175 / 200
薬草売りの少女⑤
しおりを挟む
ドラゴン討伐の報酬は久しぶりにまとまった収入だったので、帰りに店に寄って爆買いをしていく。消費アイテムから食材、出店の食べ物までじゃんじゃん買っていく。どんなに買っても空間収納内が満杯になるなんてことはなく、時間停止で保存も効くため無駄にはならない。
お店の人の呼び方は、変わらず「ケーナ嬢ちゃん」や「ケーナちゃん」と呼ぶ人もいれば、仰々しく「魔王様!」と呼んでくれる人もいる。どちらにせよ私が町の皆に受け入れてもらえているようで心地がいい。
でも「この棚全部とこっちの棚全部」「あるだけ買っていくわ」などの爆買いにはさすがに驚いたようでどこの店主も目を丸くしていた。
この世界ではお金を貯めるより、どんどん使って形ある物や経験などに変換しておいた方があとあと役に立つことの方が多い。
それに私がお金を使えばこの町も少しは潤う。この程度で経済を回すことはできないが町の人がちょっとでも潤えば、それでもいいといった感じだ。
目についた薬屋にも片っ端から寄っていき、ポーション・毒消し・麻痺直しなどの大量発注と前金を渡しておいた。せめてもの罪滅ぼしのつもり。
日が沈むころに家に帰ると、グランジが既に待っていた。
「待たせちゃったね」
「いいや、気にしなくていい。今日はここで飯をいただくつもりだからな」
「……ま、別にいいけど。ホワイトディアの角の出所は分かったの?」
「その件だが、さっぱりだ」
肩をすくめ、あまりの情報の無さにグランジも驚いたという表情だ。
「え、なんで? あの角は希少な素材なんでしょ? 買い取りに持ち込む人なんて限られてるじゃないの?」
「はじめは俺もそう思っていたさ。だが調べてもカスケードでの最近の買い取り記録が無い。カスケードだけじゃなくアヤフローラ全体でも最後の取引記録は10年以上前になる。買い取りがなければ当然素材の販売もなかった」
「そんなに希少なの? 他の国は?」
「昔はそれなりに買い取りがあったそうだが、今はかなり希少な素材になってきているらしい。他国は調べきれてないが、難しいだろうな。ホワイトディアの生息域はアヤフローラ限定だからな。ここでは年1ぐらいで目撃情報が入るが、他国では目撃情報すらないのが普通だ」
「じゃあ、自分で狩って、素材を売らずに使ってるってことかな」
「可能性としてはそうだが」
「何が引っかかるの?」
「そもそもホワイトディアはグレートディアの特殊個体的な存在だ。グレートディアが進化しているとも言われている。ただでさえ強いグレートディア、その特殊個体を狩るとなると熟練ハンターを集めたり、串刺し以上冒険者を集めたりする必要がある」
「こっそり1人で狩るのが難しいってこと?」
「そうだな。だから狩りや討伐となればパーティーメンバーが募集される。その記録がないのはおかしい」
「他にホワイトディアの角の入手方法はないの?」
「どこかに保管されている素材を盗み出すとかになってしまうが、最後の角の取引が10年以上前、それすら今どこにあるのか分からないのに難しいだろうな」
「そう……わかったよ」
よほど上手に商売をやっているのだろう、ならこちらも気合を入れて探すしかない。
空間収納から金貨をガバッと掴んでグランジに渡す。
「報酬だけどこれで足りる?」
「おいおい随分気前がいいな。40枚ぐらいか。いいのかこんなに」
「まだ調べてほしい事があるからそれの準備金も入ってるよ」
「もちろん引き受けるぜ、で内容はなんだ?」
簡単に言えば監視と尾行だ。
粉末の入った小さな包みを仕入れるタイミングを狙うしかない。対象は最初に見つけた薬師のブレドニロンだ。家の場所を教え、ブレドニロンが取引する相手を更に尾行するといった感じだ。
「たまに報告に来て、追加報酬もその時渡すよ。1日金貨3枚でどう?」
「分かった。明日から監視しよう」
「よし、じゃあ、作戦も決まったことだし、夕食にしますか。今日の夕食はサービスにしておくから」
「お、ありがたいね」
こちらのタイミングを見計らってハクレイが食器を持ってきてくれる。
今夜の料理は肉料理だ。
ハクレイの料理の腕前はもう私を超えているかもしれない。グランジの食いっぷりをみればよくわかる。
しかし、グランジは手を止め、何かを思い出したように話し始めた。
「そういえば、3日前ここから帰った時、街中でやたら視線を感じたんだ。家に帰るまで原因は分からなかったが……俺の背中に落書きしたのはどこの妖精だ」
「ちなみに何が描いてあったの?」
「いやなんの絵なのかは分からなかったが」
グランジはまだ部外者扱いなのでこの家の妖精達を見ることはできないし、声を聞くこともできない。それを分かっていながらプリツがグランジの目の前に現れ
「あんたの背中にはね ”お菓子泥棒” っていっぱい書いてやったのよ!!」
と高らかに宣言していた。
しかたないので私が通訳してグランジに教えておいたら、さすがにクッキーを全部持って行ったことは悪かったと反省していた。
グランジの帰り際にお守りを渡す。私のお手製お守りで見た目は可愛い猫の顔だが、その中に小さな魔石が入っている。
「念のためにこれ持ってて」
「なんだこれは、お守りか? でもなんでジャガイモなんだ?」
「は? 猫ですけど」
失礼な奴だ。プリツと同じことを言っている。
グランジはきっと妖精のような善くない目をもっているのだろう。フランとハクレイは芸術的で独創的と褒めてくれた逸品だ。
「なんでもいい、持ってろと言うなら持っておく。作戦は明日の昼から、報告には明後日の朝来るからよろしくな」
「よろしく頼んだよ」
作戦開始から5日間、ときどきグランジが報告に来てくれていた。
ここまでは特に動きはなく、相変わらずそこの娘が薬草を売りながら、小さな包みを売っていたらしい。
しかし5日目の夜、そろそろ寝ようかというタイミングでグランジに渡してあったお守りから知らせが届く。
【所有者の残りHPが50%を下回りました】
お店の人の呼び方は、変わらず「ケーナ嬢ちゃん」や「ケーナちゃん」と呼ぶ人もいれば、仰々しく「魔王様!」と呼んでくれる人もいる。どちらにせよ私が町の皆に受け入れてもらえているようで心地がいい。
でも「この棚全部とこっちの棚全部」「あるだけ買っていくわ」などの爆買いにはさすがに驚いたようでどこの店主も目を丸くしていた。
この世界ではお金を貯めるより、どんどん使って形ある物や経験などに変換しておいた方があとあと役に立つことの方が多い。
それに私がお金を使えばこの町も少しは潤う。この程度で経済を回すことはできないが町の人がちょっとでも潤えば、それでもいいといった感じだ。
目についた薬屋にも片っ端から寄っていき、ポーション・毒消し・麻痺直しなどの大量発注と前金を渡しておいた。せめてもの罪滅ぼしのつもり。
日が沈むころに家に帰ると、グランジが既に待っていた。
「待たせちゃったね」
「いいや、気にしなくていい。今日はここで飯をいただくつもりだからな」
「……ま、別にいいけど。ホワイトディアの角の出所は分かったの?」
「その件だが、さっぱりだ」
肩をすくめ、あまりの情報の無さにグランジも驚いたという表情だ。
「え、なんで? あの角は希少な素材なんでしょ? 買い取りに持ち込む人なんて限られてるじゃないの?」
「はじめは俺もそう思っていたさ。だが調べてもカスケードでの最近の買い取り記録が無い。カスケードだけじゃなくアヤフローラ全体でも最後の取引記録は10年以上前になる。買い取りがなければ当然素材の販売もなかった」
「そんなに希少なの? 他の国は?」
「昔はそれなりに買い取りがあったそうだが、今はかなり希少な素材になってきているらしい。他国は調べきれてないが、難しいだろうな。ホワイトディアの生息域はアヤフローラ限定だからな。ここでは年1ぐらいで目撃情報が入るが、他国では目撃情報すらないのが普通だ」
「じゃあ、自分で狩って、素材を売らずに使ってるってことかな」
「可能性としてはそうだが」
「何が引っかかるの?」
「そもそもホワイトディアはグレートディアの特殊個体的な存在だ。グレートディアが進化しているとも言われている。ただでさえ強いグレートディア、その特殊個体を狩るとなると熟練ハンターを集めたり、串刺し以上冒険者を集めたりする必要がある」
「こっそり1人で狩るのが難しいってこと?」
「そうだな。だから狩りや討伐となればパーティーメンバーが募集される。その記録がないのはおかしい」
「他にホワイトディアの角の入手方法はないの?」
「どこかに保管されている素材を盗み出すとかになってしまうが、最後の角の取引が10年以上前、それすら今どこにあるのか分からないのに難しいだろうな」
「そう……わかったよ」
よほど上手に商売をやっているのだろう、ならこちらも気合を入れて探すしかない。
空間収納から金貨をガバッと掴んでグランジに渡す。
「報酬だけどこれで足りる?」
「おいおい随分気前がいいな。40枚ぐらいか。いいのかこんなに」
「まだ調べてほしい事があるからそれの準備金も入ってるよ」
「もちろん引き受けるぜ、で内容はなんだ?」
簡単に言えば監視と尾行だ。
粉末の入った小さな包みを仕入れるタイミングを狙うしかない。対象は最初に見つけた薬師のブレドニロンだ。家の場所を教え、ブレドニロンが取引する相手を更に尾行するといった感じだ。
「たまに報告に来て、追加報酬もその時渡すよ。1日金貨3枚でどう?」
「分かった。明日から監視しよう」
「よし、じゃあ、作戦も決まったことだし、夕食にしますか。今日の夕食はサービスにしておくから」
「お、ありがたいね」
こちらのタイミングを見計らってハクレイが食器を持ってきてくれる。
今夜の料理は肉料理だ。
ハクレイの料理の腕前はもう私を超えているかもしれない。グランジの食いっぷりをみればよくわかる。
しかし、グランジは手を止め、何かを思い出したように話し始めた。
「そういえば、3日前ここから帰った時、街中でやたら視線を感じたんだ。家に帰るまで原因は分からなかったが……俺の背中に落書きしたのはどこの妖精だ」
「ちなみに何が描いてあったの?」
「いやなんの絵なのかは分からなかったが」
グランジはまだ部外者扱いなのでこの家の妖精達を見ることはできないし、声を聞くこともできない。それを分かっていながらプリツがグランジの目の前に現れ
「あんたの背中にはね ”お菓子泥棒” っていっぱい書いてやったのよ!!」
と高らかに宣言していた。
しかたないので私が通訳してグランジに教えておいたら、さすがにクッキーを全部持って行ったことは悪かったと反省していた。
グランジの帰り際にお守りを渡す。私のお手製お守りで見た目は可愛い猫の顔だが、その中に小さな魔石が入っている。
「念のためにこれ持ってて」
「なんだこれは、お守りか? でもなんでジャガイモなんだ?」
「は? 猫ですけど」
失礼な奴だ。プリツと同じことを言っている。
グランジはきっと妖精のような善くない目をもっているのだろう。フランとハクレイは芸術的で独創的と褒めてくれた逸品だ。
「なんでもいい、持ってろと言うなら持っておく。作戦は明日の昼から、報告には明後日の朝来るからよろしくな」
「よろしく頼んだよ」
作戦開始から5日間、ときどきグランジが報告に来てくれていた。
ここまでは特に動きはなく、相変わらずそこの娘が薬草を売りながら、小さな包みを売っていたらしい。
しかし5日目の夜、そろそろ寝ようかというタイミングでグランジに渡してあったお守りから知らせが届く。
【所有者の残りHPが50%を下回りました】
2
お気に入りに追加
889
あなたにおすすめの小説
僕のおつかい
麻竹
ファンタジー
魔女が世界を統べる世界。
東の大地ウェストブレイ。赤の魔女のお膝元であるこの森に、足早に森を抜けようとする一人の少年の姿があった。
少年の名はマクレーンといって黒い髪に黒い瞳、腰まである髪を後ろで一つに束ねた少年は、真っ赤なマントのフードを目深に被り、明るいこの森を早く抜けようと必死だった。
彼は、母親から頼まれた『おつかい』を無事にやり遂げるべく、今まさに旅に出たばかりであった。
そして、その旅の途中で森で倒れていた人を助けたのだが・・・・・・。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※一話約1000文字前後に修正しました。
他サイト様にも投稿しています。
異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。
転生幼女の怠惰なため息
(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン…
紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢
座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!!
もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。
全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。
作者は極度のとうふメンタルとなっております…
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる