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日常

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五月、初夏の風が教室内を吹き抜けた次の瞬間
私の鼓膜には怒号が響き渡った。

「香坂!てめぇ、いい加減にしやがれ!?
な、ん、で、俺の授業の時だけ寝やがる!?」

「うるさっ。」

「てめぇ、マジでふざんけんなぁぁー!」

ある意味、このクラスでこの男が叫ぶのは皆が
見慣れた光景なのだ。良くも悪くも昼休み後の五限で初夏のこの心地よい気候は眠気を誘うのだから仕方ないのでは。と思ってしまう。

「楽先生、そうカリカリするなって。
香坂起きたし再開してー。」

「わぁーたよ。」

ぶつぶつと文句を言いつつ授業を再開し始めたこの男は我がクラスの副担任、国語科の黒田楽だ。面倒見が良く教師軍の中でも学生と年齢も比較的近いため友達感覚で好かれているのだ。
なんなら、購買で男子たちと目玉商品を狙っている姿を見ることも多々ある。

「おーい!香坂!
また寝始めたら容赦なく単位落とすからな。
つーか、教科書開け」

面倒見がいいことはいいことだが、
過干渉の対象にされるのは解せぬ。


背中をポンとされて振り返ると、茶髪で前下がりボブの彼女、九条奏は申し訳なさそうに眉を下げてて「慈雨ごめんね。」と言ってきた。

「なんで、奏が謝るの?
なーんにも悪いことしてないじゃん」

「うーん、そーなんだけどさ、
気づいてたけど放置してたから?」

ふわっと、軽い感じで言われた。
その言葉に隣の席の男子、音無雫は堪えきれないといった様子で肩を震わせ始めた。

「なに?」

「いや、だってさ!九条お前が楽ちゃんに目をつけられはじめた時、すぐに気づいて1人であわあわしてやんの。放置してたことには変わりないけど、あれは放置だけど戸惑いが隠せなさすぎてて…」

「もうっ!おっちゃん嫌い!」

奏が少しキレかけても音無こと、おっちゃんは変わらず肩を震わせているだけだった。
教科書を開いてノートも準備したが、私たちの様子が様子なため教卓にいる彼は再度わなわなと震えていた。

「単位欲しいんで真面目に受けるので」

一声告げると盛大な溜息を吐きながらその後は
順調に授業が進んでいき授業終了のチャイムが
校内に響き渡った。
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