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ダブルアップだ……!⑤

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 金貨をしまうと数字は更に増え3007枚。
 孤児院復興のためのノルマ600枚はとっくに過ぎていて、軍資金が300枚だった事を考えると、ゆうに10倍程。

 ただ脳内で囁く ”ダブルアップだ” の声

 600枚さえ確保できれば後は正直有っても無くてもいいと思っている。

 まだ見ていない所をふらふらと歩き回ると小さなグラウンドのようなものを見つける。

「出走まで残り5分!残り5分でございます」

 ドックレースかな?と思い覗き込むとそこにいたのは7色のスライム達だった。
 ディーラーに軽く説明を受けこれに賭けてみることに。

(ねぇゼンちゃん、どの子が速いかな)

 ⦅速さなんてどれも一緒だな。色は違うけんど同一個体ぇだ⦆

(ただ分裂してるだけって事?)

 ⦅テイムされているみてぇだしよ。指示通り走るだろ⦆

(え、それって……)

 八百長し放題ということになる。誰がテイマーなのか分からないが、公正公平を厳守していると思いきやそうでもなかったブルースカイにちょっとショックを受ける。

 ⦅ちょっと待ってろ⦆

 7色のスライムがプルプル揺れている。
 もしかしてスライム同士で念話をしているのだろうか。

 ⦅次は青、黄、紫の順でゴールしてくれるってよ⦆

(交渉したの?どうやって)

 ⦅あいつもオラと同じで魔力の耐性が高いんみてぇで困ってるそうだ。だから魔力も回復できるポーションで手を打ってくれるってよ⦆

 チョロ過ぎる。
 そんなもので順位を決めてくれていいのだろうか。
 しかも青は7番人気、倍率も31.4倍と高配当だ。

 約束された勝利なら迷うことはない。

 単勝 青 金貨2000枚

 一点に賭けたせいで倍率に変化があり25.5倍まで落ちてしまった。
 しかしそれでも51000枚の払い戻し。これはズルではない、八百長疑惑に対しての天誅でござる。


「お待たせいたしました。これよりスライムレースを行います。各スライムは既にゲートに入っております」

 ブザーの音と共にゲートが開かれる。

 初めに飛び出したのは3番人気の白、それに1番人気の赤、2番人気の緑がぴょこぴょこと続いている。

 集まった客たちも固唾をのんで見守るなかデットヒートくり返し、そして最終コーナーでドラマが生まれる。

 そのまま行けば白・赤・緑が上位争いをするだろうというところで、地面に何かがあったのかのように白がイレギュラーバウンドし失速してしまう。

 それ避けようと赤が動き緑に接触。緑は赤と共に失速。
 大外から狙いをつけていた青が先頭に立ち、続いて紫と黄色。

 最後まで青が1位をキープ、二位争いは最後の最後で黄色が紫を捉え2位でフィニッシュ、紫は惜しくも3位。

 と言う ドラマやらせだった。

 この大番狂わせに乗れた人は歓喜し高倍率の配当を手にするのであろう。

 一際目立っていたのは1位から3位までを順番通りに的中させた人が騒ぎ立てていた。

 それもそのはず、倍率は1390倍。金貨を1枚でも賭けていれば1390枚になって戻ってくるので騒ぎ立てるのも仕方ない。

 こちらとしてはいい目くらましになってくれているので都合がいい。

 一生懸命走ったと思われるスライムを激励するかのように近づき、例の品をササっと渡す。

 ビンごと消化していたが、証拠隠滅には丁度いい。

(ありがとって伝えてくれる?)

 ⦅いいぞぉ⦆

 激しく揺れる七色のスライムたち。
 バレやしないかと焦ってしまう。

 ⦅このポーション凄すぎるってよろこんでたぞ⦆

(そっか、ならよかった)

 金貨100枚を超える払い戻しの場合は、専用の受取所があるらしくそこを案内してもらった。
 なんとご丁寧に、セキュリティが付いてくるのだ。

 ガラス越し声をかけると

「当選券を拝見いたします」

 との事。

「払い戻しは、5万枚……少々お待ちくださいね」

 そりゃ、疑いたくもなるのは分かる。それに12歳の少女に渡す額ではない。

「お待たせいたしました。確認が取れました。お手数ですが身分証はお持ちでしょうか」

「ギルド証でいいですか」

「冒険者だったのですね。お綺麗でしたので名家のご令嬢かと思っていました。ギルド証でも構いませんよ」

(いや、なんと鋭い観察眼をお持ちで)

 今全額用意するには時間が掛かるとのこと。
 提案されたのは後日の受け渡し、又はギルドに預け金として送金することだそうだ。
 ギルドは稼ぎまくる冒険者の為にお金を預かる仕事もしてくれている。ギルドカードがあればどこのギルドでも引き出すことができるのだから銀行みたいでお金を管理しやすい。

「今すぐだと、何枚ぐらいでしたら用意できますか?」

「3000枚までならすぐご用意いたします」

「んー500枚をここで受け取ります。残りをギルドに送金してください」

「かしこまりました」

 用意された金貨を手元の袋にじゃらじゃらと詰め込んでいく。
 いくら詰めても膨らまない袋にツッコみを入れられないかヒヤヒヤしたが大丈夫みたいだ。

 ここで稼いだお金の使い道はもう決めている。
 金貨600枚はもちろん孤児院の為。

 残りは全て町全体の復興のための寄付金だ。5億メルク程度では足りないのも承知しているが、無いよりましだと思っている。だから有っても無くてもいいどちらでもいいお金なのだ。

 ただ数枚はポケットに入れて今夜の食事を豪華にしようとも思っている。

 何を食べようか考えルンルンでカジノを出ようとしたとき、ここまで付いて来てくれていたセキュリティから忠告を受けた。

「こちらの通路を通る方は受取所に用事があった者しかおりません。誰に見られているか分かりませんので十分にお気を付けください」

「御忠告感謝いたします。チップです受け取ってください」

 金貨3枚を受け取るとお辞儀をして離れていった。

(まっ、そうなるよね)

 感知や探索が発動しなくても視線を向けられているのが分かる。
 カジノ内では手を出せないので外に行くまで待っているのだろう。

 外に出れば全てのスキルと魔法が使えるのはお互い様。襲うなら今が最大のチャンスでもあること。

「わかるわけないよねー」

 と、呟きカジノを後にした。
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