私だけが知っている。

四季凪 牡丹

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現実

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今回の天音凌の新作の話は男の主人公が仲間たちと向き合うために様々な葛藤を乗り越えていく物語だった。主人公は一般人なのに、登場人物の闇が深かったり仲間とその周りの接点があって解決してはまた謎が増えていくという蟻地獄のように沼に引きずられながらも目を逸らさずに向き合おうとする中々の読み応えがあるストーリーだった。まだ、途中だけど終わりが見えない。やっぱり天音凌様の本が好きだと素直に思った。

私もこんな風に私も物事に向き合えるのかな。立花さんへの気持ちが恋なのか。
憧れなのか。今まで数々の本を読んできたけど、自分自身の気持ちと重なり合うのは初めての経験だった。
明日の帰り道、また本屋に行こう。
本にしおりを挟み寝た。

‥‥

時が進むのも早く立花センセイの研修期間が残り3日となった。
朝のHRで流花ちゃんセンセイはクラスのみんなに予定を伝えていた。

「はい、おはよーうございます!
前回は立花センセイと面談して各自考え方はすこーしでもまとまったかな?今日の5限と6限は私がハイジャックしたよ!
なので、5限と6限でみんなと私が面談しまーす!」
ハイジャックって…。独特な言葉のチョイスに思わず小さく笑ってしまった。隣の奏に至っては「なんで、そんなに元気にハイジャックって。」と、流花ちゃんにツボってた。

うーん、それにしてもあれから進路についてなんてまともに考える余裕がなかったからどうしたものか。まあ、午前中に何かしら流花ちゃんを欺けるよーに考えよう…。
と、思っていた私の考え方は甘かった。
もう、砂糖のように甘かった。

‥‥
結局、午後までに考えがまとまらず
目の前の流花センセイと無言で対峙していた。
「香坂さん、立花センセイから前回白紙で進路について悩んでる事は聞いてたけど
それから、改めて自分の可能性とかやりたい事とか何かしら見つかった?」
流花センセイが珍しく先生ぽくみえる。
まあ、先生なのには変わりないけど。
「あれから、考えようとしたことは何度もありましたけど、特にこれがすきだ。とかもっと深く知りたいってことは無いです」
「難しいことかもしれないけど、高校3年生で初めて進路について聞くよりは前段階として今から聞いて自分自身で方向性を決めていって欲しい。そういう想いが私たち教師の中にはあるんだよ。試しに大学に行ってチャレンジだ!なんて、簡単なようでこれからの将来逆に重荷になるような事を私は無責任に言ったりしない。あくまで
これからを決めるのは香坂さんなんだよ」
ここまで、流花先生に真剣に言われるとは
思わなかった。でも確かにそうだった。
これからの私にとって、進路は人生に関わる重要なことだから、助言はするけど最後に決めるのは己自身なのだと。普段温厚でふわふわの流花先生だからこその真剣な言葉は私の胸にスッと入ってきた。
「まあ、あと1年間はあるからね!
それまでに明確に決めておくとよいのだよ!」
さっきまでとは違い笑顔にふわふわモードになった流花先生はひとまず進学にしておこうね。じゃないと、今から就職組のセンセイたちがヤル気になっちゃうからねぇーと避難場所というカタチで進路に丸をつけてくれた。多分これはどちらにも丸をつけられなかった私に対しての最大限の流花先生なりの優しさだ。

‥‥
私は久しぶりに立花さんと出逢った本屋に
来ていた。相変わらず本棚は高いけど、
見上げる本の数々は壮観の眺めでもある。
ここで出逢ったんだと、改めて再認識していると、一冊の本が目に止まった。それは
普段あまり読まないエッセイ本だった。
軽くあらすじを読んでみると、今の私のように選択しなければならない時に私がどう動いたか。それを選択した事によるメリット、デメリットを客観的に捉えたみた。という不思議な内容だった。気にはなったけど、多分今じゃないな。と思い収穫が無いまま外に出た。

大通りに出ると城西大学前行きのバスが目の前を通り過ぎた。立花さんはきっかけがあって、大学へと進み本格的に目指している。私は流花先生の優しさに甘えている部分もある。バスの方向を見つめながら立花さんとの出逢いを無駄にしたくないな。と思った。
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