大和田行長の無限転生記 ~異世界受験ゴールデンメソッド~

輪島ライ

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第2章 魔術学院受験専門塾

31 亜人語

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「これから説明する教育方針は各教科の先生方と認識を同じくしているからこの塾全体の方針と考えてくれて構わない。まず亜人語についてだが、イクシィ君は狼人中から比較的成績が良かったね」
「ええ、高等学校の頃から苦手意識はありません。元々語学や政治学の方が好きだったので……」

 エデュケイオンにおける高等学校の教科のうち現代国語・古語・亜人語および歴史学・地理学・政治学・思想学は「文芸系」、数術・理論魔術は「理学系」と大まかに分類されている。

 上級学校も同様に士官学校・商業学校・語学学校などは文芸系学校、魔術学院・工業学校などは理学系学校として扱われており、上級学校への進学者が多い高等学校では学級自体が文芸系と理学系に分けられている場合もあった。

 イクシィは魔術学院志望者だが高等学校在学時から文芸系の教科の方が得意であり、狼人中の模試でも亜人語が最も成績良好であった。

「だからこそイクシィ君は自らの亜人語への理解に自信を持っているし、例文の暗記や音読などやっている場合ではないと考えている。しかし、自分は亜人語が得意だと思っている受験生でも意外と基礎の部分が抜け落ちていることは多い。例えばイクシィ君は発音や抑揚の問題が得意でないようだが、受験勉強ではこれがかなり足を引っ張る」
「そうなんですか? 俺が受ける予定の魔術学院で、発音と抑揚の問題が出るのは1校だけですけど……」

 二大予備校「獅子の門」「修練の台地」が実施している全上級学校共通の模擬試験では必ず亜人語の発音と抑揚に関する問題があり、イクシィが過去に受けた模試の成績を熟知しているユキナガは彼の弱点を指摘した。

「確かに発音や抑揚は単独の問題としてはあまり出ないが、亜人語はあくまでも言語の一つであって人間族と亜人族の間で実際に言葉として発音されているということを思い出して欲しい。言語として成立してから数百年以上経つうちに亜人語は少しずつ変化してきて、その中で今を生きる人間族と亜人族にとって使いやすいように発音と抑揚も進化してきている。それなのに発音と抑揚がちゃんと分かっていないとなると当然ながら言語としての亜人語を理解するのは難しくなる。この説明で理解して貰えたかな?」
「なるほど、ただ単に読み書きができればいいという訳じゃないんですね……」

 異世界エデュケイオンにおいて「亜人語」という文化が成立したのは今から400年ほど前であり、それまでは人間族は人間族の言葉だけを、亜人族はそれぞれの種族の言葉だけを用いていた。

 当時から行われていた人間族と亜人族、あるいは亜人族の異なる種族同士の交易こうえきや文化交流では他の種族の言葉を理解できる一部の人々が活躍していたが、複数の種族の言葉を理解するのはどの種族にとっても難しい行為だった。

 特に現在では「現代国語」と呼ばれる人間族の言葉は数字・記号を除いても3種類ある文字と難解な文法体系を持つことから亜人族が一から理解するのは極めて困難であり、言語の面で優位性を持つ人間族が亜人族を弾圧する結果にもなっていた。(なお、現在は国家という枠組みが存在しないエデュケイオンで「国語」という用語が使われているのは大昔の国家が存在した時代からの慣習である)

 この問題を解決すべく人間族の言語学者を中心として人間族の言葉を簡略化した言語が発明され、亜人族との協議の上でこの言語を「亜人語」と呼ぶことになった。

 現在のエデュケイオンでは亜人語は人間族と亜人族の共通言語として確立しており、現代国語に比べて文法体系が簡潔かつ明瞭であることから近年では人間族の学者の論文執筆や学会での発表も亜人語で行われることが増えている。


「そういうことだ。それを踏まえた上で今はイクシィ君をはじめとする生徒諸君に亜人語の基本例文を暗記して音読して貰っているし、その際に発音と抑揚の指導を欠かさないようにしている。数術についても事情は同じで、いくら沢山の公式や問題類型を覚えても基礎的な計算力がないとあらゆる場面で苦労する。私たち講師は君たち生徒をただ単に勉強させるのではなく、常に最大の学習効率で勉強を進めていけるよう指導しているんだ」
「ありがとうございます。俺、これからも共通授業真面目に受けます。また悩みが出てきたら相談させてください」
「もちろんだ。イクシィ君が今回のような疑問を持ったということは私たちからの説明が不足しているということだから、教科の先生方にも改めて教育方針について説明するようお願いしておくよ」

 ユキナガがそう言うとイクシィは笑顔で自習室に戻っていき、彼が自分からクレームを言いに来てくれたのは主体性が身に付いてきた証拠だとユキナガは微笑ましく思った。

 その上で彼が今後受験勉強でつまづくことがあれば、すぐさま立ち直れるよう指導しなければならないとユキナガは覚悟を新たにした。
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