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ミステリアスガール⑥

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「盗んでない、助けたの」

「おいおい、どっちにしろヴァンパイアはケーナの所か。ケーナにベケスドの拠点を教えた後だったからまさかとは思っていたが……。水牢鎖縛は外してな――」

「外したよ。あんなの」

「あんなの!? 今ヴァンパイアはどうしてる」

「フランなら家のベットで寝てるけど」

「ヴァンパイアを家に入れたのか!? よく生きてられたな」

「陽の光当たったら灰になっちゃうとか言ってさ、不便だと思って――」

「そうだ、それが最後に残された対抗手段といってもいい。これがなければこの世界はヴァンパイアに支配されていたといってもいいかなら」

「う、ん」

「今、表立ってはいつも通りだが、裏ではヴァンパイアが人族に復讐してくるんじゃないかと大騒ぎだ。高額な懸賞金をかけたところで挑む者がいるかどうか分からない。白銀パーティーでも捕縛するのがやっとの相手だからな」

「やっとだったの?」

「ベスケドの奴らが捕まえた時も、事前の調査や準備に3ヶ月かかったと聞いてるな」

「あららーら」

 これだけ時間をかけやっと捕縛したのに逃げられたら必死に探すのは当然か。
 それに、私が感じたフランの印象とグランジが持つヴァンパイアへの印象はここでも違いが大きい。

「で、どうするんだ、ケーナ。今ならまだ盗んだって事ではなく、脱走したヴァンパイアを閉じ込めてるってことにできるぞ」

「別にどうともしないよ。フランはしばらく家にいるって言ってるし、何か悪いことしたわけでもないし、私は平気だしこのままにしとく」

「それだとケーナがヴァンパイアを匿ったとか、ヴァンパイアの眷属になったとか言われて討伐対象になりかねないぞ」

「敵意を向けるなら、それが誰であろうとお返しするから。魔族でも人族でも一緒。グランジはどうするの? これでも一応次期魔王だしね。特別扱いはしないよ」

「そいつは困ったぜ。ここでケーナと対立する気はないからな」

「家にフランがいることを黙っててくれるなら、夕食ぐらい出すけど」

 しばらく考え込むグランジだったが、こちらの味方でいてくれるようだった。

「ご相伴にあずかるよ。但し俺の話もう少し聞いてくれ」

 グランジも心配性なのか、ヴァンパイアについて訊いてもないことをあれやこれやと語ってくれた。

 ヴァンパイアが過去にしてきたことの中で最大の被害は、英雄と呼ばれた人物を眷属化させたことらしい。

 眷属と成った者はヴァンパイアまでではないがステータスの上昇と、不死とも思えるぐらいの再生能力を持つので。操られていると分かっていても、なんとかして陽の下に引きずり出し灰にするそうだ。

 しかしヴァンパイアに挑む者はそもそも強い。それが更に強くなって襲ってくるのだから並の冒険者や騎士ではどうにもならないので被害も大きくなるということだ。

 ヴァンパイアにまつわる話を色々聞いきて思ったのは、人族がわざわざヴァンパイアにちょっかい出している事が原因な気がしてならなかった。

 森の中でひっそりと暮らしている相手に、怪しいやら危ないやらと勝手に因縁をつけて、散々攻撃した挙句、主力の人族を眷属化されたら立場逆転され負けてしまうという、お決まりのようなやられっぷりだからだ。

 結局は殺せないので水牢鎖縛などのどうにか捕縛できるアイテムを作り捕らえるのが精一杯。

 それでも最後は捕らわれたヴァンパイアは生き、人族は勝手に死んでいく。アイテムの効力が無くなれば手錠も足枷もアクセサリーみたいなものだ。外して自分の森に帰るだけ。

 そんなことを繰り返しているのかと考えたら我慢強いなと思えてきたぐらいだ。

「あのさ、ヴァンパイアのことはもうお腹いっぱいだよ」

「まだまだ被害の話はあるぞ」

「それよりも、他の白銀達の話は何かないわけ?」

「無いな。驚くほど何もないぞ。本当にギルドカード盗んだのか?」

「当たり前でしょ、そっちが本命だもの。ヴァンパイアは偶然よ」

「普段自分のギルドカードを見ることなんて殆どないからな。俺たちならギルドに行って何か依頼を受注するときに出すが、普段指名依頼しかこなさない白銀ともなれば手に取る機会なんて全然ないのかもな」

「先に言ってよー。バレないように頑張ったのにー」

「バレなさ過ぎて盗まれたことさえ分かってもらえないだろうな」

「あーあ。集めたギルドカードどうしようかな。この際ギルドの掲示板にでも貼り付けておこうかな」

「やめとけって。ばれたらどうなるか」

「そしたら順番に相手してあげるよ」

「仲間だって狙われるぞ」

「んーそれは嫌」

「俺が買い取ってやろうか」

「いくらで」

「1枚につき金貨3枚」

「意外といい額出すじゃん」

「そのかわり、1枚の買取につ1食でどうだ」

 安くても、金貨だけの方が手っ取り早くて良かった。グランジのために料理なんてこの上なくめんどくさい。

 なので全力でめんどくさいオーラ出し、めんどくさい表情で訴えた。

「わかった。わかった。全部まとめて1食で良い」

 表情は変えず。訴え続けてみる。

「え、本気で言ってるのか?」

「もー1回だけだからね」

 話を終えたころには家に到着。
 まだ日が傾いてきたぐらいなのだが、ドアを開けたところで出迎えてくれたのはフランだった。

「ケーナお帰りなのじゃ。ケーナの言ったとおりだったのじゃ。ホレ!」

 外に出て、全身で太陽の光を浴びるフラン。

「もう痛くも痒くもないぞ、これで余もヴァンパイアでありながら昼でも夜でも遊べるのじゃ!」

 ニコニコと満面の笑みで話すフランはまるで、幼女のように無邪気に、そして新しい人生が始まったかのようなワクワクが私にまで伝わってきた。

「フランが気づくまでもっと時間がかかると思ってたけど、意外と早かったのね」

「ま、妖精どもが余に悪戯を仕掛けてきたのが気づくキッカケだったがの。今回ばかりは許してやるのじゃ」

「あいつらもたまーには役に立つのね」

 フランの笑顔とは対照的に横で固まったように動かないグランジ。目線を合わせると話が全然違うと言わんばかりの視線を熱く熱く送ってきた。
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