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第3話 ミャンコン共和国は大騒ぎ! 自由と平和を勝ち取ります!!

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 東京都足立区に住む清水しみず絵美里えみりちゃんは小学4年生の女の子です。成績は中の上、顔面偏差値は58ぐらいで、クラスではそこそこ高めのスクールカーストを保っています。ところで成績は中の上ってすごく無難な設定ですね。上の下より低いのに何となく好印象だよね。


「そろそろ新しい動画出てるかな。うーん、この人の動画は才能あるしもっと洗練されて欲しいな」

 今日は授業が昼までで終わったので、絵美里ちゃんはベッドに寝転んでスマホで動画を見ています。今時ヌコヌコ動画を見ている小学生は絵美里ちゃんぐらいのものですが、問題を起こした政治家や芸能人のMAD動画を見るにはやはりヌコヌコです。みんなも素材にされないよう気を付けて生きようね。

「えみりちゃん! そんなことやってる場合じゃないよ!」
「どうしたのタカミン、人権派ジャーナリストが児童買春でもしてたの?」

 ベッドの上空に出現したデフォルメ体型の小さなたかは、絵美里ちゃんの使い魔にしてパートナーのタカミンです。パートナーとか言いつつ大体この辺りまでしか出番ないですね。

「東南アジアのミャンコン共和国に、莫大ばくだいなシニカルエナジーの発生源を感知したんだ! 数千人や数万人単位でエナジーを得られる可能性があるから、今日は本気で頑張って!」
「仕方ないなー、まあこの辺で頑張らないと私も困るしね。じゃ、よろしくー」

 絵美里ちゃんはそう言うとタカミンの翼を右手で掴み、彼女の身体はタカミンと一緒に消えていきました。ワープの目的地は東南アジアのミャンコン共和国です。そういえば東南アジアってものすごくざっくりした表現ですね。「アジアの国々」とか言う政治家はもっと信用できないよね。


 時は少し戻り、現場はミャンコン共和国の最南端にあるホンマー半島です。

「団長、ついに近隣のアジトが民衆解放軍の襲撃を受けました。我々も海外への亡命を考慮すべき時ではないでしょうか」
「その対応は私も考えているが、弾圧を受ける市民を見捨てておいそれと逃げ出すことはできない。少し時間をくれ」

 ミャンコン共和国は先の大戦が終結してからずっとミャンコン民主集中党による一党独裁が続いていますが、欧米列強の植民地であった期間が長かったホンマー半島だけは特別区として高度な自治を認められていました。

 しかしミャンコン民主集中党は近年になって中央集権体制の強化に乗り出し、様々な政治的工作によりホンマー半島の自治権を骨抜きにしていきました。異議を唱えた市民たちは事実上の党軍である民衆解放軍により拘束され、民主化運動を続ける人権団体も多くが解散に追い込まれていました。民主集中制の政府が解放軍を派遣して民主化を弾圧するとかブラックジョークにも程がありますね。


「もはや事態には一刻の猶予もない。現在残っている団員全員で民主集中党の支部に自爆攻撃を敢行し、国際社会に奴らの非道を訴えるしかないだろう……」

 ホンマー半島の自由と平和を取り戻すにはテロリズムに訴えるしかないと覚悟した人権団体のリーダーの前に、そこそこかわいい小さな女の子とデフォルメ体型の鷹が現れました。

「こんにちはー、お悩みを聞きにきました」
「何っ、君はどこの国の人間なんだ!? 民主集中党のスパイということはないと思うが……」

 アジト最奥の団長室に突然現れた女の子を見て、リーダーはとても驚きました。こんな小さな女の子がスパイだったら僕はもう……とか考えている場合ではないようです。

 日本語が通じていないと分かった絵美里ちゃんはその場ですぐに変身し、魔法少女エミリーの姿になると共に魔法の力で言葉が通じるようにしました。初めて魔法らしい魔法を使いましたね。


「まあそれは置いておいて、おじさんは今大変な状況なんでしょう? 私、魔法少女で日本人小学生のエミリーっていいます。良かったらお悩みを聞かせてください」
「魔法少女というのが何なのか分からないが、君はただ者ではないようだから話すことにするよ。私たちは現在絶望的な状況に追い込まれていて……」

 人権団体のリーダーはエミリーに自分たちの窮状について説明し、もはや後がない現状では自爆テロで国際社会にメッセージを投げかけるしかないと話しました。

「君たち日本人は身の安全と参政権が保障されているからイメージできないかも知れないが、私たちはこの国がおかしくなっていくのを見ていられないんだ。この気持ちを分かってくれるか」
「お気持ちは私にもよく分かりますけど、自爆攻撃なんてやって何の意味があるんですか?」
「えっ?」

「相手は21世紀にもなって帝国主義を再現しようとしている独裁体制なんですから、市民が何十人や何百人死のうが、自爆テロによる抗議行動が国際社会の目に触れようが、何一つ変わらないですよ。独裁体制って言っても王様や独裁者一人の支配じゃないんですし、そんなに愛国心があるなら民主集中党に入って中から改革するという方法もあるでしょう? まあ正直言ってこの国はもう末期だと思いますし、素直に諦めて亡命でも」
「そうだな、私たちは誤った道に進もうとしていたようだ」
「いやちょっと、話はまだ終わって」
「この団体は今日で解散し、これからは民主集中党に若い力を送り込むことを目指すよ。暴力や亡命では何も変わらないんだ!!」

 リーダーはそう言うと団員たちに今後の方針を伝えに行き、団長室に一人残されたエミリーはぽかんとしていました。


 リーダーはそれから人権団体を解散すると民主集中党の支配を後援するという名目で新たな青年団体を立ち上げ、数十年単位の時間をかけて民主集中党に人材を送り込みました。改革の流れが生まれたことでミャンコン共和国は一党独裁体制を維持しつつも次第に民主化の道を歩み、民衆解放軍が国軍として改組されるまでに至りました。


 ミャンコン共和国の未来を魔法の望遠鏡で見ながら、シニカルランドの女王様は頭から湯気を立てていました。

「エミリー、あなたという人はここ一番でも成功できないのですか。数万人どころか数百万人単位でシニカルエナジーが失われたのですよ」
「ミャンコン共和国が民主化すれば他の先進国には敗北感が蔓延しますし、その分だけエナジーが……」
「失敗を正当化するんじゃありません! お仕置きとしてヴェルマーク1万円分の収集と仕分けを命じます!!」
「そんなー」


 エミリーは言い訳が下手ですね。魔法少女エミリーの活躍をまだまだ見守ってください。

 (つづく)
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