大和田行長の無限転生記 ~異世界受験ゴールデンメソッド~

輪島ライ

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第2章 魔術学院受験専門塾

23 魔術学院

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 先述の通り上級学校には士官学校、魔術学院、商業学校、工業学校といった様々な種類の学校が存在しているが、その中で魔術学院だけは特殊な立ち位置にあった。

 騎士や各都市の議員、官僚の志望者を養成する士官学校、職人や建築業の志望者を養成する工業学校、商人や企業の経営者を養成する商業学校はその多くが公立の学校であり、私立学校は歴史の古い名門校を中心とした一部の学校に限られている。

 一方で魔術学院は大半が私立の学校であり、私立魔術学院が大陸全体で29校も存在する一方で公立魔術学院は9校、大陸議会の直轄である大陸立魔術学院は3校しか存在しなかった。

 この現状は魔術師の養成にかかる費用によるものであり、人間族の平均年収が400万ネイ程度であるエデュケイオンにおいて魔術師の養成には一人当たり6年間で5000万ネイもの費用がかかるとされている。

 通常の上級学校で必要となる教材費や教員の給与に加えて魔術学院では魔術詠唱・魔法陣錬成・対魔獣実戦等の実習費、魔術研究設備を維持・改善するための施設費が必要となり、公立上級学校の一般的な学費である年間80万ネイ程度ではとうてい6年間で5000万ネイの費用をまかなうことはできない。

 そのため魔術学院を公立で運営するのは至難の業であり、現在存在する公立魔術学院は俗に「旧大陸結社(旧大社きゅうたいしゃ)」と呼ばれるエデュケイオン最古の6つの魔術学院を除いてはオイコット魔術呪術学院、サウザーム魔術学院、センナミア魔術学院の3つのみであった。

 その他に大陸立魔術学院として大陸救民魔術学院、大陸創造魔術学院、大陸戦闘魔術学院が存在するが、これらはそれぞれの業務に特化した魔術師を卒後に大陸各地で働く大陸公務員として養成するための特殊な学校であり、通常の魔術学院とは独立して扱われていた。


「そうなりますと……私立魔術学院の学費は、かなり高いのですよね?」
「その通り。俺の母校であるケイーオ私塾とかジーケ会魔術学院とか安い所だと6年間で2000万ネイちょっとだが、高い所は本当に高い。一番高いクウェイサー魔術学院は6年間で4600万ネイ、唯一の女子学校であるオイコット女子魔術学院は6年間で4500万ネイ。普通の家庭ではとても通わせられないな」

 ノールズがそこまで話した所で焼肉定食が配膳されてきて、2人はしばらく会話を中断した。

 焼肉店ペーチルの焼肉定食は安価だが味付けや調理法が工夫されており、小腹の空いていたユキナガに満足感を与えてくれた。


 食事を終えて退店するまでの間に、ユキナガは引き続きノールズと話していた。

「さっきの話の続きだが、学費が6年間で4600万ネイかかるクウェイサー魔術学院でも入学するのは学力の面でもものすごく難しいんだ。田舎の公立士官学校に入れるぐらいの学力じゃとても立ち向かえなくて、オイコットとかカッソーとか都市部の有名な上級学校に余裕を持って入れるぐらいじゃないと厳しい。当然、難関の魔術学院に入るのはもっと難しい」
「それは確かに理解できます。学費が高くとも魔術師は平均年収よりはるかに高額な収入を得られるとのことですし、ノールズさんのお話では魔術師免許は終身制なのでしょう? 両親も魔術師であったりしてお金に余裕があれば、子供を魔術学院に通わせたいという気持ちにもなるでしょう」
「そういうことだ。事実、俺の実家は代々魔術師だし俺だって自分の受験の時はもっと学費が高い他の私立魔術学院も併願した。だけど、その時に問題になったことがある」

 ノールズはそう言うと一拍置いて、再び口を開いた。

「はっきり言って今のエデュケイオンの塾や予備校は魔術学院の受験に十分に対応できていない。俺が高等学校生の頃はそもそも予備校という文化がなかったが、魔術学院受験の指導はあの頃から何も進歩していないらしい。教科の指導のために『獅子の門』や『修練の台地』から予備校講師を何人か引き抜く交渉をしているが、彼らからも同じことを聞いた」
「そうなのですね。私立学校の受験が主となる以上は、士官学校など他の上級学校とは異なる受験戦略が必要になるでしょう」
「よく分かっている。だからこそ俺はお前を召喚して、魔術学院受験専門塾を運営する上であらゆることに教えを仰ぎたいと思っている。今日は入塾希望者との面談があるからお前も同席してくれないか」
「もちろん引き受けましょう。よろしくお願いします」

 快諾したユキナガにノールズはよし、と言うと席を立った。

 支払いを済ませたノールズの後に付いて店を出る間も、ユキナガはこれから出会う生徒との面談を楽しみにしていた。
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