑み込んだ。
「……俺……頑張ったもんね……」
「ああ」
 だから。
「ひあ……っ……」
 鳥束の体を揺さぶりながら、そこを掴んで同時に弄ぶ。
「同時は……だめ……っ……ああっ……う……はあっ……」
 マナがこぼれ落ち、俺の指を濡らして絡みつく。そして鳥束は縋るように俺の肩にしがみついた。
 窓の外に月が見える。月光に照らされた金色の髪。紫の瞳。ほんのり赤く色づいた肌。響くは水音。甘い声と息づかい。
「はや……ひっ……」
「ああ。……召し上がれ」
 深く、深く楔を打ち込む。鳥束の中に刻まれるように、俺のマナが彼の助けとなれるように。
「いただき……ます……」
 掠れた声でそう答えて、鳥束は絶叫して身を震わせた。
 あつい。俺の中から溢れ出したマナと鳥束のマナが溶け合って熱を帯びる。
「……美味しかったよ……はやひ……」
 鳥束はそう言って微笑むと、俺の顔を引き寄せて口付けた。

ーー
「やれやれ。慣れない服は着るもんじゃないな」
「そう?俺は楽しかったけど」
 ふたり分の服を洗濯機に投げ入れてシャワーを浴びる。
「いつも同じじゃ飽きちゃうだろ?たまには違った俺を隼陽に見せたいわけ」
「俺は鳥束といると毎日違う顔を見れて本当飽きないけどな」
 彼はこの言葉にきょとんとして目を丸くした。なんか変なこと言ったか?俺。
「……隼陽、天然フラグ立てとか言われない?」
「……?」
 鳥束は答えずに、
「そ、そういうこと俺以外に言うのは禁止だから!俺は隼陽だけのものでいたいし実際隼陽だけのものなんだぜ?」
 少し拗ねたように耳元で囁く。
「……全くお前は俺のどこがいいんだか」
「ひゃ」
 呆れたようにこぼして、唇を塞いだ。
「心配しなくても好きでもない奴とこんな恥ずかしいことするわけないだろ」
「そ、そうだけど……隼陽は優しいから……俺の体質のこと知ったからじゃないかって」
「これだけ所有印残して何度もこういうことして、それでも信じられないのか?」
「っあ……っ!」
 キスで唇を塞ぎ、無防備な鳥束を引き寄せて、石鹸まみれの指を中へ。先程彼が声を上げた場所ばかりを呑み込ませた指でまさぐった。
「あああ!あっ……は……あうっ……」
 びくびくと体を震わせながら鳥束は浴室の床に座り込む。
「……だって……だって隼陽は……俺のこと……一度……忘れてるんだもの……」
「……忘れて……る?どういうことだ?」
「あ……ごめん……今の隼陽は……忘れて……聞かなかったことに……」
 いつもの鳥束と違う泣きそうな声。
「どういうことだ……鳥束……聞かなかったことになんか……できるか!」
 指を抜き、代わりに再び楔を打ち込む。
「……あ……ああっ………!言えない……言ったらはやひを傷つける……それに隼陽は……悪くない……悪いのは……優しい隼陽を信じられない……俺の方だ……」
「……っ……それでも……それでも俺はお前の口から……聞きたいんだよ」
「ふ……あああっ……!」
 水音に混ざり、肌がぶつかる音。
「お願いだ、鳥束……答えてくれ……俺は、お前と会ったことがあるのか?」
「……っ……」
 涙とマナをこぼしながら鳥束は唇を噛み締めて快楽に耐え、同時に口を閉ざす。
 苛立ちに任せてドロドロに濡れたそれを掴み、弄ぶ。
「やめて……ちゃんと話すから……これ以上はっ……ああああああ!」
 耐えきれないような絶叫と共に大粒の涙がこぼれ落ち、白濁したマナが飛び散った。

「……鳥束……」
 涙に濡れた顔を見て思い知った。
 鳥束が必要以上にスキンシップを求めるのは、行為を求めるのはマナ不足の体質だけじゃなくて……
「怖いんだ。俺はただ怖いだけ……もう一度隼陽に忘れられて置いていかれてまたひとりぼっちになるのが怖いだけ……だから所有印をいくら残されてマナを溶け合わせてからだを開かれても……隼陽のものになってるのに怖くて怖くてたまらない」
 小さく震える鳥束の体をそっと抱きしめる。
「馬鹿かお前は……ごめんな。俺、ゆー兄に助けられる前の記憶がなくて」
「隼陽は悪くない……隼陽だって忘れたくて忘れたわけじゃないし、きっと俺になんか再会しない方がよかったのに。俺、ホムンクルスだし、人間ですらないし」
「仕方ないだろ。会ってまた惹かれあったんだから。だから俺は……日野隼陽は鳥束をもうひとりにしないし、どこにもいかないって約束する。俺だって……お前がいなくなったら……またひとりになる。今のパートナーは、恋人はお前だけなんだ」
「はや……ひ……」
 そっと鳥束の頭を撫でる。
「信じてくれ。鳥束」
「……うん。やっぱり隼陽は変わってない……優しくて温かい、俺のパートナーだ」
 そっと鳥束は目を閉じる。指先が頬に触れた。
「……そうか、記憶を無くす前も俺たちはそうだったのか」
 思えばずっと、どこかで会ったような気がしていた。かつてパートナーだったというのなら納得がいく。
「そうだよ。だから俺の心とからだは隼陽を覚えていたんだぜ。ずっと……」
「改めてパートナーになってくれるか?今の俺と」
 鳥束は「もちろん」と言ってへらりと笑った。

ーー
「ねえ、隼陽」
 部屋のベッドでふたり布団に包まる。
「なんだ」
「大好き」
 寝息を立て始めた鳥束に、
「ああ、俺も大好きだよ。鳥束」
 優しく言ってそっとキスを落とした。
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