318 / 338
2021年10月 大人のカンケイ
第3話 恋する乙女の……
しおりを挟む
「ふぁーあ……珠樹、仕事してるん?」
野球観戦の翌日、スマホのアラームで目覚めたうちは自室のベッドから裸のまま這い出した。
シャツとパンツを着ただけの珠樹はベッドに腰かけて自分のスマホをいじっていて、その様子は真剣そのものだった。
「昨日の深夜に生徒から数学の質問が来てて、ちょっとした問題やからヒントだけ教えとこう思って。こんな時にごめんな」
「全然ええで。平日の朝からイチャイチャしてる場合ちゃうし」
昨夜は珠樹を連れて自宅に戻り、両親も交えて4人で夕食を取った。
おとんもおかんもうちと珠樹との交際のことは公に認めてくれていて、珠樹が連絡なしに泊まりに来ても当たり前のように許してくれる。
お互い大学を卒業したら結婚する約束になっているから珠樹はうちの部屋で寝泊りしていて、夜は必然的にそういうことになる。
本当は寝起きのキスをしたかったけど、アルバイトに励んでいる珠樹の邪魔はしたくないのでうちは毛布から抜け出すと下着を身に付けた。
「質問対応は偉い思うけど生徒と個人的に連絡取るんってアウトなんちゃうの? あと時間外労働にならへん?」
「生徒との連絡自体は校舎の共有アカウントでやってて、会話内容は全部塾長先生がチェックしてるからそれは大丈夫。校舎の営業時間外は本当はあかんのやけど、特別な事情があるから塾長に特別手当貰ってやってる。正直しんどいけどな」
「へー、ちゃんとしてるんやね。特別な事情って何なん?」
珠樹がメッセージアプリの連絡先を生徒とこっそり交換しているという訳ではなさそうやったけど、「特別な事情」というのは気になったのでうちは質問を続けた。
「さっき連絡してた相手は高校2年生の女の子なんやけど、うちの校舎から京大の医学部を目指してんねん。ものすごく勉強熱心な子やし、京大医学部に現役合格してくれたらうちの校舎のすごい実績になるから塾長先生がちょっとぐらいは勘弁したってくれって……」
「それは大変やね。特別手当貰えるし、頻繁に連絡してくるとかやないならまあええんちゃう?」
どこの塾・予備校にとっても生徒が京都大学の医学部医学科に合格というのはものすごく貴重な実績なので、うちは塾長先生の気持ちが理解できた。
「あはは、まあ俺は全然困ってないからこのまま頑張って指導するわ。先にシャワー浴びてくるから適当に休んどって」
「OK、終わったら教えてな」
珠樹はそう言うとパジャマを着て部屋を出ていき、うちも今のうちに服を着ておこうと思った。
そして床に転がっているパジャマのズボンに手を伸ばそうとしたうちはベッドに放られている珠樹のスマホに注目した。
付き合っている間柄とは言え普段は珠樹のスマホを見てみたいなどとは思わへんけど、先ほどの話の「高校2年生の女の子」という部分は気になった。
ほとんど反射的に珠樹のスマホを手に取り自分と同じパスコードで画面ロックを解除すると、うちは企業用のものらしいメッセージアプリを開いた。
最新のメッセージの欄には確かに女の子の名前があって、それをタップすると珠樹と「高校2年生の女の子」とのチャットルームが開いた。
>生島先生、この問題分かりますか? 私立医大の過去問らしいので先生なら分かるかなと……
>今度のミーティング楽しみにしてますね。ちょっとお洒落して行こうかな、なんちゃって!
>先生って受験生の頃はどんな問題集使ってました? オススメなのがあればこっそり教えてくれません?
「何これ……」
女子高生らしいキャピキャピしたメッセージに見えても、うちには分かる。
相手の個人情報に触れつつの質問、冗談めかしたアプローチの予告、意味もなく特別感を出そうとする修飾。間に挟まるかわいいスタンプ。
これは、恋する乙女のそれだ。
思わずスマホを叩き割りそうになったけど、珠樹は相手の意図に気づいているらしくメッセージへの回答はあくまでビジネスライクだった。
ログを見ていくと相手の女子高生はうちの存在も知っていて、珠樹は自分に恋人がいるとはっきり伝えてくれているようだった。
心配することは何もないはずやけど……
「カナちゃん、シャワー終わったで。今開けてもええ?」
「!!」
扉をノックした珠樹の声に、うちは慌ててアプリを閉じてスマホを元の場所に置くと素早く毛布に潜り込んだ。
「あれ、どしたん? 二度寝してる?」
「珠樹、チューして。おはようのチュー!」
頭の中がわやくちゃになったまま、うちは珠樹に再びのキスをせがんだ。
「何や、そんなこと。やっぱりカナちゃんはかわいいわ」
「んー……」
珠樹は笑顔で毛布を引っぺがすとベッドに倒れ込みながらキスをしてくれて、うちは珠樹の身体を強く抱きしめた。
先ほど見たメッセージのやり取りが脳内に浮かんで、うちはその光景をかき消そうと珠樹とずっと抱き合っていた。
野球観戦の翌日、スマホのアラームで目覚めたうちは自室のベッドから裸のまま這い出した。
シャツとパンツを着ただけの珠樹はベッドに腰かけて自分のスマホをいじっていて、その様子は真剣そのものだった。
「昨日の深夜に生徒から数学の質問が来てて、ちょっとした問題やからヒントだけ教えとこう思って。こんな時にごめんな」
「全然ええで。平日の朝からイチャイチャしてる場合ちゃうし」
昨夜は珠樹を連れて自宅に戻り、両親も交えて4人で夕食を取った。
おとんもおかんもうちと珠樹との交際のことは公に認めてくれていて、珠樹が連絡なしに泊まりに来ても当たり前のように許してくれる。
お互い大学を卒業したら結婚する約束になっているから珠樹はうちの部屋で寝泊りしていて、夜は必然的にそういうことになる。
本当は寝起きのキスをしたかったけど、アルバイトに励んでいる珠樹の邪魔はしたくないのでうちは毛布から抜け出すと下着を身に付けた。
「質問対応は偉い思うけど生徒と個人的に連絡取るんってアウトなんちゃうの? あと時間外労働にならへん?」
「生徒との連絡自体は校舎の共有アカウントでやってて、会話内容は全部塾長先生がチェックしてるからそれは大丈夫。校舎の営業時間外は本当はあかんのやけど、特別な事情があるから塾長に特別手当貰ってやってる。正直しんどいけどな」
「へー、ちゃんとしてるんやね。特別な事情って何なん?」
珠樹がメッセージアプリの連絡先を生徒とこっそり交換しているという訳ではなさそうやったけど、「特別な事情」というのは気になったのでうちは質問を続けた。
「さっき連絡してた相手は高校2年生の女の子なんやけど、うちの校舎から京大の医学部を目指してんねん。ものすごく勉強熱心な子やし、京大医学部に現役合格してくれたらうちの校舎のすごい実績になるから塾長先生がちょっとぐらいは勘弁したってくれって……」
「それは大変やね。特別手当貰えるし、頻繁に連絡してくるとかやないならまあええんちゃう?」
どこの塾・予備校にとっても生徒が京都大学の医学部医学科に合格というのはものすごく貴重な実績なので、うちは塾長先生の気持ちが理解できた。
「あはは、まあ俺は全然困ってないからこのまま頑張って指導するわ。先にシャワー浴びてくるから適当に休んどって」
「OK、終わったら教えてな」
珠樹はそう言うとパジャマを着て部屋を出ていき、うちも今のうちに服を着ておこうと思った。
そして床に転がっているパジャマのズボンに手を伸ばそうとしたうちはベッドに放られている珠樹のスマホに注目した。
付き合っている間柄とは言え普段は珠樹のスマホを見てみたいなどとは思わへんけど、先ほどの話の「高校2年生の女の子」という部分は気になった。
ほとんど反射的に珠樹のスマホを手に取り自分と同じパスコードで画面ロックを解除すると、うちは企業用のものらしいメッセージアプリを開いた。
最新のメッセージの欄には確かに女の子の名前があって、それをタップすると珠樹と「高校2年生の女の子」とのチャットルームが開いた。
>生島先生、この問題分かりますか? 私立医大の過去問らしいので先生なら分かるかなと……
>今度のミーティング楽しみにしてますね。ちょっとお洒落して行こうかな、なんちゃって!
>先生って受験生の頃はどんな問題集使ってました? オススメなのがあればこっそり教えてくれません?
「何これ……」
女子高生らしいキャピキャピしたメッセージに見えても、うちには分かる。
相手の個人情報に触れつつの質問、冗談めかしたアプローチの予告、意味もなく特別感を出そうとする修飾。間に挟まるかわいいスタンプ。
これは、恋する乙女のそれだ。
思わずスマホを叩き割りそうになったけど、珠樹は相手の意図に気づいているらしくメッセージへの回答はあくまでビジネスライクだった。
ログを見ていくと相手の女子高生はうちの存在も知っていて、珠樹は自分に恋人がいるとはっきり伝えてくれているようだった。
心配することは何もないはずやけど……
「カナちゃん、シャワー終わったで。今開けてもええ?」
「!!」
扉をノックした珠樹の声に、うちは慌ててアプリを閉じてスマホを元の場所に置くと素早く毛布に潜り込んだ。
「あれ、どしたん? 二度寝してる?」
「珠樹、チューして。おはようのチュー!」
頭の中がわやくちゃになったまま、うちは珠樹に再びのキスをせがんだ。
「何や、そんなこと。やっぱりカナちゃんはかわいいわ」
「んー……」
珠樹は笑顔で毛布を引っぺがすとベッドに倒れ込みながらキスをしてくれて、うちは珠樹の身体を強く抱きしめた。
先ほど見たメッセージのやり取りが脳内に浮かんで、うちはその光景をかき消そうと珠樹とずっと抱き合っていた。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ウェブ小説家見習いの第117回医師国家試験受験記録
輪島ライ
エッセイ・ノンフィクション
ウェブ小説家見習いの現役医学生が第117回医師国家試験に合格するまでの体験記です。
※このエッセイは「小説家になろう」「アルファポリス」「カクヨム」「エブリスタ」に投稿しています。
※このエッセイの内容は一人の医師国家試験受験生の受験記録に過ぎません。今後国試を受験する医学生の参考になれば幸いですが実際に自分自身の勉強法に取り入れるかはよく考えて決めてください。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる