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第1話 漂流
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今からおよそ15年前、平成後期の日本で大流行した「ラ・プラス」という恋愛シミュレーションゲームがあった。
この作品は3人のヒロインである高峰綾香、大村花凛、城島咲希のいずれか1人と恋仲になり、ゲーム内にも関わらずまるで本当に付き合っているかのような交流を行うことができる点が持ち味であり、シリーズ展開の行き詰まりで新作が作られなくなった今も懐かしんでいるファンは多かった。
高校生の頃にラ・プラスの第2作「ラ・プラスP」にはまり込み、いつかはゲーム会社に就職してこんな名作を作ってみたいと思っていた俺は、努力の甲斐あって大学在学中にラ・プラスの開発元である株式会社チナミへの就職内定を勝ち取ることができた。
31歳になった俺はゲーム開発の最前線で働いており、初めて中心的立場で開発に関わらせて貰えたゲームは何の因果か久しぶりのシリーズ最新作となる「ラ・プラスNEO」だった。
シリーズ展開再開に伴う市場調査の上でラ・プラスNEOの開発は中断されることなく続けられ、以前失敗した海外展開への再挑戦も決まった。
かつて大好きだったゲームの最新作を自分自身が作っているという事実に感動を覚えつつ、俺は今冬に迫ったラ・プラスNEOの情報公開に向けて日夜仕事に励んでいた。
そして今日、俺は現地での販売を担当するチナミの北米支社との打ち合わせに開発スタッフとして参加するため、ローコストキャリアの航空機に乗り込んでアメリカへと向かっていた。
必要最低限の荷物と北米版ラ・プラスNEOの試作品、そして最新型の携帯ゲーム機「ヨンテンドー4DX」が入ったアタッシェケースを手に、俺は海外のゲームファンに再びラ・プラスを売り込むことへの緊張を感じていた。
その時……
『機内のお客様にご連絡致します。現在、何らかのトラブルにより機体の状態が不安定となっております。早急に原因の解明とトラブルへの対処を行いますが、万が一の際は乗務員の誘導に従って……』
俺が乗っていたその航空機は、太平洋上で墜落した。
原因が何だったのかは分からないが、機体が海面へと落下しつつ分解し始めた時は死を覚悟した。
俺は無意識にアタッシェケースを抱きしめて機体から放り出され、海面を漂流していた廃棄物らしきベッドマットへと奇跡的に落下した。
全身を打撲しつつも俺は生き延びることができたが、スーツのポケットに入れていたスマートフォンはいつの間にか消え失せており、ヨンテンドー4DXの通信機能は無線LANがなければ機能しない。
アタッシェケースだけを持ち、ベッドマットの上で数日間漂流を続けていた俺は、近くを通りがかった木造の漁船に助けられた。
船上には東南アジア諸国の人々らしき漁民の姿があり、彼らは俺を見つけると片言の日本語で話しかけてきた。
「あなた、は、にほんじん、か」
「ええ、そうです。英語は話せます。アイ・キャン・スピーク・イングリッシュ」
「それは助かります。見たところ漂流されているのですね、今すぐ助けます」
彼らは英語を話せるらしく、俺はベッドマットの上から慎重に拾い上げられると漁船の中の小部屋に案内された。
漁民たちは衰弱している俺に水を飲ませて具入りのスープを振る舞い、このまま私たちの島にお連れすると話した。
親切な人々に生命の危機を救われ、俺は感謝に身を震わせつつ数日間の漂流の疲れからそのまま意識を失った。
その直後、漁民たちは念のためにと俺のアタッシェケースを点検していた。
「これは、噂に聞くヨンテンドー4DXというやつじゃないか? 俺たちの3DXとはずいぶん違うな」
「私物だろうが、中に何が入っているんだろうな。ちょっと電源を入れてみるか」
「刺さっているソフトは……ラ・プラス? な、何だって……」
未公開の新作ゲームを見て彼らが驚愕していたことも、その理由もこの時の俺は知らない。
この作品は3人のヒロインである高峰綾香、大村花凛、城島咲希のいずれか1人と恋仲になり、ゲーム内にも関わらずまるで本当に付き合っているかのような交流を行うことができる点が持ち味であり、シリーズ展開の行き詰まりで新作が作られなくなった今も懐かしんでいるファンは多かった。
高校生の頃にラ・プラスの第2作「ラ・プラスP」にはまり込み、いつかはゲーム会社に就職してこんな名作を作ってみたいと思っていた俺は、努力の甲斐あって大学在学中にラ・プラスの開発元である株式会社チナミへの就職内定を勝ち取ることができた。
31歳になった俺はゲーム開発の最前線で働いており、初めて中心的立場で開発に関わらせて貰えたゲームは何の因果か久しぶりのシリーズ最新作となる「ラ・プラスNEO」だった。
シリーズ展開再開に伴う市場調査の上でラ・プラスNEOの開発は中断されることなく続けられ、以前失敗した海外展開への再挑戦も決まった。
かつて大好きだったゲームの最新作を自分自身が作っているという事実に感動を覚えつつ、俺は今冬に迫ったラ・プラスNEOの情報公開に向けて日夜仕事に励んでいた。
そして今日、俺は現地での販売を担当するチナミの北米支社との打ち合わせに開発スタッフとして参加するため、ローコストキャリアの航空機に乗り込んでアメリカへと向かっていた。
必要最低限の荷物と北米版ラ・プラスNEOの試作品、そして最新型の携帯ゲーム機「ヨンテンドー4DX」が入ったアタッシェケースを手に、俺は海外のゲームファンに再びラ・プラスを売り込むことへの緊張を感じていた。
その時……
『機内のお客様にご連絡致します。現在、何らかのトラブルにより機体の状態が不安定となっております。早急に原因の解明とトラブルへの対処を行いますが、万が一の際は乗務員の誘導に従って……』
俺が乗っていたその航空機は、太平洋上で墜落した。
原因が何だったのかは分からないが、機体が海面へと落下しつつ分解し始めた時は死を覚悟した。
俺は無意識にアタッシェケースを抱きしめて機体から放り出され、海面を漂流していた廃棄物らしきベッドマットへと奇跡的に落下した。
全身を打撲しつつも俺は生き延びることができたが、スーツのポケットに入れていたスマートフォンはいつの間にか消え失せており、ヨンテンドー4DXの通信機能は無線LANがなければ機能しない。
アタッシェケースだけを持ち、ベッドマットの上で数日間漂流を続けていた俺は、近くを通りがかった木造の漁船に助けられた。
船上には東南アジア諸国の人々らしき漁民の姿があり、彼らは俺を見つけると片言の日本語で話しかけてきた。
「あなた、は、にほんじん、か」
「ええ、そうです。英語は話せます。アイ・キャン・スピーク・イングリッシュ」
「それは助かります。見たところ漂流されているのですね、今すぐ助けます」
彼らは英語を話せるらしく、俺はベッドマットの上から慎重に拾い上げられると漁船の中の小部屋に案内された。
漁民たちは衰弱している俺に水を飲ませて具入りのスープを振る舞い、このまま私たちの島にお連れすると話した。
親切な人々に生命の危機を救われ、俺は感謝に身を震わせつつ数日間の漂流の疲れからそのまま意識を失った。
その直後、漁民たちは念のためにと俺のアタッシェケースを点検していた。
「これは、噂に聞くヨンテンドー4DXというやつじゃないか? 俺たちの3DXとはずいぶん違うな」
「私物だろうが、中に何が入っているんだろうな。ちょっと電源を入れてみるか」
「刺さっているソフトは……ラ・プラス? な、何だって……」
未公開の新作ゲームを見て彼らが驚愕していたことも、その理由もこの時の俺は知らない。
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