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水平線の向こうに③

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「つけられてるね」

「へたくそな尾行なのじゃ」

「ハクレイもそう思います」

 海から宿へ帰る途中でゴソゴソドタバタと背後から感じる気配。
 それで本当に尾行なのかと問い詰めたくなるぐらいの主張の強い尾行。もちろん3人とも気づかないふりをして歩いてはいるが、私にいたってはその者の鑑定まで済ませている状態だ。

 名はクライゼル・シュネッケ。服装は一般人、肩書は軍人で少佐のようだが、特段強くも弱くもなく普通の事務方軍人らしいステータス。尾行をするのであれば隠密系のスキルを持った者を人選すべきだろうとツッコミを入れたくてうずうずしていた。

「ケーナよ。このまま宿までついて来させるのか?」

「ただの監視役なのかなー? ちょっとだけお話してみようかな」

 尾行させ監視するだけなら一般兵でことが足りる。それがわざわざ少佐が出向いているのだがら何か理由があるのかもしれないと思い、不意を突くように振り向いてみる。ハクレイもフランも合わせて振り向いてくれた。

「ひぃ!」

 小さな悲鳴と引きつった顔。
 
 逃げるのかと思いきやじわじわと近づいてきた。

「じ、自分はシュネッケ家三男、クライゼルと申します。こ、こんな格好ですが、じ、実は軍人でして、あ、あの、お嬢様方を護衛するようにと命ぜられてきましたしだいであります」

「一体誰にでしょうか?」

「グランキオ大佐であります。浜辺でお会いしたと聞いております」

「それはそれは、しかし本日はお忍びなので護衛がいては目立ってしまいます……」

「可愛いお嬢様方はそれだけで十分目立つので必ず護衛をしろとの事でした」

 一応少佐で貴族の出身をまわしてきたのにはそれなりの配慮なのかもしれない。嬉しいことを言ってはくれているが、断られないように必死なのだろう。

「目立つのは百も承知じゃ。余らは可愛いからのぉ。だが足りておらぬ。余らは可愛いだけじゃなくての強いのじゃよ。なぁハクレイよ」

 まるで打ち合わせでもしていたかのようにハクレイがするりと動く。
 クライゼルの正面から眉間・喉・水月を狙った空を切る音と共にくりだされる高速3段突き、もちろん寸止めで。

 あとから ぶわっ と吹き抜ける風がクライゼルの意識を飛ばしてしまう。

「はっ……」

 何をされたかはギリギリ理解できていたようだが、瞬きすらできずに固まってしまっていた。もし寸止めじゃなければと脳裏によぎったなら恐怖でしかないだろう。

「一応このハクレイが護衛係じゃ。だがな、この中で一番弱いのもこのハクレイじゃ、次に余、あとは分かるじゃろ」

「……。」

「ごめんなさいねクライゼルさん、驚かさせてしまって。ほらハクレイも謝って」

「申し訳ございません」

「……はあ」

「しかしですねこの程度で固まっていては護衛もままならないでしょう。私たちに護衛は不要ですので本日はお引き取りください」

「……はい」

 そしてまた3人でふり返り宿へと歩き出す。
 
 ちょっとして後ろを見てみるとまだ固まっている。尾行は諦めてくれそうだ。



「それにしてもハクレイが前に出たから驚いたよ」

「フランさんが目配せするので、ここはハクレイの出番かと思いまして、取りあえず三段突きをしてみました」

「いい突きじゃったぞ。どうせなら当ててやってもよかったのにのぉ」

「しっかり鍛えてるって感じがしたよ」

「師匠なら更に人中と膻中と金的を加えた6段を同時に突きます」

「ゼンちゃんはスライムだからね。腕生やせるのは真似できないでしょ」

「師匠の突きは防御の隙間をぬい、追尾するので必中です。いかに衝撃を和らげるかを考えないと立てなくなりますね」

「あのピカピカスライムも意外とやるのぉ」

「ゼンちゃんに護衛してもらうかな」

「ピカピカだから目立つのじゃ」

「確かに……」

 とりあえず、護衛は無しでこのまま3人で行動することにしたのだった。

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