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2021年7月 極楽天使めでぃかる☆エンジェルもしくは薬師寺龍之介の新たな世界
第1話 カテゴライズの功罪
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世間一般の偏見というのはそれぞれの国の社会通念とつながっていて、ボクたちのような性的少数者の歴史はそういった偏見を受けたりあるいは解消していったりという変化と密接につながっている。
世の中にはレズビアンとゲイとバイとトランスジェンダー以外にも様々な性的少数者がいて、単なる変人で済まされる熟女好きも法的に規制を受ける小児性愛者も性的少数者に他ならないとボクは思う。広い世界には動物を性的に愛する人だっているのだ。
だからLGBTという用語は個人的にあまり好きではないけれど、そういった人々の存在すら認知されていなかった時代のことを思えばLGBTという用語が社会に広く知られてきたのは悪いことではないのだろう。
ボクは「ゲイ」でも「LGBT」でもなく薬師寺龍之介という個人としてこの世に存在しているけど、いわゆる「普通の人」だって「日本人」「外国人」「大卒」「高卒」「自営業」「賃金労働者」といった様々な属性で分類されている以上、ボクは性的指向をカテゴライズすることにも決して反対はしていない。
それはまあ、そうなんだけど……
「最近は嫌な世の中だよね。マスク着けなきゃ外出できないしこうやって後輩とご飯食べるのもアクリル板越しだし。恵理ちゃんのかわいい顔がもったいないよ」
「またまた、ヤッ君先輩は褒めるのが上手なんですから。下心はないって分かってますけどね」
2021年5月のゴールデンウィーク中、今年から医学部5回生になったボクは大学近辺の定食屋でものすごく美人の後輩にご飯をおごっていた。
彼女は生理学教室所属の医学部4回生である壬生川恵理ちゃんで、ボクとは研究医生つながりで以前から親しいし彼女の恋人である白神塔也君にはこれまで人生の色んな局面でお世話になった。
今日は学生研究のために登校していた時にちょうど学内で恵理ちゃんに出会い、せっかくなのでと久々に昼食をおごってあげていたのだった。
もはや言うまでもなく今は2020年初頭から始まったパンデミックのご時世であり、ゴールデンウィーク中も学生研究などでどうしても大学に来る必要がある学生以外は登校を控えるよう大学から通達が来ていた。
学生同士での会食も感染リスクが高いということで自粛するよう要請されていたが1年中常に一人で食事をするというのは人間社会において現実的ではないし、ああいった告知文での「会食」は普通の食事というより飲み会でのドンチャン騒ぎを指している。
入店時の手指消毒や屋内の換気、アクリル板の設置など感染対策が十分に取られている飲食店で後輩と2人で昼食を取る分にはまだ許されるだろうと考えて今日は恵理ちゃんをこの店に連れてきたのだった。
そういうパンデミックの面倒な事情は置いておいて……
「久々にマスク外した先輩の顔を見ましたけど、やっぱりお肌すごく綺麗ですよね。何かエステとか通われてるんですか?」
「エステは一回試したことあるけど今は普通にお手入れしてるだけかな。あと十分な睡眠と栄養バランスね。恵理ちゃんは何か気になるの?」
「そういう訳じゃないんですけど、パンデミックで在宅の時間が増えたのでちょっと体重が増えちゃって。ダイエット始めたら今度は肌の調子が……」
「あはは、恵理ちゃんはちょっとぐらい太っても問題ない体型だしちょっとした体重の変化より健康が一番だよ。無理しないようにね」
美容について無難な意見を伝えると恵理ちゃんはありがとうございますー、と笑顔で答えた。
畿内医科薬科大学医学部医学科は理系かつ難関大学ということでお洒落に関心のない女子学生も少なくなく、そもそも恵理ちゃんほどの美人は極めて珍しいので彼女が対等に美容の話をできる相手はほとんど存在しなかった。
性別が違っても美容に興味のある同士でボクと恵理ちゃんは昔から話が合うので、今もその話題で盛り上がっていた。
「そういえば先輩、最近恋人さんとはどうなんですか? パンデミックの最中ですけどデートとかできてます?」
「ああ、コウ君のことね。彼も病院実習で忙しいからパンデミックを抜きにしても会いにくいけど休日にはどうにかデートしてるよ。お互いワクチンも2回打てたしね」
「へえー、良かったじゃないですか。仲良くお付き合いされてるようで安心しました」
恵理ちゃんが話題に出したのは京阪医科大学医学部5回生にしてボクの彼氏であり政治家を目指している呉公祐君のことだった。
こじんまりとした定食屋とはいえ公共の場ではあるので恵理ちゃんはあえて「恋人さん」という言葉を使ってくれていた。
「お互い卒業したらパートナーになろうって約束してるけど今のところ予定通り上手くいきそう。もし結婚式みたいなの開くことになったら恵理ちゃんも来てくれる?」
「ええ、もちろんです。塔也も連れていきますから皆でお祝いさせてください」
優しくそう言ってくれた恵理ちゃんにありがとうと答えるとちょうど定食が運ばれてきて、ボクらはしばらく会話を中断して黙々と昼食を取った。
世の中にはレズビアンとゲイとバイとトランスジェンダー以外にも様々な性的少数者がいて、単なる変人で済まされる熟女好きも法的に規制を受ける小児性愛者も性的少数者に他ならないとボクは思う。広い世界には動物を性的に愛する人だっているのだ。
だからLGBTという用語は個人的にあまり好きではないけれど、そういった人々の存在すら認知されていなかった時代のことを思えばLGBTという用語が社会に広く知られてきたのは悪いことではないのだろう。
ボクは「ゲイ」でも「LGBT」でもなく薬師寺龍之介という個人としてこの世に存在しているけど、いわゆる「普通の人」だって「日本人」「外国人」「大卒」「高卒」「自営業」「賃金労働者」といった様々な属性で分類されている以上、ボクは性的指向をカテゴライズすることにも決して反対はしていない。
それはまあ、そうなんだけど……
「最近は嫌な世の中だよね。マスク着けなきゃ外出できないしこうやって後輩とご飯食べるのもアクリル板越しだし。恵理ちゃんのかわいい顔がもったいないよ」
「またまた、ヤッ君先輩は褒めるのが上手なんですから。下心はないって分かってますけどね」
2021年5月のゴールデンウィーク中、今年から医学部5回生になったボクは大学近辺の定食屋でものすごく美人の後輩にご飯をおごっていた。
彼女は生理学教室所属の医学部4回生である壬生川恵理ちゃんで、ボクとは研究医生つながりで以前から親しいし彼女の恋人である白神塔也君にはこれまで人生の色んな局面でお世話になった。
今日は学生研究のために登校していた時にちょうど学内で恵理ちゃんに出会い、せっかくなのでと久々に昼食をおごってあげていたのだった。
もはや言うまでもなく今は2020年初頭から始まったパンデミックのご時世であり、ゴールデンウィーク中も学生研究などでどうしても大学に来る必要がある学生以外は登校を控えるよう大学から通達が来ていた。
学生同士での会食も感染リスクが高いということで自粛するよう要請されていたが1年中常に一人で食事をするというのは人間社会において現実的ではないし、ああいった告知文での「会食」は普通の食事というより飲み会でのドンチャン騒ぎを指している。
入店時の手指消毒や屋内の換気、アクリル板の設置など感染対策が十分に取られている飲食店で後輩と2人で昼食を取る分にはまだ許されるだろうと考えて今日は恵理ちゃんをこの店に連れてきたのだった。
そういうパンデミックの面倒な事情は置いておいて……
「久々にマスク外した先輩の顔を見ましたけど、やっぱりお肌すごく綺麗ですよね。何かエステとか通われてるんですか?」
「エステは一回試したことあるけど今は普通にお手入れしてるだけかな。あと十分な睡眠と栄養バランスね。恵理ちゃんは何か気になるの?」
「そういう訳じゃないんですけど、パンデミックで在宅の時間が増えたのでちょっと体重が増えちゃって。ダイエット始めたら今度は肌の調子が……」
「あはは、恵理ちゃんはちょっとぐらい太っても問題ない体型だしちょっとした体重の変化より健康が一番だよ。無理しないようにね」
美容について無難な意見を伝えると恵理ちゃんはありがとうございますー、と笑顔で答えた。
畿内医科薬科大学医学部医学科は理系かつ難関大学ということでお洒落に関心のない女子学生も少なくなく、そもそも恵理ちゃんほどの美人は極めて珍しいので彼女が対等に美容の話をできる相手はほとんど存在しなかった。
性別が違っても美容に興味のある同士でボクと恵理ちゃんは昔から話が合うので、今もその話題で盛り上がっていた。
「そういえば先輩、最近恋人さんとはどうなんですか? パンデミックの最中ですけどデートとかできてます?」
「ああ、コウ君のことね。彼も病院実習で忙しいからパンデミックを抜きにしても会いにくいけど休日にはどうにかデートしてるよ。お互いワクチンも2回打てたしね」
「へえー、良かったじゃないですか。仲良くお付き合いされてるようで安心しました」
恵理ちゃんが話題に出したのは京阪医科大学医学部5回生にしてボクの彼氏であり政治家を目指している呉公祐君のことだった。
こじんまりとした定食屋とはいえ公共の場ではあるので恵理ちゃんはあえて「恋人さん」という言葉を使ってくれていた。
「お互い卒業したらパートナーになろうって約束してるけど今のところ予定通り上手くいきそう。もし結婚式みたいなの開くことになったら恵理ちゃんも来てくれる?」
「ええ、もちろんです。塔也も連れていきますから皆でお祝いさせてください」
優しくそう言ってくれた恵理ちゃんにありがとうと答えるとちょうど定食が運ばれてきて、ボクらはしばらく会話を中断して黙々と昼食を取った。
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