仮想空間のなかだけでもモフモフと戯れたかった

夏男

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モノの街を出て東には広大な原っぱが広がっていた。
原っぱには街の門から踏み固められてできた道ができていてその道の傍には至る所に穴ぼこが空き、時折その穴から意思を持ったようなゲル状の物体や大きなウサギが飛び出して来ている。そしてそのゲルやウサギに大量のプレイヤーが群がりボコスカとゲルとウサギを殴っていた。


まあ、元々モンスターを倒したりするゲームではあるからモンスターに集団リンチしているプレイヤーに多少思うところはあるがツッコマない。ただ、一つどうしても言いたいのは


「これじゃあモフモフに近づけない…」


ウサギが穴から飛び出すとすぐにプレイヤーが倒しに来るためゆっくりテイムする時間が無い。


「まあみんな経験値が欲しいからね。」


フッカの話によるとβ版ではプレイヤーの人数が少なかったからなのか同じモノから東のエリアでもモンスターが穴から飛び出してすぐ倒されるということは無かったとの事だ。


「これじゃあモフモフ出来ないよ…」


ああ、足に力が…。
ずっと触れ合うことが出来ないと思っていた動物もふもふとをやっと触れる機会が舞い込んできたと楽しみにしていたのに、


「ほらほら、お姉ちゃん元気出して。(ホント、動物のことになるとダメダメね。)」


今何かボソッと聞こえた気がするけどフッカは私の肩に優しく触れると私を立ち上がらせた。


「ここは割と人が多いから少し離れた所に行ってみよ。そしたら誰にも気にせずモンスターをテイムできると思うよ?」


「うん。」


まだ望みが断たれた訳では無いと分かると不思議と足が軽くなった。










フッカの言った通りモノの街から少し離れたところに行くとプレイヤーの数はグッと減り穴から飛び出してノンビリと草をはむはむしているウサギ(物凄くもふりたい)やただフラフラと原っぱを徘徊するスライムもちらほら確認できた。


「それじゃあ、もう一度確認するよ?」


道中で原っぱに現れるモンスターについてのレクチャーをフッカから聞いたけどもう一回確認するらしい。


「掲示板によると、この付近で確認されているのはスライムとお姉ちゃんが楽しみにしてるラージットの2種類。スライムとラージットはこっちから手を出さなきゃ戦いにならないけどテイムに失敗すると戦闘になるから気をつけてね。」


自分から攻撃を仕掛けない限り襲ってこないモンスターをパッシブ、プレイヤーを発見すると襲ってくるモンスターをアクティブというらしい。

「それと、あくまでこの情報は掲示板から集めたものでもしかしたら情報に無いモンスターも出てくるかもしれないからわたしの目が届く範囲にいてね?
それじゃあ個人行動!」


最後に引率の先生のようなことを言われたがとりあえずやってみよう。


「…。」


私は近くで草をはんでいる全身が白いラージットに無言で近づくと腰につけたポシェット(初期装備で最初から腰に付いていた)からモノの街から出る前に買っておいた野菜スティック(ニンジン)を取り出した。


モンスターのテイムには2種類の方法がある。
一つ目はモンスターを弱らせてから『使役系』で覚えるスキル『テイム』を使うこと。
スキルとは才能によって使用することができる能力のことで、才能が成長することによってスキルも変化するらしい。

ただ、モンスターを弱らせてから『テイム』を使うと失敗した場合モンスターが逃げてしまうのと、私はあまり自分の友達になってくれる子を傷つけたくないからもう一つの方法を試してみようと思っている。

もう一つの方法は、モンスターと触れ合ったり餌付けすることによって仲良くなってから『テイム』を使用するという方法。
この方法でテイムしたモンスターはテイムしたばかりでもなつきやすく、動物もふもふと仲良くなりたい私にはうってつけの方法である。

しかしこの方法も確実にモンスターをテイム出来ないことと、失敗するとモンスターと戦闘状態になってしまい、友達になろうとした子と戦わなければいけなくなるのである。



私とラージットの距離が3メートル程まで来たとき、私の存在に気付いたのか草をはんでいたラージットは突然顔を上げた。


「大丈夫だよー、ゴハンをあげるだけだよー。」


警戒しているようなのでニンジンをラージットの目の前で軽く揺らしながらゆっくりと近づく。
ラージットの目の前まで来ると、私はゆっくりとニンジンをラージットに近づけた。

そしてラージットとニンジンが触れ合った瞬間。


「うわ、、」


私を気に入ったのか、突如ラージットが私の腹に頭を埋めその衝撃で私は尻餅をついてしまった。
私は恐る恐るラージットの頭を撫でてみた。

モフっ

「!?」


これは、すっ、凄い。
ラージットは私の想像でモフモフしてきた他のどの動物もふもふよりも柔らかく、あったかかった。

「キーッ!」

ラージットは私の撫で撫でが気持ち良かったのか突っ込む力を強め…


「お姉ちゃんそれ攻撃されてるよ!?」


へ?
フッカが気がついたときにはもう手遅れで私の身体はポリゴン化して砕け散った。
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