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薬草売りの少女⑧

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 勇者や英雄が錬金術の心得をスキルレベルAまで上げることなどはしない。もっと戦闘に向いたスキルを優先させるから取得してもそのままだ。
 優秀な錬金術師でも人族ならスキルレベルDかCが限界になるので錬金術Aのスキルはとても貴重だといえる。
 スキルの性能はほとんどの物質を見るだけで理解し、分子の結合を分解し、そして再構築が可能にすることだ。
 
 そのスキルを利用して普通のグレートディアの角と薬草からホワイトディアの角の粉末を作り出していたそうだ。しかも純度も高純度。欲しがるものが多いのも納得できるし、流通していない素材なのに粉末を作っていた謎も分かった。 

「ねぇ、ヤマダってこの世界とは違うところか来た人でしょ?」

 少し驚く表情はしたものの、すぐに素に戻った。

「……なんで分かった? 魔王にはそういうのが分かるのか?」

「似たような人を知ってるの。その人も勇者でもないのに高いスキルレベルを複数持ってたし、ここじゃない世界から来たって言ってたね」

 もちろん私の事だ。

「スキルレベルAってのは相当凄いらしいな。オレには異世界言語ってやつと、錬金術の心得ってやつと、体術の心得ってやつがある」

「それ他の人にはあまり言わないほうがいいよ。スキルってのは切り札なんだから」

「わかった、わかった」

「ここからが本題なんだけど、その凄いスキル使ってある物を作ってほしい」

「なんだ?」

「砂糖だよ」

「砂糖? そんなのどこにでも売って――」

「売ってないよ!!」

 近所にスーパーかコンビニが有ると思っているのだろうか? 
 この世界にそんな便利な物なんて無い。

「ちなみにヤマダは転移してどれくらい経つの?」

「もうすぐ4か月ぐらい経つかな……」

「それでも気づかなかったの? 砂糖は貴重なんだよ?」

「知るかよ。料理なんてしねぇし、甘いもん嫌いだし、食わねぇから分からねぇよ。魔王は魔王なのに料理してるのか?」

「もちろん。するよ」

「魔王が料理……この世界の魔王ってのはガキだったり料理好きだったりで、本当に魔王かまた怪しくなってきたな」

「それよりも、砂糖だよ。作れるの?」

「オレの錬金術なら余裕だ。空気があれば無限に作れる」

 分からない人から見れば無か有を生み出しているようにさえ思える。まさに神の所業。
 空気中の水分と二酸化炭素を利用し分解、再構成することができる、これがスキルレベルAというこだ。ただ無限に作れるとは言い過ぎだと思う。

「じゃ、さっそく作ってよ」

「今は無理だ。疲れてっからな」

 しかたないのでしばし休憩。タイムが持ってきた水を飲ませ、椅子とテーブルを用意してくつろいでもらう。砂糖を作るまでは空間収納から出すつもりはない。 

「あのよ、オレからも1ついいか」

「なに?」

「オレ、元の世界に帰りてぇんだよ。なんか方法ねぇかな。地球の日本って場所なんだけどよ」

「……知らないよ」

 信用が無いので知っていることを明かすつもりも慣れあう気も無い。

「魔王の力でも無理なんかな。常磐線乗って居眠りしてて気がついたらこっちの世界だったんだ。オレを召喚した奴らは勇者じゃねぇから出てけって、城を追い出されてすげー大変だった」
 
 天を仰でため息をついている。

「……あぁ、彼女どうしてっかな。もう他の男んとこいっちまったかな。バイク乗りてぇな。読みてぇ漫画もあったんだけどなぁ、連載再開してっかなぁ」

 私の転生前の記憶が思い出される。確かに前の世界の方が安全だし、暮らしやすいし、娯楽も多かった。
 
 でも私はこの世界の方が好きだ。戻りたいとは思わない。

「そろそろどう? 砂糖作れそう?」

「ん? おう、やってみるか」

 スキルを発動する時に両手を合わせるのは癖なのだろうか。そんなことをしなくても発動するのだけど。

 などと思っているうちに輝く手のひらからモリモリと白い粉が溢れてくる。
 
「どうだ! こんなもんで」

「いいと思うよ。ちょっと味見してみるね」

 鑑定眼で見ると麦芽糖となっている。なめてみるとまぁまぁ甘い。甘味料としては十分だ。
 普通の砂糖じゃないのは無意識に甘いもの嫌いが反映され甘さひかめになってしまったのだろうか。

「砂糖ほど甘くないけど売れるよこれ」

「いくらで売れるんだ?」

「本物の砂糖なら金貨1枚で金貨と同じ重さで取引されてるけど、甘さが低いからそれなりに安くしとかないとね」

「え? 砂糖と金貨が同じかよ、ぼったくりじゃねーか」

「ぼったくりじゃないよ。言ったでしょ貴重だって」

「聞いたけどさ、そんなに貴重だって思うわけねぇ―じゃん」

「早く慣れなよ。この世界に」

「……わーったよ」

 売るとしても、大々的に売るわけにはいかない。砂糖を生業としている人に迷惑がかかる可能性があるからだ。
 これはあくまで薬として売りだす。販売するところはもちろん薬屋だ。
 
 薬を売るのは薬師の専売になる。たとえ甘い物だとバレたとしても薬だと言い張れば商人から文句をつけづらいのがいい。
  
「これ混ぜておこう」

 取り出したのは白い小さな木の実。それをつぶして粉末にする。無味無臭なので甘さを邪魔することはない。ちなみにこの木の実の効果は疲労回復の効果がほんの少しだけある。

「どうなるんだ?」

「一応薬だからね、そのまま使っても効果があるように疲労回復薬にしておくんだよ」

ちゃっちゃっと混ぜれば完成。

「これを瓶詰めにして売る」

 1瓶300gで1000メルク。そしてこの専用の瓶を持ち込みで中身だけなら900メルク。この値段なら庶民でも手が出ると思う。
 そして薬局で売っている疲労回復薬が砂糖の代用品になるという噂を流す。甘い刺激に飢えている奥様たちなら噂の拡散力は冒険者以上だ。

「そんな簡単に売れるかよ」

 リスクの少ない失敗を恐れる方が、自分の可能性を自分で潰していることになってしまう。それはもったいないだけだ。 

「きっと売れるよ、だってそれぐらいこの世界は甘さが足りてないからね。それに上手くいかなくてもいいんだよ。その時はその時に次の手を考えればいいだけなんだから」

 儲かった時のことを考えて瓶代を頂くことも忘れてはいけない。
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