上 下
6 / 200

家出娘

しおりを挟む
----------------
 エーナ・カスケード 女 12歳 家出少女

 LV886 HP55603 MP125910
 STR 2562 VIT 8605 MND 25080
 SPD 900 DEX 1465 INT 34130
 LUK 132

 スキル
 異世界言語A 空間収納A 鑑定眼A 隠蔽A 改竄A 探索A
 アブソーブS  探究B 剣術の心得F 盗みのいろはF
 病耐性D

 属性魔法適性
 火、水、風、雷、聖、闇、空間、時間

 加護
 精霊の加護

 アイテムボックス
 簡易地図1
 食パン1
 干し肉1
 寝袋1
 異世界ガイドブック 1
 ナナの餞別(困ったときに使ってね♡)1
 ----------------

 食料を少々、ドレスは動きづらいので侍女のメイド服を拝借した。
 なるべく物は少ない方がいいし、生活魔法でカバーできることもおおいので心配はしていない。

 置き手紙は一応用意しておく。

 お父様、お母様へ

 1日だけお時間をください。少々外出してきます。

 試験では適性を見せる事ができませんでしたが、モンスターを倒せる実力を証明させてみせます。

 この件は私の独断です。ラルンテは何も知りません。叱らないでください。

 明日の朝までには必ず帰ります。どうかお許しください。 
 
 エーナより

 手紙の第一発見者はラルンテだった。いつも通り朝の挨拶のため部屋に訪れたのだがエーナの姿を見つける事ができず、この手紙を読んで事態を把握、旦那様に報告したのだった。

 こんな事になるぐらいなら、冒険者ぐらい許してあげれば良かったと後悔するベンドラであったが後悔ばかりしているわけにはいかないと捜索の指揮にあたった。
 世間体を気にしたベンドラは身内のものだけで捜索しようとしていたのだが、溺愛している母親がそれを許すわけもなく、即ギルドに駆け込み緊急依頼書を作成させた。衛兵などにも緊急の伝達がなされ町ではちょっとした騒ぎになっていた。

 ギルドでは通常の依頼が全て停止。緊急依頼のみが張り出されていた。

『緊急捜索 エーナ・カスケード嬢』

 カスケード家三女のエーナ嬢の緊急捜索依頼
 歳は12歳、顔立ちは整っており、肌は色白、髪はロングで色がローズブロンド。

 服装はドレスまたはメイド服を着用してる可能性あり。
 モンスターが出現する場所を重点的に探されたし。

 受注条件レート 条件なし

 達成条件 発見と保護

 報酬 金貨300枚 一括即払い

 レート増減 成功+50 失敗の場合でも+5


 報酬額の多さに冒険者達はお祭り騒ぎであった。誰でも依頼を受けれて、さらに失敗してもレートがプラスになるおまけ付き。
 受けない理由がない。
 善意で見つけ出そうとする者、レートの数字欲しさにとりあえず受注する者、報酬の金目当ての者、辺境伯に貸しを作ろうとする者、お嬢様とお近づきになるチャンスと捉える者、お嬢様を誘拐しさらに金を吊り上げようと企てる者、中には誰が最初に発見できるか賭けを始めた者まで出て来る始末だった。

「そこの兄さん、あんたも緊急依頼受けるのかい?」

「だったらなんだ」

 依頼を受けギルドを出たところで声をかけられた1人の青年。

「まぁまぁ、そんなツンケンするなよ。こんな破格の依頼を受けない奴なんていないさ。
 オレはガルム、今回の誰が最初に見つけられるかの賭けを任されてる。でだ、兄さん名前を教えてくれないか?」

「こんな事でも商売にするなんてたくましいな、俺の名は…グランジだ」

「レートは?」

「10だ」

「は?」

「だから、10だ!」

「おめぇ、ペーパーのペーじゃねーか!面構えからして中々の猛者に見えたんだがよ。頑張んな!今回のライバルどもはつえーぞぉ。串刺し供が評価欲しさにゴロゴロ参加してやがる」

「俺には関係ない」

「大した自信だな、だが、それぐらいじゃなきゃ冒険者はつとまらねぇーよ」

「その賭け、俺は何倍だ?」

「自分に賭ける気か? よしとけぇ! 金の無駄だ! ハッハッ!」

「何倍だ!?」

「しょーがねー奴だなぁ、ペーパーの奴は一律150倍だよ」

「のった。財布の中身全て懸ける」

「おいおいおい正気か?」

「問題ないだろう」

「こちとらちゃんと注告したからな。自己責任だぞ」

「分かっている」

「ちなみにいくら持ってんだ」

「銀貨1枚だ」

「元から金なしかよ。確かに受け取った。まぁ頑張れや」

 ベテランから新人までほとんどの冒険者が捜索にあたり、ありとあらゆる手段でエーナ嬢の発見に努めた。いつになっても痕跡1つ出てこない状況に誘拐説や死亡説などの噂まで囁かれている。
 だが夕方になり捜索を諦めて帰ってくる冒険者の報告の中に、痕跡とは言えないにしても、不可解な情報がギルドに報告される様になった。
 
 カスケード邸から西にあるナタの森を捜索した冒険者達は、口をそろえてモンスターと出会わなかったと言ったのだ。

 街道があるわけでもなく、町からも離れているナタ森は、いつもなら低級から中級のモンスターがそれなりにいる。
 丸一日森にいてモンスター1匹見ない、しかもナタ森に入った全てのパーティーやソロの冒険者がそう答えたのだ。

 モンスター同士の縄張り争いをする場合でも、モンスターの集団移動にしても争った痕跡や足跡などは必ず出てくるはず。
 しかし、そういったことではなく忽然と姿を消したような感じだったという。静まり返った森にこちらを見られているようで、逆に恐ろしくも感じたと言う冒険者もいた。

 これは手がかりと呼べるものなのか、ギルドマスターのヘッケンも経験した事のない事態に頭をかかえていた。

(家出少女、消えたモンスター、んーどう繋げたものか……)

「マスター! ベンドラ・カスケード様がお見えになりました」

「お通ししてくれ」

 ギルド総動員でも成果0。この状況を報告しなければならいギルドマスターの胃がキュルキュルと締め付けられる。

 念のためと胃薬を飲んだところで、秘書に案内されベンドラが応接室に入ってくる。

「久しいな、ヘッケン。元気か?」

「お久しぶりでございます。ベンドラ様もお変わりないようで。どうぞ、お掛けになってください」

「すまないが、もう1人相席してもいいか」

「構いませんとも」

「ロット!」

 呼ばれて、入ってきたのは庭師のロットだった。
 ロットとギルドマスターのヘッケンは過去に何度も災害級モンスター討伐で組んだ仲間だ。

「よお、ヘッケン。しかし偉くなったものだ」

「庭師を紹介したときは、まだサブマスターだったからな」

 ヘッケンの口元も一瞬緩み、どちらからとも言わず握手をする。旧知の仲というものなのだろう。

「せっかくの再会のところ申し訳ないのだが、私からいいかな」

 母親が朝から駆け込み、ギルドをお騒がせしてしまった事、緊急の案件にしてくれた事、ギルドが全面協力してくれた事、謝罪と感謝を伝えて心づけを差しだす。

「僅かばかりだが取っておいてくれ」

 黒い小さな筒には金貨がピッタリ20枚入る。ヘッケンはすぐさまコレが何かを察し、賄賂にもなりかねないお金は受け取れない事を必死で説明し懐に戻してもらった。
 依頼料は既に受け取っているのでこんな時に、ギルドマスターが粗相するわけにはいかない。

「面目ないのですが、まだ目撃情報すら上がってきておりません。ただ1つ気になることがありまして」
 
 2人がグッと迫って来たので、関係ないかもしれないと、前置きしつつ話を続ける

「ナタの森のモンスターが消えたそうです。争った跡も集団で移動して行った跡もなかったようで。私が知る限り、このような事は今までありません。今回のエーナ嬢の家出と何か繋がりがあるとは思えないのですが、こうもタイミングが重なっていると無関係とも言い切れないことでして」

「確かに、ナタの森は私の家からそう遠くない、モンスターもあまり強いものはいないと聞く……」

「しかしですね、12歳の女の子が1人でどうにかなる場所でもないですから、関係性は薄いかと」

「それについてはロットが良く知っている」

「はい、エーナお嬢様の強さでしたらナタの森にいるモンスターでは取るに足らないでしょう」

 ヘッケンにとって、かつては共に戦い強さを競い合ったロットが、強さについて相手を褒める様な言葉に驚き目を丸くする。

「驚くのも無理はない。俺だっていまだに信じたくない。そして、まだまだ力を隠してると言ってたら信じてくれるか?」

「ロット、いくらなんでも言い過ぎだろう。それが本当ならエーナ嬢は……」

 ヘッケンは父親の前で娘を化け物扱いしそうになるすんでのところで言葉をのみこむ。
 じんわりと汗が吹き出し、喉が枯れそうになりながらもなんとか続けた。

「……しかし、お前が嘘をついている様には思えない。それに嘘をつくならもっとマシな嘘を言うだろうしな。今ある情報を繋げるなら、エーナ嬢がモンスターを狩るため家出しナタの森へと向かった。エーナ嬢は隠していた力を発揮させモンスターを片っ端から討伐。何らかの方法でモンスターを隠し、さらには捜索の目からも逃れ、痕跡を残さず、単独で一夜を明かすつもりでいる。ということですか」

 無理矢理立てた仮説だが、そう言う事になる。
 納得し難い仮説でも、他に確かな情報がない以上これを信じるしかない。
 どちらかと言うと、噂されている誘拐説や死亡説の方が説得力がある。

 日が沈み捜索がより困難になってきた事を考慮すると、冒険者達を向かわせるわけにはいかない。
 なにせ、もし仮説が正しければ明日の朝には戻ってくるのだから、明日の朝また考えれば良い。
 と気軽に考えたいのだが、母親は寝ずにエーナを待つと言っているらしく、ベンドラとロットはギルド近くの宿に泊まり情報を集めるとのこと。
 こうなると、おちおち寝てられなくなったヘッケンであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

お姉さまは酷いずるいと言い続け、王子様に引き取られた自称・妹なんて知らない

あとさん♪
ファンタジー
わたくしが卒業する年に妹(自称)が学園に編入して来ました。 久しぶりの再会、と思いきや、行き成りわたくしに暴言をぶつけ、泣きながら走り去るという暴挙。 いつの間にかわたくしの名誉は地に落ちていたわ。 ずるいずるい、謝罪を要求する、姉妹格差がどーたらこーたら。 わたくし一人が我慢すればいいかと、思っていたら、今度は自称・婚約者が現れて婚約破棄宣言? もううんざり! 早く本当の立ち位置を理解させないと、あの子に騙される被害者は増える一方! そんな時、王子殿下が彼女を引き取りたいと言いだして──── ※この話は小説家になろうにも同時掲載しています。 ※設定は相変わらずゆるんゆるん。 ※シャティエル王国シリーズ4作目! ※過去の拙作 『相互理解は難しい(略)』の29年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の27年後、 『王女殿下のモラトリアム』の17年後の話になります。 上記と主人公が違います。未読でも話は分かるとは思いますが、知っているとなお面白いかと。 ※『俺の心を掴んだ姫は笑わない~見ていいのは俺だけだから!~』シリーズ5作目、オリヴァーくんが主役です! こちらもよろしくお願いします<(_ _)> ※ちょくちょく修正します。誤字撲滅! ※全9話

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ハイエルフの幼女に転生しました。

レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは 神様に転生させてもらって新しい世界で たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく 死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。 ゆっくり書いて行きます。 感想も待っています。 はげみになります。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...