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2 疑心暗鬼
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「でさー、気になってる映画があるんだけど美紗ちゃんも一緒に見に行かない?」
「えっ、佐村君って一人で見て回るのが趣味じゃなかったの?」
「ははは、こんなに可愛い女の子と仲良くなれて誘わない男なんている訳ないよ」
「またまたー。でも佐村君が興味を持てる映画なら絶対面白いと思う。ぜひぜひ連れてって!」
「OKOK、じゃ、後で日にちとか相談しようね」
美紗と肩を並べて話しているあいつは同級生の佐村陸人。俺とは高校が同じで当時からバスケ部のエースとして活躍していたリア充だ。
俺は文化部、陸人は運動部だが映画やドラマといった趣味が共通していて、志望大学も第一・第二ともに同じだったため俺と陸人は高校生の頃から今まで友人ではある。
俺が美紗と付き合い始めた時は軽口を叩きつつも祝福してくれて、陸人も早く彼女を作ればいいのにと不思議に思っていたのだが……
あの嬉しそうな様子を見るに、美紗を狙っていたらしい。
「これは許せん!!」
「お兄ちゃん、さっきからうるさい!」
自室の机に向かって激怒していると独り言が聞こえていたのか妹が部屋に入って文句を言ってきた。
妹が立ち去ってからしばらくの間死んだ魚のような目で机に頭を投げ出していると、どこからか声が聞こえてきた。
「おい、そこのファットボーイ。そんなに陸人とかいう奴が憎いのか?」
男の声にはっと気づいて頭を上げたが、父親は首都圏に単身赴任しているからこの家には俺以外に母と妹しかいるはずがない。
「誰だ!?」
慌てて室内を見渡すがそこには誰の姿もない。
いよいよ俺は頭がおかしくなったのか。
「ああ、心配するな。俺様はここだよ」
声の聞こえてきた頭上を見上げると、そこには青白い体色にコウモリのような翼をはためかせた痩せぎすの不気味な男が浮遊していた。
「あ、悪魔」
驚きで叫びそうになったが、こんな所に妹が来ては困ると直感して慌てて声を抑えた。
「そうだよ、俺様は悪魔のメタボスってんだ。人間どもの怨念を喰って生きてるからお前みたいな奴の所に現れるんだよ」
「何だって……」
目の前の事態が現実のものとは思えないが、少なくとも俺にはこの悪魔が認識できている。
「まあ俺様が見えてることは大して気にしなくていいさ。負の感情が消え失せればどうせ見えなくなるし、今の間はウィンウィンの関係といこうじゃないか」
メタボスと名乗った悪魔はそう言うと何もない空間から真っ黒な表紙のノートらしきものを取り出した。
「それは何だ?」
「こいつはDEVノート。強い怨念を持った人間だけが文字を書き込むことができる悪魔の本だ。お前がこれに憎い人間の名前を書けばそいつはみるみるうちに太る。何も書かなければ人間どもの言葉でBMI30ぐらいになるが、名前に続けて希望する状態を書けば太らせたいだけ太らせることができる。どうだ、使ってみたいだろう」
陸人は美紗を狙っているようだが、このノートに名前を書いて太らせてしまえばあいつも俺と同じで振られるはずだ。
「ああ、ぜひ使わせてくれ!」
俺は迷いなく答えた。
「そう言うと思ったよ。本当ならノートごとくれてやりたいが、お前の怨念のレベルでは何人もの名前を書くことはできない。1人が限度だからここで今すぐ書いてくれ」
「了解だ!」
メタボスから手渡されたノートの1ページ目に俺は付属していたペンで「佐村陸人」と記入し、続けて「1か月でBMI35になるまで太る。その後3年間は痩せられない」と書いた。
BMI40とかにすると死んでしまう可能性があるし永遠にあいつを太らせておきたい訳ではない。友人のよしみで大学卒業まで今の俺並みの体型でいて貰うだけに留めた。
「そうだ、それでいい。お前の怨念を喰らって満足したから俺様はここで消えさせて貰う。結果を楽しみにな」
メタボスはそう言うとノートごと姿を消し、俺は満面の笑みを浮かべていた。
「えっ、佐村君って一人で見て回るのが趣味じゃなかったの?」
「ははは、こんなに可愛い女の子と仲良くなれて誘わない男なんている訳ないよ」
「またまたー。でも佐村君が興味を持てる映画なら絶対面白いと思う。ぜひぜひ連れてって!」
「OKOK、じゃ、後で日にちとか相談しようね」
美紗と肩を並べて話しているあいつは同級生の佐村陸人。俺とは高校が同じで当時からバスケ部のエースとして活躍していたリア充だ。
俺は文化部、陸人は運動部だが映画やドラマといった趣味が共通していて、志望大学も第一・第二ともに同じだったため俺と陸人は高校生の頃から今まで友人ではある。
俺が美紗と付き合い始めた時は軽口を叩きつつも祝福してくれて、陸人も早く彼女を作ればいいのにと不思議に思っていたのだが……
あの嬉しそうな様子を見るに、美紗を狙っていたらしい。
「これは許せん!!」
「お兄ちゃん、さっきからうるさい!」
自室の机に向かって激怒していると独り言が聞こえていたのか妹が部屋に入って文句を言ってきた。
妹が立ち去ってからしばらくの間死んだ魚のような目で机に頭を投げ出していると、どこからか声が聞こえてきた。
「おい、そこのファットボーイ。そんなに陸人とかいう奴が憎いのか?」
男の声にはっと気づいて頭を上げたが、父親は首都圏に単身赴任しているからこの家には俺以外に母と妹しかいるはずがない。
「誰だ!?」
慌てて室内を見渡すがそこには誰の姿もない。
いよいよ俺は頭がおかしくなったのか。
「ああ、心配するな。俺様はここだよ」
声の聞こえてきた頭上を見上げると、そこには青白い体色にコウモリのような翼をはためかせた痩せぎすの不気味な男が浮遊していた。
「あ、悪魔」
驚きで叫びそうになったが、こんな所に妹が来ては困ると直感して慌てて声を抑えた。
「そうだよ、俺様は悪魔のメタボスってんだ。人間どもの怨念を喰って生きてるからお前みたいな奴の所に現れるんだよ」
「何だって……」
目の前の事態が現実のものとは思えないが、少なくとも俺にはこの悪魔が認識できている。
「まあ俺様が見えてることは大して気にしなくていいさ。負の感情が消え失せればどうせ見えなくなるし、今の間はウィンウィンの関係といこうじゃないか」
メタボスと名乗った悪魔はそう言うと何もない空間から真っ黒な表紙のノートらしきものを取り出した。
「それは何だ?」
「こいつはDEVノート。強い怨念を持った人間だけが文字を書き込むことができる悪魔の本だ。お前がこれに憎い人間の名前を書けばそいつはみるみるうちに太る。何も書かなければ人間どもの言葉でBMI30ぐらいになるが、名前に続けて希望する状態を書けば太らせたいだけ太らせることができる。どうだ、使ってみたいだろう」
陸人は美紗を狙っているようだが、このノートに名前を書いて太らせてしまえばあいつも俺と同じで振られるはずだ。
「ああ、ぜひ使わせてくれ!」
俺は迷いなく答えた。
「そう言うと思ったよ。本当ならノートごとくれてやりたいが、お前の怨念のレベルでは何人もの名前を書くことはできない。1人が限度だからここで今すぐ書いてくれ」
「了解だ!」
メタボスから手渡されたノートの1ページ目に俺は付属していたペンで「佐村陸人」と記入し、続けて「1か月でBMI35になるまで太る。その後3年間は痩せられない」と書いた。
BMI40とかにすると死んでしまう可能性があるし永遠にあいつを太らせておきたい訳ではない。友人のよしみで大学卒業まで今の俺並みの体型でいて貰うだけに留めた。
「そうだ、それでいい。お前の怨念を喰らって満足したから俺様はここで消えさせて貰う。結果を楽しみにな」
メタボスはそう言うとノートごと姿を消し、俺は満面の笑みを浮かべていた。
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