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2021年5月 2021年5月の微生物学ボーイと元ヤンデレ歯学生
第1話 パンデミックは続くけど
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読者の諸君とは久々の再会になる。
畿内医科薬科大学医学部医学科5回生にして微生物学教室研究医養成コース生の物部微人だ。
2020年3月に4回生への進級が決まってから1年間以上、本当に色々なことがあった。
日本国内では2020年1月頃から本格化した新型ウイルス感染症の流行は未だ終息せず、昨月下旬となる2021年4月25日からは東京都、大阪府、兵庫県、京都府の4府県に3度目の緊急事態宣言が発出された。
この間に畿内医科大学は系列校であった畿内薬科大学と合併し2021年4月からは大学名も畿内医科薬科大学に改称されたが、日本の社会情勢は大学統合を祝うどころではなかった。
俺が4回生として医学生生活を過ごした2020年度は新型ウイルス感染症の影響で日本社会のあらゆる活動が大混乱に陥り、2020年12月に進級試験であるCBTとOSCEに合格して5回生への進級が決まるまで対面で行われた授業はほとんどなかった。
日本国内で初めて緊急事態宣言が発出された2020年4月から数か月の間は学生研究のため大学に出入りすることさえ許されず、1日中自宅にいてオンライン授業を受けるだけの大学生活が続いた。
今でこそオンライン授業は無料のビデオ会議サービスであるDoomを用いてリアルタイムで実施されたり動画配信サイトの限定公開機能で映像講義として視聴できたりと良質な内容になっているが当時のオンライン講義は本当にひどいもので、PowerPointのスライドを読み上げるだけの映像や講義資料のPDFファイルを閲覧するだけのものさえ存在していた。
今時の医学生は定期試験の対策であっても国試予備校の映像講義を中心に勉強している者が多いのでそのことで学生の学力が低下するということは一切なかったが、大学に通っているのに教員の顔を見られないというのは後々問題になりそうだと思った。
そんな中でも臨床実習に備えた実技試験であるOSCEの対策授業はちゃんと対面で行われたし、2020年も10月以降になると日本社会はある程度の落ち着きを取り戻していた。
手洗いやマスク着用など基本的な感染予防策に終始するしかなかった2020年と異なり今年からは日本国内でも新型ウイルスに対するワクチンの接種が開始され、まずは医師や看護師など医療関係者から本格的なワクチン接種が始まった。
畿内医科薬科大学は近畿圏内の大学の医学部医学科ではいち早く医学生に対するワクチン接種を開始することができ、臨床実習で医療スタッフや患者と接する医学部5回生・6回生は2021年3月下旬という非常に早い時期から接種を受けることができた。
2021年1月から臨床実習(コア・クリニカルクラークシップ)で附属病院に出入りしている俺もその対象に含まれており、昨月の中旬には早くも2回目のワクチン接種を済ませた。
今後は基本的な感染予防策を遵守していれば新型ウイルス感染症に罹患したり他者に感染させたりするリスクは極めて低いと言えるし、臨床実習で接する患者さんを安心させられることはとても嬉しかった。
現6回生の先輩方は臨床実習の開始とパンデミックの本格化が重なり大変だったらしいが、俺と同級生たちはワクチンの恩恵を受けつつ真剣にコアクリクラに取り組んでいこうと思った。
という真面目な話はともかくとして俺はゴールデンウィーク中の今現在、京都府京都市内の自然公園に来ていた。
緑の芝に覆われた斜面に寝転んだ俺の隣には薄めの生地のワンピースに身を包んだ美波が腰かけている。
彼女は数年前まで宇都宮美波という名前だった歯学生で、今の名前は物部美波。
もはや言うまでもなく、彼女は俺の妻だ。
「風が心地いいね、まれ君。いつか初ちゃんも連れてきてあげたい」
「そうだな。……二人で来るのも、悪くないけど」
そう答えて無表情で彼女の方を見ると、美波は静かに微笑んだ。
その姿はこの世の誰よりも美しく魅力的で、俺は彼女の隣にいられる幸せを噛みしめた。
畿内医科薬科大学医学部医学科5回生にして微生物学教室研究医養成コース生の物部微人だ。
2020年3月に4回生への進級が決まってから1年間以上、本当に色々なことがあった。
日本国内では2020年1月頃から本格化した新型ウイルス感染症の流行は未だ終息せず、昨月下旬となる2021年4月25日からは東京都、大阪府、兵庫県、京都府の4府県に3度目の緊急事態宣言が発出された。
この間に畿内医科大学は系列校であった畿内薬科大学と合併し2021年4月からは大学名も畿内医科薬科大学に改称されたが、日本の社会情勢は大学統合を祝うどころではなかった。
俺が4回生として医学生生活を過ごした2020年度は新型ウイルス感染症の影響で日本社会のあらゆる活動が大混乱に陥り、2020年12月に進級試験であるCBTとOSCEに合格して5回生への進級が決まるまで対面で行われた授業はほとんどなかった。
日本国内で初めて緊急事態宣言が発出された2020年4月から数か月の間は学生研究のため大学に出入りすることさえ許されず、1日中自宅にいてオンライン授業を受けるだけの大学生活が続いた。
今でこそオンライン授業は無料のビデオ会議サービスであるDoomを用いてリアルタイムで実施されたり動画配信サイトの限定公開機能で映像講義として視聴できたりと良質な内容になっているが当時のオンライン講義は本当にひどいもので、PowerPointのスライドを読み上げるだけの映像や講義資料のPDFファイルを閲覧するだけのものさえ存在していた。
今時の医学生は定期試験の対策であっても国試予備校の映像講義を中心に勉強している者が多いのでそのことで学生の学力が低下するということは一切なかったが、大学に通っているのに教員の顔を見られないというのは後々問題になりそうだと思った。
そんな中でも臨床実習に備えた実技試験であるOSCEの対策授業はちゃんと対面で行われたし、2020年も10月以降になると日本社会はある程度の落ち着きを取り戻していた。
手洗いやマスク着用など基本的な感染予防策に終始するしかなかった2020年と異なり今年からは日本国内でも新型ウイルスに対するワクチンの接種が開始され、まずは医師や看護師など医療関係者から本格的なワクチン接種が始まった。
畿内医科薬科大学は近畿圏内の大学の医学部医学科ではいち早く医学生に対するワクチン接種を開始することができ、臨床実習で医療スタッフや患者と接する医学部5回生・6回生は2021年3月下旬という非常に早い時期から接種を受けることができた。
2021年1月から臨床実習(コア・クリニカルクラークシップ)で附属病院に出入りしている俺もその対象に含まれており、昨月の中旬には早くも2回目のワクチン接種を済ませた。
今後は基本的な感染予防策を遵守していれば新型ウイルス感染症に罹患したり他者に感染させたりするリスクは極めて低いと言えるし、臨床実習で接する患者さんを安心させられることはとても嬉しかった。
現6回生の先輩方は臨床実習の開始とパンデミックの本格化が重なり大変だったらしいが、俺と同級生たちはワクチンの恩恵を受けつつ真剣にコアクリクラに取り組んでいこうと思った。
という真面目な話はともかくとして俺はゴールデンウィーク中の今現在、京都府京都市内の自然公園に来ていた。
緑の芝に覆われた斜面に寝転んだ俺の隣には薄めの生地のワンピースに身を包んだ美波が腰かけている。
彼女は数年前まで宇都宮美波という名前だった歯学生で、今の名前は物部美波。
もはや言うまでもなく、彼女は俺の妻だ。
「風が心地いいね、まれ君。いつか初ちゃんも連れてきてあげたい」
「そうだな。……二人で来るのも、悪くないけど」
そう答えて無表情で彼女の方を見ると、美波は静かに微笑んだ。
その姿はこの世の誰よりも美しく魅力的で、俺は彼女の隣にいられる幸せを噛みしめた。
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