仮想空間のなかだけでもモフモフと戯れたかった

夏男

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デンワ! デンワ! デンワ!


ずっと目の前が真っ暗の何も無い空間に立っていると思っていたのでいきなりの着信音と目の前に現れたウィンドウに思わず体がビクッと反応した。


どうやら私の携帯電話にかかってきたものが転送されたらしく電話の相手は…、風香のようだ。


『もしもし、お姉ちゃん?
 オンラインの状態になっているからもうモノの街に転移してると思うんだけど今何処にいるの?』


どうやら私はもう『TWO』の世界に入っているらしい。
だけどこんな闇の中で何かするようなゲームではなかった筈だけど。

「それが私にもよく分からなくて、オープニングをスキップしたら目の前が真っ暗でかれこれ3分くらいこのままなの。どうしたらいい?」


私がそう言うと風香ああなんだ、と答えた。


「それ多分だけどお姉ちゃん棺の中だね。」


風香の話によると初めて『TWO』にログインしたプレイヤーは全員もれなく教会のプレイヤー専用の棺の中に転移されるらしい。

この棺はプレイヤーがゲーム内で死亡すると転移されるそうで、私がスキップしたムービーでは最終的にはプレイヤーはモノの街に向かう途中でドラゴンに遭遇→一瞬でやられて棺に納められてそこから動くことができるようになるらしい。

運営さんとしては死んだらここに戻ってきますということを初めて遊ぶプレイヤーに教えるつもりなんだろうけどいささか分かり…ああ、私はムービーをスキップしたからか。


『取り敢えず教会から出て右にある広場で落ち合おう。いいね?』


そう言うと風香は私の返事を待たずに電話を切った。
…相変わらずせっかちだなぁ













私は教会(大きなスーパーぐらいの規模)を出ると風香に言われた通り右へ向かった。

モノの街は以前テレビで見た昔のヨーロッパの街並みによく似ていて石造りの道路が敷かれている。
中世ファンタジーということで若干懸念していたこともあるが多分上下水道が普及した世界線なんだと思う。

閑話休題
風香の言っていた広場というのは道を歩いていたらすぐに見つかった。どうやら待ち合わせの定番スポットのようで大きな円形の広場の中は様々な格好をしたプレイヤーや屋台で賑わっていた。

さて、風香はっと…

「東の森に行きます!ヒーラー、魔法メイジの方いませんか!
今なら近接、守備《タンク》、盗賊シーフ揃ってますよ!」

「そこの森で取れた新鮮な鳥の焼肉だよー!
買っていきなー!」

「誰かウルフの素材持ってないですか!?
買取、交換どっちでもOKです!!」


うん、探すのは一筋縄では行かなそうだ。


「あ、お姉ちゃん…?」


風香を探して五分ほどが経ったであろうか。後ろから呼び掛けられた気がしたので振り替えるとそこには白い髪にレモンのような色をした目の美少女が…って風香だ。


「もう、探したよふう…「コラ!!」」


私が風香の名前を口に出そうとすると叱られてしまった。


「…色々突っ込みたいところはあるけどまず、こういうオンラインの場では相手の本名は言わないっていうのが暗黙の了解なの。だからここでは私のことは『フッカ』って呼んで。
後、お姉ちゃんまさかだけど見た目何も変えてないの?」


「あー、身体を弄ってなにかあると怖いから…。
何か問題があった?」


私がそう言うと風香…もとい、フッカは呆れたようにため息をついた。


「あのね、テレビとかで問題になっているのは自分の骨格とか体格を現実の身体から大きく変更しちゃった人たちのことなの。私みたいに目とか髪の色ぐらいだったら体になんて影響はないの。」


それにね、とフッカは続けた。


「このゲームも含めて最近のVRゲームはPVにプレイヤーの映像を使うことが多くて、もしもお姉ちゃんがそのPVに映り込んじゃったりしたら、ただでさえ目立つのにお姉ちゃんの顔が全プレイヤーに知れ渡っちゃうことになるかもしれないよ?」


「え、どうしよ…。」


まさか、ゲームを始めて10分でキャラクターを消去しなければならなくなるとは


「別にデータを消す必要はないよ?
髪型とか目の色ぐらいだったら次の街に行けば変えることが出来るから。まあ、当分はそこに売っているお面でも付けとけば?」


風香が指を刺した方を見るとそこにはよく縁日で見かけるようなお面屋さんの屋台が立っていた。ただ、普段目にするようなアニメや漫画のキャラクターのお面の他にもヴェネチアのお祭りで使われるような派手な装飾の付いた仮面や、何処かの民族がまじないで使いそうな無気味な木の仮面みたいなものも売っているのがゲームっぽい。


「始めたばかりだからどうせお金あんまし持ってないでしょ?私はベータ時代のお金をそのまま持って来れたから買ってあげる」


「あ、ちょっ」

そう言ってフッカは屋台の方へ行ってしまった。
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