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その24 ゴーストレストラン
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東京都千代田区にある私立ケインズ女子高校は(後略)
「皆、街子さんからウボァーイーツのギフト券貰ったから今日の昼ご飯は何か注文しましょ! 5000円分もあるからプラス1000円までなら私も自腹切るわよ」
「ありがとうございます……。丑の日も近いしうな丼でも注文したいけど、灰田さんは大丈夫……?」
「うなぎ食べられないですけどタレだけかけて食べるの好きなので大丈夫ですよ。注文しちゃってください」
「OK、じゃあ菜々ちゃんのうなぎは皆で分け分けってことで。ええと、このお店なら5000円以内で4人分注文できそうね」
ある土曜日の昼過ぎ、現役医学生の従姉である台場街子さんからフードデリバリーサービスのUborEatsの電子ギフト券を貰ったらしいののか先輩は私と志乃先輩、右子ちゃんにうな丼を注文してくれた。
注文したうな丼は30分ぐらいで届き、自転車で走ってきた70代ぐらいに見える男性の配送員さんから校門前で出前を受け取ったののか先輩は満面の笑みでうな丼を硬式テニス部室まで持ってきた。
「写真では豪華そうだったけどどんな感じなのかしら? ……何これ、うな丼なのにご飯の半分もうなぎが載ってないじゃない! タレの袋が半分占めてるってどういうこと!?」
「ああ、これ多分ゴーストレストランですね……。名目上は飲食店だけど実際は店に食事スペースがなくて、安かろう悪かろうのデリバリーで儲けてるっていう……」
「へえー、最近はそんな業態があるんですね」
志乃先輩が口にしたゴーストレストランという用語は初耳だったが要約すると一般的な飲食店を装って運営されているフードデリバリー専業店らしく、志乃先輩によると運営経費の安さから粗悪な店も多いとのことだった。
「ムキー! 美味しいうな丼が食べたくて注文したのにこんなの許せないわ! 今すぐ電話して文句を言ってやらなくちゃ!!」
「まあまあ先輩、私のうなぎあげますからとりあえず食べましょうよ。見たところタレは高級そうですし」
「この住所は私の実家から割と近いので、後で皆で行ってみませんか? 念のため組員いえ社員さんにも同行して頂きますよ」
結局は4人でうな丼を食べてからボディーガードを連れてゴーストレストランの店舗を訪ねることになり、右子ちゃんがスマホで連絡すると民族政治結社大日本尊皇会課長の富国恭兵さんが車で迎えに来てくれた。
「近くでお待ちしてますんで、何かあったらすぐ呼んでくださいね。いきなり俺が行くと怖がらせてしまいますから」
「ありがとうございます!」
店舗の住所は人があまり通らない路地裏の奥にあり、車内で待機してくれる恭兵さんにお礼を言って路地裏を進んでいった先では古びた民家の縁側で70代ぐらいに見えるおばあさんがお茶を飲んでいた。
「あの、ここのお店でうな丼を注文したんですけど、うな丼の中身に言いたいことがあって……」
「うな丼を注文ですか? そんなはずはありませんよ、うちの亭主は何十年も前に流行り病で亡くなりましたから」
「えっ?」
恐る恐るおばあさんに声をかけたののか先輩に、おばあさんは涙目になりながら語り始めた。
「あの時私たち夫婦はお金がなくて、人様のためにうな丼を作って生活しているのに自分たちではとても食べられなくて。ああ、あの時あの人にうな丼を食べさせてあげられたら、少しでも長生きさせてあげられたのに……」
「嫌ああああああああああああ、これじゃゴーストレストランじゃなくてレストランのゴーストじゃないいいいいいいいいぃぃぃぃ」
「ちょっ、母さんお客さんで遊ぶのやめてくれよ! うちの父さんは今配達に行ってる最中だよ!!」
おばあさんの話に恐れおののいて逃げ出したののか先輩とその姿を見て舌を出しているおばあさんを見て、私はこういう人は憎めないなあと思った。
(続く)
「皆、街子さんからウボァーイーツのギフト券貰ったから今日の昼ご飯は何か注文しましょ! 5000円分もあるからプラス1000円までなら私も自腹切るわよ」
「ありがとうございます……。丑の日も近いしうな丼でも注文したいけど、灰田さんは大丈夫……?」
「うなぎ食べられないですけどタレだけかけて食べるの好きなので大丈夫ですよ。注文しちゃってください」
「OK、じゃあ菜々ちゃんのうなぎは皆で分け分けってことで。ええと、このお店なら5000円以内で4人分注文できそうね」
ある土曜日の昼過ぎ、現役医学生の従姉である台場街子さんからフードデリバリーサービスのUborEatsの電子ギフト券を貰ったらしいののか先輩は私と志乃先輩、右子ちゃんにうな丼を注文してくれた。
注文したうな丼は30分ぐらいで届き、自転車で走ってきた70代ぐらいに見える男性の配送員さんから校門前で出前を受け取ったののか先輩は満面の笑みでうな丼を硬式テニス部室まで持ってきた。
「写真では豪華そうだったけどどんな感じなのかしら? ……何これ、うな丼なのにご飯の半分もうなぎが載ってないじゃない! タレの袋が半分占めてるってどういうこと!?」
「ああ、これ多分ゴーストレストランですね……。名目上は飲食店だけど実際は店に食事スペースがなくて、安かろう悪かろうのデリバリーで儲けてるっていう……」
「へえー、最近はそんな業態があるんですね」
志乃先輩が口にしたゴーストレストランという用語は初耳だったが要約すると一般的な飲食店を装って運営されているフードデリバリー専業店らしく、志乃先輩によると運営経費の安さから粗悪な店も多いとのことだった。
「ムキー! 美味しいうな丼が食べたくて注文したのにこんなの許せないわ! 今すぐ電話して文句を言ってやらなくちゃ!!」
「まあまあ先輩、私のうなぎあげますからとりあえず食べましょうよ。見たところタレは高級そうですし」
「この住所は私の実家から割と近いので、後で皆で行ってみませんか? 念のため組員いえ社員さんにも同行して頂きますよ」
結局は4人でうな丼を食べてからボディーガードを連れてゴーストレストランの店舗を訪ねることになり、右子ちゃんがスマホで連絡すると民族政治結社大日本尊皇会課長の富国恭兵さんが車で迎えに来てくれた。
「近くでお待ちしてますんで、何かあったらすぐ呼んでくださいね。いきなり俺が行くと怖がらせてしまいますから」
「ありがとうございます!」
店舗の住所は人があまり通らない路地裏の奥にあり、車内で待機してくれる恭兵さんにお礼を言って路地裏を進んでいった先では古びた民家の縁側で70代ぐらいに見えるおばあさんがお茶を飲んでいた。
「あの、ここのお店でうな丼を注文したんですけど、うな丼の中身に言いたいことがあって……」
「うな丼を注文ですか? そんなはずはありませんよ、うちの亭主は何十年も前に流行り病で亡くなりましたから」
「えっ?」
恐る恐るおばあさんに声をかけたののか先輩に、おばあさんは涙目になりながら語り始めた。
「あの時私たち夫婦はお金がなくて、人様のためにうな丼を作って生活しているのに自分たちではとても食べられなくて。ああ、あの時あの人にうな丼を食べさせてあげられたら、少しでも長生きさせてあげられたのに……」
「嫌ああああああああああああ、これじゃゴーストレストランじゃなくてレストランのゴーストじゃないいいいいいいいいぃぃぃぃ」
「ちょっ、母さんお客さんで遊ぶのやめてくれよ! うちの父さんは今配達に行ってる最中だよ!!」
おばあさんの話に恐れおののいて逃げ出したののか先輩とその姿を見て舌を出しているおばあさんを見て、私はこういう人は憎めないなあと思った。
(続く)
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