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第2章 魔術学院受験専門塾

38 西部激戦

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「これにて理論魔術の試験時間は終了です。筆記用具を置き、答案を裏返してください」

 エデュケイオン西部の地方都市ウェポニスにあるウェポニス魔術学院で、イクシィは試験監督の指示に従って最後の科目の受験を終えた。

 ウェポニス魔術学院は大陸西部にある4つの私立魔術学院では最も学費が高くて入試難度が低く、入試科目が亜人語・数術・理論魔術の3教科のみである点は一般的な私立魔術学院と変わらないが数術と理論魔術はそれぞれ教科書の最後の単元が出題範囲外となっていた。


 大陸西部にある4つの私立魔術学院にはこの学校に加えてカッソー魔術学院、西部エデュケイオン魔術学院、キーキン魔術学院があり、カッソー魔術学院は旧大陸結社に次ぐ歴史の長さが、西部エデュケイオン魔術学院は近年行われた大幅な学費の減額が、キーキン魔術学院は大規模な私立商業学校であるキーキン商業学校の系列校である点がそれぞれ魅力であった。

 イクシィは入試日程が遅いカッソー魔術学院を除く3校すべてを受験することになっており、今日の入試をもって大陸西部での受験は完了となった。


「皆様、今日は本学を受験して頂き誠にありがとうございました。合否発表は速達と魔伝報までんぽうにて行いますのでしばらくお待ちください」

 以前は入試の合否結果を学内で掲示するだけの魔術学院が大半を占めていたが、大陸中央部以外に住む魔術学院受験生には地元に加えて中央部に旅行して受験を行う者も多いため近年では速達の手紙や魔伝報と呼ばれる魔術による短文送信技術を用いて合否発表を行う学校が増えていた。

 魔術転送所を利用して3地方以上の魔術学院を受験して回っている受験生は現在のところイクシィをはじめとする「魔進館」の生徒たちだけだが、こういう立場だからこそ速達や魔伝報で合否結果を知ることができるのはありがたいと思った。


 連日の入試で疲れた身体を引きずり、同時に受験していた4人の塾生と合流してウェポニス魔術学院の門を出ると受験生たちが歩いていく路上の端でユキナガが待っていた。

「皆、今日もよく頑張った。後は中央に戻るだけだが中央でも6校以上の入試が控えているから気を抜かないで欲しい。それはそれとして、今日は皆で西部名物の焼肉でも食べに行こう。次の入試までは3日あるから少々お腹に来ても心配はない」
「分かりました。すごくありがたいんですけど、今日出た問題の復習は大丈夫でしょうか? 明日には中央に戻るんですよね?」

 イクシィの質問に、ユキナガはその問いを待っていたかのように頷いた。

 イクシィは今日のウェポニス魔術学院を含めてこれまで5校の魔術学院を受験しており、その際は宿屋に帰るなりユキナガの指導のもと答え合わせを行った上で間違えた部分を復習していた。

 これまでのエデュケイオンでは上級学校に限らず入試本番では終わった試験は振り返らないという戦略が一般的であったが、ユキナガはどの学校でも同じような分野が出題されやすい私立魔術学院入試の特徴を踏まえて入試の度に塾生が持ち帰ってきた問題をその場で分析していた。

 今日の入試でも大陸東部のイシェリア魔術学院の入試で出題された問題の類題が理論魔術で出題されており、イクシィはユキナガの受験指導者としての才覚に改めて尊敬の念を覚えていた。


「もちろんウェポニス魔術学院の入試問題は復習して貰うが、長い入試期間だからこそ君たちには思いきり羽を伸ばす時間を作って欲しいんだ。といっても皆で焼肉を食べて早く寝るだけだが、少しでも身体を休めてくれたらと思う。高級な肉を出してくれる焼肉店を予約してあるからこのまま皆で行こうじゃないか。カッソーまで魔動車で一走りだ」
「分かりました!」

 ユキナガは生徒たちにはあらかじめ伝えずに焼肉店と輸送車を予約しており、すぐ近くの路上に停車していた大型の魔動車にユキナガと5人の生徒は乗り込んだ。
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