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第1話 異世界転生って何だ!?
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日本国東京都にある早田学院大学の人間科学部4年生、沖田正輝は学生運動家であった。広島県の私立高校から大学に指定校推薦で入学し、左寄りの大学教員と交流する中で民主主義の素晴らしさを再認識した彼は2年生の終わり頃に学内で政治団体「民主の盾」を結成した。
当時の日本では戦後70年が経過しても与党の一党優位体制が続いており、与党による数の暴力での強行採決がまかり通る風潮に沖田は強い怒りを覚えていた。中でも当時の与党が目指していた集団的自衛権の行使容認は民主主義と平和主義を愛する沖田には到底容認できるものではなく、彼は「民主の盾」の指導者として連日国会前でのデモに参加していた。「強行採決」とか「数の暴力」といっても内容の優劣に関わらず支持者の多い意見が優先されるのが民主主義の実態をなす多数決なのだが、そういった矛盾を指摘してくれる周囲の大人は彼には存在しなかった。
ある日の昼。いつものように国会前で仲間を集めて「与党は民主主義を守れ!」と叫んでいた沖田はその日は特に気が立っていた。行進するデモ隊が右翼団体などに襲われないよう日本の警察はデモ行進の列を毎回警備しているのだが、沖田は単身で飛び出して「僕らの民主主義って何だ!?」と印字された旗を振り上げようとした。
ちょうど警官同士の距離が空いている所から列を飛び出した彼はそこが本来車道であるという事実を忘れており、デモ隊が近づいてくる前に通り過ぎようとしたトラックにはねられて22年の人生を終えた。
彼の死はインターネット上で嘲笑される一方でテレビや新聞などのオールドメディアでは民主主義を希求する学生運動家の死として美談に仕立て上げられ、その後半年ぐらいは野党が国会での与党攻撃材料に使ってくれたのだった。
そうして死体となったはずの沖田は、神聖なる空間で深い眠りから目覚めた。
「王様、勇者が目覚めました! 見たところ若い男性です!」
「おお、これは健康そうな若者ではないか」
周囲で男性数名が何やら騒ぐ音がして、沖田は真っ白な硬い台から身を起こした。
「誰ですか、あなた方は。病院にしては医療者でもないようですけど」
沖田の目の前にはボリュームのある白髭を生やして冠らしきものを被り全身にゴテゴテとした金色の飾りを着けた中年男性が立っており、その隣には中世の宗教家のような姿をした男性が数名控えていた。
「まずはこちらから名乗らねばならんな。わしはダモクレス王国の君主、リッケンミー3世だ。彼らは王国に仕える宮廷魔術師で、そなたを異世界から勇者として召喚したのだ」
「王国? 君主? この国にはまだ王族などというものがいるのですか。日本やイギリスと同じく民主主義が根付いていない幼稚な国なのですね」
「貴様、王様を侮辱するのならば勇者とて容赦はせんぞ!」
王政をイメージさせる言葉にアレルギー反応を起こした沖田に、部屋の隅で控えていた近衛騎士団長が怒りの声を上げた。
「まあ落ち着きたまえ。この者が勇者としてあの魔王を打倒してくれることは魔術師たちの運命予測で分かっていることだ。そなたもまずはこちらの話を聞いてくれんかね」
「もちろんです。民主主義の基本は話し合いですからね」
沖田は神殿の台座を降りると王の玉座に案内され、そこでこの異世界が置かれている状況について教わった。
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「おお、これは健康そうな若者ではないか」
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「誰ですか、あなた方は。病院にしては医療者でもないようですけど」
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