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第1章 異世界予備校

11 試験監督

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「それでは、これより亜人語の試験を始めます。問題冊子を開き、解答用紙に氏名と受験番号を記入してください」

 教壇に立ったユキナガがそう告げると、受験生たちは一斉に問題冊子を開いた。

 鉛筆と紙がこすれ合う音が響く中、ユキナガの耳にはかすかにざわめきが聞こえ、魔獣はこの塾の近くまで迫っていると分かった。

 リナイによれば現れた魔獣の群れは元騎士の講師たちでも対処できる規模で、騎士団の出動も間もなく行われる。

 少なくとも屋内にいる受験生たちの身に危害が及ぶことはないと信じ、ユキナガは教室を歩き回りながら受験生たちを見守っていた。


「亜人語の試験は以上です。解答をやめてください」

 やはり科学界と同等の単位で90分の試験時間が終了すると、ユキナガは教壇からその旨を告知した。

 教室にいる30名の受験生たちは一斉に手を止め、ユキナガは机を巡って解答用紙を1枚ずつ回収した。

 もう1つの教室で集められた解答用紙と合わせ、模試の終了後は講師たちが採点作業に励むことになる。


「次の現代国語の試験は10分後に開始します。それまでは会場内で休憩しておいてください」

 解答用紙の枚数の確認を終えると、ユキナガは受験生たちに10分間の休憩を告知した。

 この間に「獅子の門」の控室まで解答用紙を運び、ユキナガは引き続き試験監督を務める。


 30枚の解答用紙を無事に控室へと運んだユキナガは、廊下に出た所で見慣れぬ顔の受験生が道に迷っているのを見かけた。

 彼は近隣の他塾に通っている高等学校生で「獅子の門」を訪れるのは今日が初めてのはずだ。

 もう1つの教室で模試を受験していたらしいが、あと数分で現代国語の試験が始まってしまう。


「君、教室はこの廊下を進んで右に曲がった所だよ」
「ありがとうございます。実はお手洗いに行きたいのですがこの塾のかわやの場所が分からなくて……」

 生徒は休憩時間の間に排泄を済ませようとしていたらしく、ユキナガは塾生以外への試験会場の説明が不足していたことに気づいた。

「案内が足りず申し訳ない。厠は離れにあるから、手早く済ませて来て欲しい。近くまで案内しよう」
「助かります!」

 ユキナガはそう言うと他塾の生徒を離れに向かう通路まで案内し、そのまま教室に戻ろうとした。

 その瞬間、先ほどの生徒の叫び声が響いた。
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