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第2章 魔術学院受験専門塾
26 個人面談
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「……そういう訳で、私は息子をこの1年間でどうにか魔術学院に入れたいと思っているのです。先生、見込みはありそうでしょうか」
「入れたいって言われても、俺はもう魔術学院に未練なんてない。適当な上級学校に行くから勘弁してくれ」
今後「中央ヤイラム魔進館」の本校となる建物の1階で、ユキナガとノールズはテーブルの向かい側にいる受験生とその保護者を相手に面談を行っていた。
「これまでの模試の成績表を見せて頂きましたがイクシィ君の成績は決して悪くありません。田舎の士官学校なら普通に受かるだけの地力はあると思います」
「だから俺はもう魔術学院は諦めるんだ。勝手に分析しないでくれ」
「イクシィ、先生が入塾前に面談をしてくださっているというのにその態度は何だ。せめて黙って話を聞かないか」
イクシィという名前の青年は今年で狼人2年目となる魔術学院受験生で、彼を叱りつけている父親は治癒魔術を専門とする現役の魔術師だった。
魔術師の中でも治癒魔術師は人間族や亜人族、時には動植物に治癒魔術を施す施設である施術院を経営するのが一般的で、施術院の経営者は様々な労働形態がある魔術師の中でも最も裕福な生活を送っているとされていた。
イクシィは魔術師という職業に誇りを持っている父親の意向もあって高等学校生の頃から地元である中央都市オイコットの魔術学院を複数受験していたが2年連続でどの魔術学院にも合格できず、今年度は入試を半ば諦めて「魔進館」に入塾するよう父親に勧められていた。
いくつもの魔術学院を受験したにも関わらず一度も合格できなかったイクシィの心は折れかけており、今日も父親に無理やり連れられてここまでやって来たらしかった。
「ユキナガ先生はどう思う、こちらの生徒を1年間で合格させる具体的な策はあるか?」
「もちろんありますし、実現してみせるだけの算段もしています。ただ、それは君が本気を出せるかどうかだ。イクシィ君」
「本気も何も俺は頭が悪いから魔術学院には受からないし、そもそも魔術師に向いてないんだ。何を言われても俺は入塾なんてしない!」
ノールズの質問に自信を持って答えたユキナガだが、イクシィはまともに話を聞こうとしていなかった。
転生者として狼人生の姿勢に既視感を覚えつつ、ユキナガはイクシィに決定的な言葉を投げかけることにした。
「イクシィ君、じゃあ聞くが君は魔術学院に入学できなければ何になれるんだ。どこかの上級学校に進学してちゃんとした仕事に就くとか、あるいは今から社会に出て働くとか何か人生の目標はあるのか。それがあるのなら私たちは当然君の意向を尊重する」
「それは……」
「これだけははっきり言っておくが私は君が魔術学院に入れなかったら人生の敗者になるなどとは思っていないし、当然そのようなことにはならない。だが、結局魔術学院を諦めるにしても全力で勝負して敗れるのと一度も本気を出さずに逃げるのとでは大違いだ。君が人生の敗者になるとすればそれは後者を選択した時だ。私が言っていることの意味は分かるな?」
力強く告げたユキナガに、イクシィは何も言い返せず黙り込んだ。
「入れたいって言われても、俺はもう魔術学院に未練なんてない。適当な上級学校に行くから勘弁してくれ」
今後「中央ヤイラム魔進館」の本校となる建物の1階で、ユキナガとノールズはテーブルの向かい側にいる受験生とその保護者を相手に面談を行っていた。
「これまでの模試の成績表を見せて頂きましたがイクシィ君の成績は決して悪くありません。田舎の士官学校なら普通に受かるだけの地力はあると思います」
「だから俺はもう魔術学院は諦めるんだ。勝手に分析しないでくれ」
「イクシィ、先生が入塾前に面談をしてくださっているというのにその態度は何だ。せめて黙って話を聞かないか」
イクシィという名前の青年は今年で狼人2年目となる魔術学院受験生で、彼を叱りつけている父親は治癒魔術を専門とする現役の魔術師だった。
魔術師の中でも治癒魔術師は人間族や亜人族、時には動植物に治癒魔術を施す施設である施術院を経営するのが一般的で、施術院の経営者は様々な労働形態がある魔術師の中でも最も裕福な生活を送っているとされていた。
イクシィは魔術師という職業に誇りを持っている父親の意向もあって高等学校生の頃から地元である中央都市オイコットの魔術学院を複数受験していたが2年連続でどの魔術学院にも合格できず、今年度は入試を半ば諦めて「魔進館」に入塾するよう父親に勧められていた。
いくつもの魔術学院を受験したにも関わらず一度も合格できなかったイクシィの心は折れかけており、今日も父親に無理やり連れられてここまでやって来たらしかった。
「ユキナガ先生はどう思う、こちらの生徒を1年間で合格させる具体的な策はあるか?」
「もちろんありますし、実現してみせるだけの算段もしています。ただ、それは君が本気を出せるかどうかだ。イクシィ君」
「本気も何も俺は頭が悪いから魔術学院には受からないし、そもそも魔術師に向いてないんだ。何を言われても俺は入塾なんてしない!」
ノールズの質問に自信を持って答えたユキナガだが、イクシィはまともに話を聞こうとしていなかった。
転生者として狼人生の姿勢に既視感を覚えつつ、ユキナガはイクシィに決定的な言葉を投げかけることにした。
「イクシィ君、じゃあ聞くが君は魔術学院に入学できなければ何になれるんだ。どこかの上級学校に進学してちゃんとした仕事に就くとか、あるいは今から社会に出て働くとか何か人生の目標はあるのか。それがあるのなら私たちは当然君の意向を尊重する」
「それは……」
「これだけははっきり言っておくが私は君が魔術学院に入れなかったら人生の敗者になるなどとは思っていないし、当然そのようなことにはならない。だが、結局魔術学院を諦めるにしても全力で勝負して敗れるのと一度も本気を出さずに逃げるのとでは大違いだ。君が人生の敗者になるとすればそれは後者を選択した時だ。私が言っていることの意味は分かるな?」
力強く告げたユキナガに、イクシィは何も言い返せず黙り込んだ。
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