23 / 49
第2章 魔術学院受験専門塾
23 魔術学院
しおりを挟む
先述の通り上級学校には士官学校、魔術学院、商業学校、工業学校といった様々な種類の学校が存在しているが、その中で魔術学院だけは特殊な立ち位置にあった。
騎士や各都市の議員、官僚の志望者を養成する士官学校、職人や建築業の志望者を養成する工業学校、商人や企業の経営者を養成する商業学校はその多くが公立の学校であり、私立学校は歴史の古い名門校を中心とした一部の学校に限られている。
一方で魔術学院は大半が私立の学校であり、私立魔術学院が大陸全体で29校も存在する一方で公立魔術学院は9校、大陸議会の直轄である大陸立魔術学院は3校しか存在しなかった。
この現状は魔術師の養成にかかる費用によるものであり、人間族の平均年収が400万ネイ程度であるエデュケイオンにおいて魔術師の養成には一人当たり6年間で5000万ネイもの費用がかかるとされている。
通常の上級学校で必要となる教材費や教員の給与に加えて魔術学院では魔術詠唱・魔法陣錬成・対魔獣実戦等の実習費、魔術研究設備を維持・改善するための施設費が必要となり、公立上級学校の一般的な学費である年間80万ネイ程度ではとうてい6年間で5000万ネイの費用を賄うことはできない。
そのため魔術学院を公立で運営するのは至難の業であり、現在存在する公立魔術学院は俗に「旧大陸結社(旧大社)」と呼ばれるエデュケイオン最古の6つの魔術学院を除いてはオイコット魔術呪術学院、サウザーム魔術学院、センナミア魔術学院の3つのみであった。
その他に大陸立魔術学院として大陸救民魔術学院、大陸創造魔術学院、大陸戦闘魔術学院が存在するが、これらはそれぞれの業務に特化した魔術師を卒後に大陸各地で働く大陸公務員として養成するための特殊な学校であり、通常の魔術学院とは独立して扱われていた。
「そうなりますと……私立魔術学院の学費は、かなり高いのですよね?」
「その通り。俺の母校であるケイーオ私塾とかジーケ会魔術学院とか安い所だと6年間で2000万ネイちょっとだが、高い所は本当に高い。一番高いクウェイサー魔術学院は6年間で4600万ネイ、唯一の女子学校であるオイコット女子魔術学院は6年間で4500万ネイ。普通の家庭ではとても通わせられないな」
ノールズがそこまで話した所で焼肉定食が配膳されてきて、2人はしばらく会話を中断した。
焼肉店ペーチルの焼肉定食は安価だが味付けや調理法が工夫されており、小腹の空いていたユキナガに満足感を与えてくれた。
食事を終えて退店するまでの間に、ユキナガは引き続きノールズと話していた。
「さっきの話の続きだが、学費が6年間で4600万ネイかかるクウェイサー魔術学院でも入学するのは学力の面でもものすごく難しいんだ。田舎の公立士官学校に入れるぐらいの学力じゃとても立ち向かえなくて、オイコットとかカッソーとか都市部の有名な上級学校に余裕を持って入れるぐらいじゃないと厳しい。当然、難関の魔術学院に入るのはもっと難しい」
「それは確かに理解できます。学費が高くとも魔術師は平均年収よりはるかに高額な収入を得られるとのことですし、ノールズさんのお話では魔術師免許は終身制なのでしょう? 両親も魔術師であったりしてお金に余裕があれば、子供を魔術学院に通わせたいという気持ちにもなるでしょう」
「そういうことだ。事実、俺の実家は代々魔術師だし俺だって自分の受験の時はもっと学費が高い他の私立魔術学院も併願した。だけど、その時に問題になったことがある」
ノールズはそう言うと一拍置いて、再び口を開いた。
「はっきり言って今のエデュケイオンの塾や予備校は魔術学院の受験に十分に対応できていない。俺が高等学校生の頃はそもそも予備校という文化がなかったが、魔術学院受験の指導はあの頃から何も進歩していないらしい。教科の指導のために『獅子の門』や『修練の台地』から予備校講師を何人か引き抜く交渉をしているが、彼らからも同じことを聞いた」
「そうなのですね。私立学校の受験が主となる以上は、士官学校など他の上級学校とは異なる受験戦略が必要になるでしょう」
「よく分かっている。だからこそ俺はお前を召喚して、魔術学院受験専門塾を運営する上であらゆることに教えを仰ぎたいと思っている。今日は入塾希望者との面談があるからお前も同席してくれないか」
「もちろん引き受けましょう。よろしくお願いします」
快諾したユキナガにノールズはよし、と言うと席を立った。
支払いを済ませたノールズの後に付いて店を出る間も、ユキナガはこれから出会う生徒との面談を楽しみにしていた。
騎士や各都市の議員、官僚の志望者を養成する士官学校、職人や建築業の志望者を養成する工業学校、商人や企業の経営者を養成する商業学校はその多くが公立の学校であり、私立学校は歴史の古い名門校を中心とした一部の学校に限られている。
一方で魔術学院は大半が私立の学校であり、私立魔術学院が大陸全体で29校も存在する一方で公立魔術学院は9校、大陸議会の直轄である大陸立魔術学院は3校しか存在しなかった。
この現状は魔術師の養成にかかる費用によるものであり、人間族の平均年収が400万ネイ程度であるエデュケイオンにおいて魔術師の養成には一人当たり6年間で5000万ネイもの費用がかかるとされている。
通常の上級学校で必要となる教材費や教員の給与に加えて魔術学院では魔術詠唱・魔法陣錬成・対魔獣実戦等の実習費、魔術研究設備を維持・改善するための施設費が必要となり、公立上級学校の一般的な学費である年間80万ネイ程度ではとうてい6年間で5000万ネイの費用を賄うことはできない。
そのため魔術学院を公立で運営するのは至難の業であり、現在存在する公立魔術学院は俗に「旧大陸結社(旧大社)」と呼ばれるエデュケイオン最古の6つの魔術学院を除いてはオイコット魔術呪術学院、サウザーム魔術学院、センナミア魔術学院の3つのみであった。
その他に大陸立魔術学院として大陸救民魔術学院、大陸創造魔術学院、大陸戦闘魔術学院が存在するが、これらはそれぞれの業務に特化した魔術師を卒後に大陸各地で働く大陸公務員として養成するための特殊な学校であり、通常の魔術学院とは独立して扱われていた。
「そうなりますと……私立魔術学院の学費は、かなり高いのですよね?」
「その通り。俺の母校であるケイーオ私塾とかジーケ会魔術学院とか安い所だと6年間で2000万ネイちょっとだが、高い所は本当に高い。一番高いクウェイサー魔術学院は6年間で4600万ネイ、唯一の女子学校であるオイコット女子魔術学院は6年間で4500万ネイ。普通の家庭ではとても通わせられないな」
ノールズがそこまで話した所で焼肉定食が配膳されてきて、2人はしばらく会話を中断した。
焼肉店ペーチルの焼肉定食は安価だが味付けや調理法が工夫されており、小腹の空いていたユキナガに満足感を与えてくれた。
食事を終えて退店するまでの間に、ユキナガは引き続きノールズと話していた。
「さっきの話の続きだが、学費が6年間で4600万ネイかかるクウェイサー魔術学院でも入学するのは学力の面でもものすごく難しいんだ。田舎の公立士官学校に入れるぐらいの学力じゃとても立ち向かえなくて、オイコットとかカッソーとか都市部の有名な上級学校に余裕を持って入れるぐらいじゃないと厳しい。当然、難関の魔術学院に入るのはもっと難しい」
「それは確かに理解できます。学費が高くとも魔術師は平均年収よりはるかに高額な収入を得られるとのことですし、ノールズさんのお話では魔術師免許は終身制なのでしょう? 両親も魔術師であったりしてお金に余裕があれば、子供を魔術学院に通わせたいという気持ちにもなるでしょう」
「そういうことだ。事実、俺の実家は代々魔術師だし俺だって自分の受験の時はもっと学費が高い他の私立魔術学院も併願した。だけど、その時に問題になったことがある」
ノールズはそう言うと一拍置いて、再び口を開いた。
「はっきり言って今のエデュケイオンの塾や予備校は魔術学院の受験に十分に対応できていない。俺が高等学校生の頃はそもそも予備校という文化がなかったが、魔術学院受験の指導はあの頃から何も進歩していないらしい。教科の指導のために『獅子の門』や『修練の台地』から予備校講師を何人か引き抜く交渉をしているが、彼らからも同じことを聞いた」
「そうなのですね。私立学校の受験が主となる以上は、士官学校など他の上級学校とは異なる受験戦略が必要になるでしょう」
「よく分かっている。だからこそ俺はお前を召喚して、魔術学院受験専門塾を運営する上であらゆることに教えを仰ぎたいと思っている。今日は入塾希望者との面談があるからお前も同席してくれないか」
「もちろん引き受けましょう。よろしくお願いします」
快諾したユキナガにノールズはよし、と言うと席を立った。
支払いを済ませたノールズの後に付いて店を出る間も、ユキナガはこれから出会う生徒との面談を楽しみにしていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ウェブ小説家見習いの第117回医師国家試験受験記録
輪島ライ
エッセイ・ノンフィクション
ウェブ小説家見習いの現役医学生が第117回医師国家試験に合格するまでの体験記です。
※このエッセイは「小説家になろう」「アルファポリス」「カクヨム」「エブリスタ」に投稿しています。
※このエッセイの内容は一人の医師国家試験受験生の受験記録に過ぎません。今後国試を受験する医学生の参考になれば幸いですが実際に自分自身の勉強法に取り入れるかはよく考えて決めてください。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる