291 / 338
2021年5月 2021年5月の微生物学ボーイと元ヤンデレ歯学生
第2話 妻として恋人として
しおりを挟む
今でこそ美しく穏やかな大人の女性となった美波だが、以前はどうにも手の付けようがない大変な女の子だった。
詳しい経緯は改めて説明しないが彼女の強迫的な嫉妬心から俺と美波は恋人同士で何度も衝突し、一度は婚約破棄寸前の事態にまで陥った。
それから紆余曲折あって俺は美波との関係を見つめ直し、結局は彼女が俺の子を宿したことで2019年9月に学生結婚をした。
その当時畿内歯科大学の歯学部歯学科3回生だった美波は出産のため4回生に進級した時点で1年間休学をして、現在は1年遅れで歯学生生活に復帰している。
昨年5月に母子ともに無事に産まれた子供は男の子で、俺と美波の話し合いにより事前に決めてあった「初人」という名前が命名された。
美波は俺とこれから何人も子供を作りたいと希望していて、1人目の子供であることを強調した名前という条件を課していた。
子供からするとあまり意味のない由来になるのでそれはどうなのかと正直思ったが、美波が2人目以降も欲しいと思ってくれるのはありがたいので物部一族のネーミングセンスを踏襲して「初人」という名前に決めたのだった。
妊娠してから精神的に落ち着いてくれた美波は2020年に入ってからパンデミックの影響で再び不安定になり、自分や夫である俺が新型ウイルスに感染することへの不安で何度もノイローゼ気味になっていた。
彼女に余計な心配をかけないよう初人が産まれるまでも産まれてからも俺は不必要な外出をほとんどしていないし、友人や後輩と話したい時はDoomを用いてパソコン画面越しのオンライン飲み会を開催することにしている。
お互いまだ学生なので元々は結婚してからも同居はしていなかったが、パンデミックが始まってからは美波のご両親の許可を得て俺も美波の実家で生活するようになっていた。
お互いの実家の行き来での感染リスクがなくなったこともそうだが精神的に不安定になっている美波を傍にいて支えてやれたのは本当にありがたく、書斎を俺の部屋にしてくれた義理の父には感謝が尽きなかった。
まだ乳児の初人は専業主婦である美波の母(初人にとっては母方の祖母)に育てられており、美波も俺も安心して大学生活を送れている。
義理の両親との同居ではあるが美波と初人と同じ家庭で暮らせるのは本当に嬉しくて、充実した臨床実習の毎日もあって俺は今が人生で一番幸せな時かも知れないとさえ感じていた。
「このワンピース、どう? 体型は元に戻ってきたけど、まだ女子大生みたいな格好してていいのか分からなくて……」
「最高に似合ってるし、どんな体型でも美波はこの世で一番かわいい女の子だよ。年齢なんて気にしなくていいさ」
「……ありがとう」
今の自分のファッションを気にしている美波だが、彼女の美しさは結婚前からほとんど衰えていなかった。
妊娠中の健康管理には必要以上に気を配っていたから出産から1年が経つ今では体重も元通りになっていた。
小柄でありながら非常に女性らしいトランジスタグラマーな身体つきもそのままで、休学明けには既婚者であることを知らない1回生男子にナンパされたらしい。
彼女のトレードマークであり本人も気に入っていたベリーロングヘアは出産が近くなってからカットされ、今では普通のロングヘアの長さになっていたが美波がこの世のどんな女性よりも美しいという事実は何も変わっていなかった。
天使のような美波の姿を眺めて、俺は右手を伸ばすと芝生に腰かけている彼女の左手をぎゅっと握った。
そっと身体に触れた俺に対し、美波は少しだけ驚いた表情をすると芝生に背中を下ろしながら俺の隣に寝転んだ。
緑の芝が広がる斜面で、俺と美波は寝転んだまま見つめ合う。
家の外では常にマスクを着用するのが当たり前のご時世だがここで休憩を始めてから辺りには誰の姿も現れず、今だけはお互いにマスクを外していた。
彼女の美しい顔が眼前にやって来て、俺は久しぶりにこの唇の感触を味わいたいと思った。
そもそも俺と美波がなぜ今現在、京都市内の自然公園に来ているのか。
京都府内に緊急事態宣言が発出されている最中で、俺も美波も大学からは不要不急の外出を自粛するよう命じられている。
世間的にも夫婦とはいえ大学生同士が遊びに行くのはあまりいい目で見られないが、これにも色々な事情がある。
初人が産まれてから1年が経ち、俺と美波はお互いにそろそろ恋人同士というモードも楽しみたいと考えていた。
とはいえお互い大学生活で日中は忙しいし、帰ってきても美波のご両親との同居生活では完全に恋人同士として過ごすことはできない。
最近では離乳が進んだことで初人のベビーベッドをご両親の寝室に置いてくれているが、それまでは夜中に性行為に及ぶのも難しい状況だった。
久々に恋人同士としてイチャイチャしたいだろうとご両親は配慮してくれて、俺と美波は2人でデートしてきてはどうかと提案されたのだった。
パンデミックの発生中かつ緊急事態宣言の期間中という状況もありどこにでも行けるということはあり得なかったが、俺は2回のワクチン接種を済ませているし三密という条件からは程遠い施設ならばまだ許容できると考えて今日は自然公園にやって来たのだった。
ここは公園でも隅の方の場所であり、来客自体が激減していることもあって今に至っても周囲には誰の姿もない。
今なら美波にキスをしても許されるだろうと思った俺だが、彼女は俺が顔を近づける前に上半身を斜面から起こした。
少し残念に思いながらその様子を眺めていると、美波は突然意を決した表情になり、
「まれ君。……ちょっと、お願いがあるんだけど」
真剣な口調で話を切り出した。
「お願い? ああ、全然いいよ。何でも言ってくれ」
気軽にそう答えた俺に、美波はとても言いづらそうな様子で、
「ごめん、まれ君! まれ君の書いた小説を、後輩に見せなきゃいけないの……」
一息にそう言うと両手で顔を押さえた。
「……え?」
突然の「お願い」の内容を聞き、俺は唖然とした表情でそう呟くしかなかった。
詳しい経緯は改めて説明しないが彼女の強迫的な嫉妬心から俺と美波は恋人同士で何度も衝突し、一度は婚約破棄寸前の事態にまで陥った。
それから紆余曲折あって俺は美波との関係を見つめ直し、結局は彼女が俺の子を宿したことで2019年9月に学生結婚をした。
その当時畿内歯科大学の歯学部歯学科3回生だった美波は出産のため4回生に進級した時点で1年間休学をして、現在は1年遅れで歯学生生活に復帰している。
昨年5月に母子ともに無事に産まれた子供は男の子で、俺と美波の話し合いにより事前に決めてあった「初人」という名前が命名された。
美波は俺とこれから何人も子供を作りたいと希望していて、1人目の子供であることを強調した名前という条件を課していた。
子供からするとあまり意味のない由来になるのでそれはどうなのかと正直思ったが、美波が2人目以降も欲しいと思ってくれるのはありがたいので物部一族のネーミングセンスを踏襲して「初人」という名前に決めたのだった。
妊娠してから精神的に落ち着いてくれた美波は2020年に入ってからパンデミックの影響で再び不安定になり、自分や夫である俺が新型ウイルスに感染することへの不安で何度もノイローゼ気味になっていた。
彼女に余計な心配をかけないよう初人が産まれるまでも産まれてからも俺は不必要な外出をほとんどしていないし、友人や後輩と話したい時はDoomを用いてパソコン画面越しのオンライン飲み会を開催することにしている。
お互いまだ学生なので元々は結婚してからも同居はしていなかったが、パンデミックが始まってからは美波のご両親の許可を得て俺も美波の実家で生活するようになっていた。
お互いの実家の行き来での感染リスクがなくなったこともそうだが精神的に不安定になっている美波を傍にいて支えてやれたのは本当にありがたく、書斎を俺の部屋にしてくれた義理の父には感謝が尽きなかった。
まだ乳児の初人は専業主婦である美波の母(初人にとっては母方の祖母)に育てられており、美波も俺も安心して大学生活を送れている。
義理の両親との同居ではあるが美波と初人と同じ家庭で暮らせるのは本当に嬉しくて、充実した臨床実習の毎日もあって俺は今が人生で一番幸せな時かも知れないとさえ感じていた。
「このワンピース、どう? 体型は元に戻ってきたけど、まだ女子大生みたいな格好してていいのか分からなくて……」
「最高に似合ってるし、どんな体型でも美波はこの世で一番かわいい女の子だよ。年齢なんて気にしなくていいさ」
「……ありがとう」
今の自分のファッションを気にしている美波だが、彼女の美しさは結婚前からほとんど衰えていなかった。
妊娠中の健康管理には必要以上に気を配っていたから出産から1年が経つ今では体重も元通りになっていた。
小柄でありながら非常に女性らしいトランジスタグラマーな身体つきもそのままで、休学明けには既婚者であることを知らない1回生男子にナンパされたらしい。
彼女のトレードマークであり本人も気に入っていたベリーロングヘアは出産が近くなってからカットされ、今では普通のロングヘアの長さになっていたが美波がこの世のどんな女性よりも美しいという事実は何も変わっていなかった。
天使のような美波の姿を眺めて、俺は右手を伸ばすと芝生に腰かけている彼女の左手をぎゅっと握った。
そっと身体に触れた俺に対し、美波は少しだけ驚いた表情をすると芝生に背中を下ろしながら俺の隣に寝転んだ。
緑の芝が広がる斜面で、俺と美波は寝転んだまま見つめ合う。
家の外では常にマスクを着用するのが当たり前のご時世だがここで休憩を始めてから辺りには誰の姿も現れず、今だけはお互いにマスクを外していた。
彼女の美しい顔が眼前にやって来て、俺は久しぶりにこの唇の感触を味わいたいと思った。
そもそも俺と美波がなぜ今現在、京都市内の自然公園に来ているのか。
京都府内に緊急事態宣言が発出されている最中で、俺も美波も大学からは不要不急の外出を自粛するよう命じられている。
世間的にも夫婦とはいえ大学生同士が遊びに行くのはあまりいい目で見られないが、これにも色々な事情がある。
初人が産まれてから1年が経ち、俺と美波はお互いにそろそろ恋人同士というモードも楽しみたいと考えていた。
とはいえお互い大学生活で日中は忙しいし、帰ってきても美波のご両親との同居生活では完全に恋人同士として過ごすことはできない。
最近では離乳が進んだことで初人のベビーベッドをご両親の寝室に置いてくれているが、それまでは夜中に性行為に及ぶのも難しい状況だった。
久々に恋人同士としてイチャイチャしたいだろうとご両親は配慮してくれて、俺と美波は2人でデートしてきてはどうかと提案されたのだった。
パンデミックの発生中かつ緊急事態宣言の期間中という状況もありどこにでも行けるということはあり得なかったが、俺は2回のワクチン接種を済ませているし三密という条件からは程遠い施設ならばまだ許容できると考えて今日は自然公園にやって来たのだった。
ここは公園でも隅の方の場所であり、来客自体が激減していることもあって今に至っても周囲には誰の姿もない。
今なら美波にキスをしても許されるだろうと思った俺だが、彼女は俺が顔を近づける前に上半身を斜面から起こした。
少し残念に思いながらその様子を眺めていると、美波は突然意を決した表情になり、
「まれ君。……ちょっと、お願いがあるんだけど」
真剣な口調で話を切り出した。
「お願い? ああ、全然いいよ。何でも言ってくれ」
気軽にそう答えた俺に、美波はとても言いづらそうな様子で、
「ごめん、まれ君! まれ君の書いた小説を、後輩に見せなきゃいけないの……」
一息にそう言うと両手で顔を押さえた。
「……え?」
突然の「お願い」の内容を聞き、俺は唖然とした表情でそう呟くしかなかった。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ウェブ小説家見習いの第117回医師国家試験受験記録
輪島ライ
エッセイ・ノンフィクション
ウェブ小説家見習いの現役医学生が第117回医師国家試験に合格するまでの体験記です。
※このエッセイは「小説家になろう」「アルファポリス」「カクヨム」「エブリスタ」に投稿しています。
※このエッセイの内容は一人の医師国家試験受験生の受験記録に過ぎません。今後国試を受験する医学生の参考になれば幸いですが実際に自分自身の勉強法に取り入れるかはよく考えて決めてください。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる