僕の恋は死の病

慈こころ

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第二章・後編

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「俺、白石灯真。席近いし、これからよろしくな」

 軽く明るい笑みをこちらに向ける、顔の整った少年。たまたま僕が灯真の前席に座っていたことから、僕たちはよく喋るようになった。
 僕は恋をして灰色になるのが怖くて、男とは喋らないようにしていた。かといって女子ばかりに話しかけると変なやつ扱いされるし、別に話題が合うわけでもない。特に灯真は見た目も性格もよかったし、このままいけば恋に落ちる可能性も考えられた。

 今まで通り、誰とも親密にならないように。間違っても、恋になんて落ちないように。

 僕は細心の注意を払っていたのに、灯真は違った。僕の塩対応も気にせず、灯真はことあるごとに話しかけてくる。わけがわからなかった。
 僕からして不思議極まりない行動が気になり、一度聞いてみたことがある。どうして、そんなにも僕に話しかけてくれるのかと。

「仲良くなりたいからに決まってんじゃん」

 灯真は真剣に聞いたことがバカらしくなるほど、あっけらかんとした口調で答えた。

 ──こんな僕でも、仲良くしてくれるのか。

 心を開いた瞬間だった。
 それから、僕はさまざまなことに気がつく。もちろん人気がある人ともよく会話しているのだが、機会を見つけては僕みたいな浮いているやつに話しかけ、会話を盛り上げている。前のクラスでは全然笑わなかったやつが心底楽しそうにしているところを見たとき、尊敬の念を灯真に抱いた。

 尊敬が恋に変わるのは、案外早かった。

「俺、凪のこと好きだわー」

 軽い口調から、その言葉が恋からではないことを悟る。理性は『違う』と叫んでも、本心は『もしかするんじゃないか』と期待を抱いた。

「何ぽかんとしてんだよ。ほら、この前英語のスピーチあったろ。あれ、すごいなって思ってさ」
「ああ……。かなり練習したからね。みんなも練習すればできるようになるはずだよ」
「そこに練習できるのがすごいんだよ。それに、英語できるのに全然自慢しないじゃん。そこが好きだって話してんの」

 灯真は屈託のない笑顔でへへ、と笑う。そのスピーチは、灯真の友達としてできることをしようと努力したものだ。だから余計に嬉しかった。

 少なくとも、恋に落ちるほどには。

「凪も頑張ってるし、俺も頑張るかぁ。わかんないことがあったら聞いてもいい?」
「全然、いつでもいいよ。……あ、そうだ。LINE交換しない?」

 これがチャンスだ。僕は勢いのままスマホを取り出し、交換を迫る。灯真は嬉しそうにニコニコしながら「ありがとう」と言ってくれた。口の端は、震えていない。

 交換して、微笑む。これが僕たちが仲を縮めるきっかけになった出来事だ。


 思い出すだけでも幸せの波が押し寄せ、不安を洗い流す。いつの間にか燃えるような焦りも消えており、呼吸はいたって正常なものになっていた。

 ふっ、と笑みを零す。灰色が広がっていなければ、完璧だった。背中に触れた指は、もうじき背中全体が灰色に染まることを告げる。

「……戻るか」

 ひとり呟いて、個室を出る。廊下は嵐の前のように静かだった。
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