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2020年1月 薬理学発展コース
259 残酷な心
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2020年1月25日、土曜日。時刻は夕方17時過ぎ。
3月上旬の進級試験に向けて友達と勉強会をすると両親に嘘をついて神戸市の自宅を出た解川剖良は、阪急の京都河原町駅前で交際相手である上白石真琴と落ち合った。
「こんばんは、剖良さん。試験もあって忙しいのに来てくれてありがとう」
「私こそ、ここ最近はスケジュールが慌ただしくて申し訳ないです。来月中旬で授業は終わりなので、そこからはもっと会えると思います」
医学部3回生は2月中旬を最後に全ての授業は終了となりその後は進級試験まで自学自習となる。
進級試験では再試なしの一発勝負で進級の可否が決まるためどのみち猛勉強の毎日とはなるが、それでも真琴とデートをする機会は作れそうだと思った。
2人で駅前の通りを歩き、真琴が気に入っている女性向けの居酒屋を目指す。
寒気だけが通り抜ける1月下旬の街中を歩きながら、真琴は剖良の手を握った。
「剖良さん、今日……その、休憩できる所を予約してあるんですけど」
「ええ、いいですよ。終電までならお付き合いできますから、行きましょう」
真琴は今日この日ついに剖良とラブホテルに行こうとしており、これまでのデートでそれとなく了承の意思は確認していた。
剖良にとって真琴は人生で初めて交際した女性で、大学生同士が恋愛関係になるということの意味は剖良にも理解できていた。
2人で少し早い時間帯の居酒屋に入り、小料理とアルコールを注文する。
ホテルに入る前に泥酔してしまわないようアルコールに弱い真琴は度数の低い酒を注文していて、剖良もそれに倣っていた。
「私、女性同士で居酒屋に行くの好きなんです。好きだった先輩とも高校の部活のOG会の集まりでよく飲んでます」
「居酒屋って楽しいですよね。私も弓道部の飲み会でたまに行きます」
そういえば理子とは居酒屋に行ったことがないと思いつつ、剖良は運ばれてきたアルコールで真琴と乾杯した。
「きっかけはマッチングアプリだったけど、剖良さんと出会えて本当に良かったです。こんなに素敵な女性と付き合って3か月でここまで仲良くなれるなんて思いませんでした」
「私こそ真琴さんと仲良くなれて嬉しいです。私のことをこんなに愛してくれる人に出会えたから」
付き合い始める前も付き合い始めてからも先にアプローチをするのはいつも真琴だった。
真琴は剖良のことを心から愛してくれていて、剖良もその気持ちに感謝している。
それでも剖良は真琴に本当の意味で心を許せていないから、仮面を被ったまま交際を続けている。
クリスマスを控えて本来であれば真っ先に真琴とのデートの予定を立てるべき時、剖良は理子にクリスマスの予定を尋ねてしまった。
理子は恋人である柳沢雅人と真田雅敏のクリスマスコンサートに行くと明るく答えて、その返事にどうしてもショックを受けてしまった剖良は救いを求めるように真琴に連絡した。
真琴はクリスマスデートの誘いを喜んでくれて、剖良が自分からアプローチしたこと自体にも感謝してくれていた。
そして彼女の喜ぶ姿を見ながら、剖良は自分がとても残酷なことをしていると理解してしまった。
「剖良さん、今日は休憩に行きますけど辛かったり嫌になったりしたらいつでも言ってくださいね。私は剖良さんの意思を尊重しますから」
「ありがとうございます。全然そんなことにはならないと思いますから安心してください」
剖良が微笑みながら答えると真琴は優しい表情で頷いていた。
これまで仮面を被って付き合ってきたからこそ今日この機会に彼女ともっと親密になりたい。
そう思っていたから、剖良は両親に勉強会は終電近くまでかかるかも知れないと念押ししてきたのだった。
3月上旬の進級試験に向けて友達と勉強会をすると両親に嘘をついて神戸市の自宅を出た解川剖良は、阪急の京都河原町駅前で交際相手である上白石真琴と落ち合った。
「こんばんは、剖良さん。試験もあって忙しいのに来てくれてありがとう」
「私こそ、ここ最近はスケジュールが慌ただしくて申し訳ないです。来月中旬で授業は終わりなので、そこからはもっと会えると思います」
医学部3回生は2月中旬を最後に全ての授業は終了となりその後は進級試験まで自学自習となる。
進級試験では再試なしの一発勝負で進級の可否が決まるためどのみち猛勉強の毎日とはなるが、それでも真琴とデートをする機会は作れそうだと思った。
2人で駅前の通りを歩き、真琴が気に入っている女性向けの居酒屋を目指す。
寒気だけが通り抜ける1月下旬の街中を歩きながら、真琴は剖良の手を握った。
「剖良さん、今日……その、休憩できる所を予約してあるんですけど」
「ええ、いいですよ。終電までならお付き合いできますから、行きましょう」
真琴は今日この日ついに剖良とラブホテルに行こうとしており、これまでのデートでそれとなく了承の意思は確認していた。
剖良にとって真琴は人生で初めて交際した女性で、大学生同士が恋愛関係になるということの意味は剖良にも理解できていた。
2人で少し早い時間帯の居酒屋に入り、小料理とアルコールを注文する。
ホテルに入る前に泥酔してしまわないようアルコールに弱い真琴は度数の低い酒を注文していて、剖良もそれに倣っていた。
「私、女性同士で居酒屋に行くの好きなんです。好きだった先輩とも高校の部活のOG会の集まりでよく飲んでます」
「居酒屋って楽しいですよね。私も弓道部の飲み会でたまに行きます」
そういえば理子とは居酒屋に行ったことがないと思いつつ、剖良は運ばれてきたアルコールで真琴と乾杯した。
「きっかけはマッチングアプリだったけど、剖良さんと出会えて本当に良かったです。こんなに素敵な女性と付き合って3か月でここまで仲良くなれるなんて思いませんでした」
「私こそ真琴さんと仲良くなれて嬉しいです。私のことをこんなに愛してくれる人に出会えたから」
付き合い始める前も付き合い始めてからも先にアプローチをするのはいつも真琴だった。
真琴は剖良のことを心から愛してくれていて、剖良もその気持ちに感謝している。
それでも剖良は真琴に本当の意味で心を許せていないから、仮面を被ったまま交際を続けている。
クリスマスを控えて本来であれば真っ先に真琴とのデートの予定を立てるべき時、剖良は理子にクリスマスの予定を尋ねてしまった。
理子は恋人である柳沢雅人と真田雅敏のクリスマスコンサートに行くと明るく答えて、その返事にどうしてもショックを受けてしまった剖良は救いを求めるように真琴に連絡した。
真琴はクリスマスデートの誘いを喜んでくれて、剖良が自分からアプローチしたこと自体にも感謝してくれていた。
そして彼女の喜ぶ姿を見ながら、剖良は自分がとても残酷なことをしていると理解してしまった。
「剖良さん、今日は休憩に行きますけど辛かったり嫌になったりしたらいつでも言ってくださいね。私は剖良さんの意思を尊重しますから」
「ありがとうございます。全然そんなことにはならないと思いますから安心してください」
剖良が微笑みながら答えると真琴は優しい表情で頷いていた。
これまで仮面を被って付き合ってきたからこそ今日この機会に彼女ともっと親密になりたい。
そう思っていたから、剖良は両親に勉強会は終電近くまでかかるかも知れないと念押ししてきたのだった。
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