ヒートアップ! 清涼院エリアス

輪島ライ

文字の大きさ
上 下
4 / 5

4 世界を変えるコア

しおりを挟む
 感覚が一瞬途切れた後、俺はエリアスの自室に出現していた。

 目の前のベッドではエリアスがすやすやと眠っている。普段のハイテンションからは想像がつかないほど安らかに寝ているが、今はその姿を眺めている場合ではない。

「おいエリアス、起きろ!」
「……ん、何よ。誰……?」

 まだ完全に覚醒していないのか、エリアスの眼は半分も開いていない。

 とても今から海底のプレートまで空間跳躍しようとしている女には見えないが、この状態でもエリアスの無意識は活性化しているということは経験上分かっていた。

「……ってあんた、どうしてあたしの家にいるのよ!」

 同級生男子である俺が昼寝している間に自室まで来ていたことに気づいてか、エリアスは驚きの悲鳴を上げた。

「静かにしてくれ、お母さんが聞きつけて……いや、それはないか」

 この歪曲時空に生身で存在するのは俺とエリアスだけだから、その心配はない。


「こんな中途半端な時間に何の用なの?」

 ベッドから上半身を起こし、エリアスが不機嫌そうに尋ねてくる。落ち着いて話すため俺もベッドに腰かけた。

 すぐに本題に入りたいが、急がば回れという戦略もある。


「それは今から説明する。ところでエリアス、最近は夏が暑すぎるよな」
「もちろんよ。クーラーを最強にしても効かないなんて異常だわ」

 エリアスが話に乗ってきた所で、俺は単刀直入に聞いた。

「そこでだエリアス。地球温暖化に対して、お前は今すぐに何ができると思う」
「それは当然、あたしが……。えーと、何だっけ」

 無意識での話とはいえ、エリアスは自分が今からやらかそうとしていたことに何となく気づこうとしている。

「ああ、思い出さなくていい。それよりも、俺はお前に言っておきたいことがある」
「何なの?」

 ひとまずエリアスの空間跳躍は阻止できたが、ここで終わっては根本的な解決にならない。

 今の段階で、二度と同じ事態が起きないようにするのだ。


「地球温暖化に対して俺たちが今すぐできることなんてないんだ。地球規模でやらないと、持続的な環境改善なんてできっこない」
「あんたはそう言うけど、あたしは指を咥えて見てられないの!」

 予想通りの反応が返ってきた所で、俺は準備していた言葉をぶつけた。

「それなら、お前は世界を変えるコアになればいい」
「コア?」
「地球温暖化は個人ではどうにもならないからと地球人はこれまで人任せにしてきた。その結果が今の猛暑だ。誰かがコアになって初めて、地球規模での対策が進むんだよ」

 エリアスは俺の言葉に驚きつつも、次第に目を輝かせ始めた。

「それ、いい考えね。例えばあたしに何ができると思う?」
「政治で人々を動かすのもいいが、環境問題だけで協力者を集めるのは大変だ。お前がやるなら技術革新が一番だろう。原発よりも高効率の自然エネルギー発電を開発できれば、火力発電なんて見向きもされなくなるさ」
「それぐらい楽勝よ!」

 上半身を乗り出してきてはしゃぐエリアスを見て、俺は一件落着という四字熟語を思い浮かべた。

 エリアスの無意識がポジティブな方向に安定化したからか俺の意識はそこで途切れ、歪曲時空も自然と消失していった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

我ら新興文明保護艦隊

ビーデシオン
SF
もしも道行く野良猫が、百戦錬磨の獣戦士だったら? もしも冴えないサラリーマンが、戦争上がりのアンドロイドだったら? これは、実際にそんな空想めいた素性をもって、陰ながら地球を守っているエージェントたちのお話。 ※表紙絵はひのたけきょー(@HinotakeDaYo)様より頂きました!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

虚界生物図録

nekojita
SF
序論 1. 虚界生物 界は、生物学においてドメインに次いで2番目に高い分類階級である。古典的な生物学ではすべての生物が六界(動物界、植物界、菌界、原生生物界、古細菌界、細菌/真正細菌)に分類される。しかしこれらの「界」に当てはまらない生物も、我々の知覚の外縁でひそかに息づいている。彼らは既存の進化の法則や生態系に従わない。あるものは時間を歪め、あるものは空間を弄び、あるものは因果の流れすら変えてしまう。 こうした異質な生物群は、「界」による分類を受け付けない生物として「虚界生物」と名付けられた。 虚界生物の姿は、地球上の動植物に似ていることもあれば、夢の中の幻影のように変幻自在であることもある。彼らの生態は我々の理解を超越し、認識を変容させる。目撃者の証言には概して矛盾が多く、科学的手法による解析が困難な場合も少なくない。これらの生物は太古の伝承や神話、芸術作品、禁断の書物の中に断片的に記され、伝統的な科学的分析の対象とはされてこなかった。しかしながら各地での記録や報告を統合し、一定の体系に基づいて分析を行うことで、現代では虚界生物の特性をある程度明らかにすることが可能となってきた。 本図録は、こうした神秘的な存在に関する情報、観察、諸記録、諸仮説を可能な限り収集、整理することで、未知の領域へと踏み出すための道標となることを目的とする。 2. 研究の意義と目的 本図録は、初学者にも分かりやすく、虚界生物の不思議と謎をひも解くことを目的としている。それぞれの記録には、観察された異常現象や生態、目撃談、さらには学術的仮説までを網羅する。 各項は独立しており、前後の項目と直接の関連性はない。読者は必要な、あるいは興味のある項目だけを読むことができる。 いくつかの虚界生物は、人間社会に直接的、あるいは間接的に影響を及ぼしている。南極上空に黄金の巣を築いた帝天蜂は、巣の内部で異常に発達した知性と生産性を持つ群体を形成している。この巣の研究は人類の生産システムに革新をもたらす可能性がある。 カー・ゾン・コーに代表される、人間社会に密接に関与する虚界生物や、逆に復讐珊瑚のように、接触を避けるべき危険な存在も確認されている。 一方で、一部の虚界生物は時空や因果そのものを真っ向から撹乱する。逆行虫やテンノヒカリは、我々の時間概念に重大な示唆を与える。 これらの異常な生物を研究することは単にその生物への対処方法を確立するのみならず、諸々の根源的な問いに新たな視点を与える。本図録が、虚界生物の研究に携わる者、または未知の存在に興味を持つ者にとっての一助となることを願う。 ※※図や文章の一部はAIを用いて作成されている。 ※※すべての内容はフィクションであり、実在の生命、科学、人物、出来事、団体、書籍とは関係ありません。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

大本営の名参謀

雨宮 徹
歴史・時代
2041年12月8日の真珠湾攻撃に端は発した太平洋戦争。そこには名参謀の活躍があった。これは名参謀の視点から見た太平洋戦争の物語。

処理中です...