仮想空間のなかだけでもモフモフと戯れたかった

夏男

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目を開けるとそこには床も壁も天井も全てが真っ白い部屋に立っていた。部屋の真ん中には巨大な鏡がポツンと立っていてるだけだけど寂しさなく不思議と温かみのある部屋だった。


「『Talent World Online 』へようこそ。ここでは貴女がゲーム内で実際に動かすアバターを作成していただきます。まずは鏡に全身が映るように立ってください。」


どこからともなく聞こえてきたアナウンスの声は柔らかい女性の声だった。
私は言われるままに鏡の前に立つと鏡面の横側が泡立ち『髪色』や『鼻』など様々な項目がこと細く現れた。どうやらプレイヤーの顔をデフォルトにアバターを作るらしい。


「ご自身の体格、顔立ちからアバターを過度に変更されますと現実世界での生活に支障をきたす場合があり大変危険です。こういった事象につきまして当社は一切の責任を負いかねますのでご了承ください。」

これは以前テレビのニュースでも取り上げられていた話で、背が低い人が仮想空間内のゲームで高身長のアバターを使っていたら現実世界での歩行が難しくなってしまい車椅子での生活を余儀なくなったり、顎のラインを現実よりもかなり細くしたアバターで遊んでいた人が現実世界で物を食べづらくなったとそのゲームを運営していた会社を訴えたそうだ。

この事件の後一時期全てのゲームでアバターの容姿を変更するのに制限がかかったらしいがプレイヤー側からの制限反対の声がとても大きかったため最近では自己責任でアバターを変更することになったと風香が言っていた。

仮想空間と現実世界でのギャップによる身体の異常というのは個人差があるらしいけど、私は少し怖いからアバターは変更しないでおこう。

私は『決定』と書かれた欄に触れると鏡全体がシュワシュワと泡だち鏡は装飾のついた少し大きめの箱に変身した。

屈んで蓋を開けてみると中には碁盤状に仕切りが切られその一つ一つに『近接戦闘系』や『魔法戦闘系』などと書かれた小さなラベルが貼ってある植物の種が入っていた。


「それはこれからゲーム内で様々な成長を見せる貴女の『才能』です。貴女のゲーム内での行動や選択したことによってその種は成長していきます。」


私が『ビジュアル系』というラベルの種(紫色のゴマの様な見た目と大きさ)をシゲシゲと見ていると再び女性の声がした。

風香の話によるとこの『種選び』はゲーム内での自分の職業や戦い方を左右する重要なものらしい。

例えば『近接戦闘系』の種を選んでモンスターと剣で戦っていれば『剣士』に、拳で戦っていると『拳闘士』といった具合に才能が変化していき特別な体験や選択をすることで特殊な才能に成長したりするそうだ。

本来ならここで何を取るか迷いそうだがしっかり風香からリサーチ済みである。


「取るのは『使役系』の種でよろしいですか?よろしかったらその種を胸に当ててください。」


『使役系』とはその名の通り様々な動物やモンスターといった生物からゴーレム、人形などの無生物を使役して戦うための才能である。

そしてこの才能を持った状態で獣やモンスターを仲間にすると才能が『テイマー』というモフモフ専門の才能になることが出来るらしい。

私は『使役系』の種(白くてスーパーボール位の大きさ)を胸に当てると種は私の中に吸い込まれた。

完全種が吸い込まれると箱は字面に沈んでいった。どうやら最初には複数の才能を取ることはできないらしい。


「『才能』はゲーム中に購入したり様々な形で入手することができます。

…それでは最後に貴女のゲーム内で使用する名前を教えてください。」

これは口頭でいいのか。それにしても名前かぁ。
テイマーになることばかり頭がいっぱいで何も考えていなかった。
うーん、


「『ハユ』でお願いします。」


なんて事はない名字と名前から一文字ずつ取っただけだ。こんな安直で良かったのかな?


「承知しました。プレイヤー『ハユ』様ですね。
 それでは『Talent World Online 』の世界をお楽しみください。」



アナウンスの女性の声がそう言うと私のいる白い部屋が溶け出し、気づくと気持ちのいい日差しに照らされた広大な草原を飛んでいた

風香の話によるとこれはオープニングの演出らしく、この世界の様々な場所やプレイヤーを模したキャラクターの冒険を音楽と共に見ることができるらしいが


「ムービーをスキップしますか?」


左手で顔を払う動作をすると目の前に「YES/NO」のボタンが現れアナウンスの女性の声が再び聞こえた。動物をモフモフしに来た私には冒険など二の次、「YES」のボタンを押すと私は宙にピタリと止まり、ちょうどムービー内でこちらに笑顔で手を振って来ているおじさんもすごい顔で動きが止まってしまった。


「それでは『モノ』の街に貴女を転送いたします。」


女性の声が聞こえると私の目の前にいたすごい顔になってしまっているおじさんの顔は無くり、目の前がまっくらになった。
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