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第1章 異世界予備校
5 異世界
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「お初にお目にかかります、士官学校専門塾を経営しております元騎士のリナイと申します。あなたが転生者のユキナガさんですね」
「ええ、こちらこそお世話になります。私を迎え入れたいというのは……?」
「今からその理由をお話しします。後で会食の場を設けますので、少しばかりお付き合い頂けませんでしょうか」
「もちろんです。よろしくお願いします」
丁重に挨拶をしたユキナガに、リナイと名乗った中年男性は自分がユキナガを迎え入れたいと思った理由を説明し始めた。
転生者事務局があるこの場所は、エデュケイオンと呼ばれる異世界の地方都市ミサリーの郊外に位置する。
エデュケイオンでは伝統的に転生者と呼ばれる異世界からの来訪者が人々を助けてきたことが知られており、魔術に基づく研究により現在では望む条件を満たした転生者を市民が募集できるようになっていた。
市民の依頼に基づいて公営の転生者事務局が専用の魔法陣を展開すれば、そこには依頼者が望む条件を満たした転生者が召喚される。
ユキナガがここに転生したのは、目の前のリナイが事務局に転生者の召喚を依頼したからということになる。
「リナイさんは元騎士と仰いましたが、この世界には人々の脅威となる存在があるのでしょうか?」
「ええ、その通りです」
一つの大陸がそのまま世界となっているエデュケイオンには国家という枠組みは存在しないが各地域に存在する地方都市がそれぞれ政治的な集合体を形成しており、それぞれの地方都市の管轄にある地域が事実上の国家として機能している。
それぞれの地方都市に合議制の都市議会が置かれている他に大陸全体に影響する政治的決定を行う大陸議会も存在し、大陸議会にはそれぞれの地方都市から3人ずつ議員が派遣されている。
その一方で山岳地帯に住む山人族、森林や未開の平原に住む森人族をはじめとする亜人族たちも大陸の各地に独自の共同体を築いて生存していて、不可侵条約の締結により現在のエデュケイオンでは亜人族の社会は人間族の社会から政治的には完全に独立していた。
ゆるやかな民主政による統治が行われているエデュケイオンでは亜人族も含めて人間と人間との大きな争いは長い間起きていないが、それはこの異世界が平和であるということを意味しない。
この大陸では有史以来「魔獣」と呼ばれる怪物の出現が問題となっており、人間族も亜人族も動物たちも魔獣の襲来に怯えながら生存している。
エデュケイオンは魔術の理が万物を統べる世界だが、それゆえにエデュケイオンの各地では突発的に魔術的な歪が生じる。
魔獣とは魔裂と呼ばれるその歪から現れる怪物であり、目についた人間や動物を殺傷したり時には捕食したりするにも関わらず物理的攻撃や攻撃魔術で魔獣を倒してもその場には何も残さず消滅してしまう。
その強大さから魔獣を生きたまま捕らえることは難しく、元々が空間の歪から生まれた怪物であるだけに魔獣には人間や野生動物に倒されなくとも時間経過により自然消滅するものが多い。
魔獣が出没する地域、すなわち魔裂が発生しやすい地域は長い歴史の中で特定されているため人間族の都市や重要施設は魔裂から遠い地域に建造されているが、魔獣の中には大陸内を大移動して都市を襲うものも存在する。そのため特に交易路は魔獣の襲来に遭いやすいことが知られていた。
そして魔獣の脅威に対し、エデュケイオンの各都市は金属器の装備で身を固めた騎士団や戦闘魔術を専門とする魔術師からなる魔術兵団を組織して人々の生命と財産を守ってきた。
騎士団並びに魔術兵団の活躍により近年では魔獣は大きな問題なく撃退されるようになっており、定常的な魔獣の脅威により人間同士の大規模な戦争は起こりにくいこともあって現在のエデュケイオンは長期にわたり経済発展を享受している。
「ええ、こちらこそお世話になります。私を迎え入れたいというのは……?」
「今からその理由をお話しします。後で会食の場を設けますので、少しばかりお付き合い頂けませんでしょうか」
「もちろんです。よろしくお願いします」
丁重に挨拶をしたユキナガに、リナイと名乗った中年男性は自分がユキナガを迎え入れたいと思った理由を説明し始めた。
転生者事務局があるこの場所は、エデュケイオンと呼ばれる異世界の地方都市ミサリーの郊外に位置する。
エデュケイオンでは伝統的に転生者と呼ばれる異世界からの来訪者が人々を助けてきたことが知られており、魔術に基づく研究により現在では望む条件を満たした転生者を市民が募集できるようになっていた。
市民の依頼に基づいて公営の転生者事務局が専用の魔法陣を展開すれば、そこには依頼者が望む条件を満たした転生者が召喚される。
ユキナガがここに転生したのは、目の前のリナイが事務局に転生者の召喚を依頼したからということになる。
「リナイさんは元騎士と仰いましたが、この世界には人々の脅威となる存在があるのでしょうか?」
「ええ、その通りです」
一つの大陸がそのまま世界となっているエデュケイオンには国家という枠組みは存在しないが各地域に存在する地方都市がそれぞれ政治的な集合体を形成しており、それぞれの地方都市の管轄にある地域が事実上の国家として機能している。
それぞれの地方都市に合議制の都市議会が置かれている他に大陸全体に影響する政治的決定を行う大陸議会も存在し、大陸議会にはそれぞれの地方都市から3人ずつ議員が派遣されている。
その一方で山岳地帯に住む山人族、森林や未開の平原に住む森人族をはじめとする亜人族たちも大陸の各地に独自の共同体を築いて生存していて、不可侵条約の締結により現在のエデュケイオンでは亜人族の社会は人間族の社会から政治的には完全に独立していた。
ゆるやかな民主政による統治が行われているエデュケイオンでは亜人族も含めて人間と人間との大きな争いは長い間起きていないが、それはこの異世界が平和であるということを意味しない。
この大陸では有史以来「魔獣」と呼ばれる怪物の出現が問題となっており、人間族も亜人族も動物たちも魔獣の襲来に怯えながら生存している。
エデュケイオンは魔術の理が万物を統べる世界だが、それゆえにエデュケイオンの各地では突発的に魔術的な歪が生じる。
魔獣とは魔裂と呼ばれるその歪から現れる怪物であり、目についた人間や動物を殺傷したり時には捕食したりするにも関わらず物理的攻撃や攻撃魔術で魔獣を倒してもその場には何も残さず消滅してしまう。
その強大さから魔獣を生きたまま捕らえることは難しく、元々が空間の歪から生まれた怪物であるだけに魔獣には人間や野生動物に倒されなくとも時間経過により自然消滅するものが多い。
魔獣が出没する地域、すなわち魔裂が発生しやすい地域は長い歴史の中で特定されているため人間族の都市や重要施設は魔裂から遠い地域に建造されているが、魔獣の中には大陸内を大移動して都市を襲うものも存在する。そのため特に交易路は魔獣の襲来に遭いやすいことが知られていた。
そして魔獣の脅威に対し、エデュケイオンの各都市は金属器の装備で身を固めた騎士団や戦闘魔術を専門とする魔術師からなる魔術兵団を組織して人々の生命と財産を守ってきた。
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