236 / 338
2019年12月 生理学発展コース
236 気分は最後通告
しおりを挟む
居間に通されるとそこには横長で背の低い田舎の家特有のテーブルが置かれていて、壬生川さんの祖父母はそれぞれ座布団に腰かけていた。
年配の人らしいファッションの洋服を着ているおばあさんとは異なりおじいさんは灰色の和服を着ていて、年齢にしては大柄な背丈もあって僕はその雰囲気に気圧されていた。
「今日はよく来てくれたわねえ。ちっちゃかった恵理ちゃんがまさか医学生の彼氏を連れてくるようになるなんて。祖母として誇らしいわあ~」
「ありがとうおばあちゃん。前に電話で言ったけど、塔也は中学校でも同級生だったの」
「ええ、ええ、理香子から聞いてますよ。地元の白神皮膚科のお坊ちゃんなんだってねえ。開業医の息子さんなら、それはもうお金持ちなんでしょう」
「いや、それは、その……」
おばあさんは世代的に開業医=大金持ちという認識らしく、僕はその先入観を頭から否定する訳にもいかず困った。
理香子さんというのはピアノ教室の講師を務めている壬生川さんのお母さんの名前で、壬生川さんの恵理という名前はお母さんと海内塾数学科講師であるお父さん(壬生川恵治さん)から一文字ずつ取って名づけられたらしい。
「おばあちゃん、今時は開業医だってそんなには儲からないのよ。私と同じで塔也は将来大学の先生になるけど、だからってお金の心配はないわ」
「そうなのかい? 恵理ちゃんは研究者になるっていうから、旦那さんには楽をさせて貰ったらいいと思うんだけどねえ」
「は、ははは……」
夫の方が金を多く稼いでくるべきというのは現代では古い考え方と見なされるが、おばあさんもかわいい孫に苦労をさせたくないという配慮から言っているのだということは僕にも分かった。
そこまで腕を組んで沈黙していたおじいさんは、そのタイミングで初めて口を開いた。
「……ちょっとわしの前まで来なさい。白神塔也君」
「は、はい」
おじいさんは自分の隣にある座布団を指さし、僕のフルネームを言ってそこまで移動するよう促した。
指示された通りに座布団に腰かけると、おじいさんは僕の両目を直視して、
「今からわしが質問することに正直に答えなさい。恵理と祥子は口を挟まないように」
「かしこまりました……」
「はいはい、分かりましたよ。恵理ちゃんも見守ってあげて」
「OK。塔也、頑張りなさい」
僕に最後通告のような口調で命令し、壬生川さんとおばあさんにも会話に口出ししないよう伝えた。
年配の人らしいファッションの洋服を着ているおばあさんとは異なりおじいさんは灰色の和服を着ていて、年齢にしては大柄な背丈もあって僕はその雰囲気に気圧されていた。
「今日はよく来てくれたわねえ。ちっちゃかった恵理ちゃんがまさか医学生の彼氏を連れてくるようになるなんて。祖母として誇らしいわあ~」
「ありがとうおばあちゃん。前に電話で言ったけど、塔也は中学校でも同級生だったの」
「ええ、ええ、理香子から聞いてますよ。地元の白神皮膚科のお坊ちゃんなんだってねえ。開業医の息子さんなら、それはもうお金持ちなんでしょう」
「いや、それは、その……」
おばあさんは世代的に開業医=大金持ちという認識らしく、僕はその先入観を頭から否定する訳にもいかず困った。
理香子さんというのはピアノ教室の講師を務めている壬生川さんのお母さんの名前で、壬生川さんの恵理という名前はお母さんと海内塾数学科講師であるお父さん(壬生川恵治さん)から一文字ずつ取って名づけられたらしい。
「おばあちゃん、今時は開業医だってそんなには儲からないのよ。私と同じで塔也は将来大学の先生になるけど、だからってお金の心配はないわ」
「そうなのかい? 恵理ちゃんは研究者になるっていうから、旦那さんには楽をさせて貰ったらいいと思うんだけどねえ」
「は、ははは……」
夫の方が金を多く稼いでくるべきというのは現代では古い考え方と見なされるが、おばあさんもかわいい孫に苦労をさせたくないという配慮から言っているのだということは僕にも分かった。
そこまで腕を組んで沈黙していたおじいさんは、そのタイミングで初めて口を開いた。
「……ちょっとわしの前まで来なさい。白神塔也君」
「は、はい」
おじいさんは自分の隣にある座布団を指さし、僕のフルネームを言ってそこまで移動するよう促した。
指示された通りに座布団に腰かけると、おじいさんは僕の両目を直視して、
「今からわしが質問することに正直に答えなさい。恵理と祥子は口を挟まないように」
「かしこまりました……」
「はいはい、分かりましたよ。恵理ちゃんも見守ってあげて」
「OK。塔也、頑張りなさい」
僕に最後通告のような口調で命令し、壬生川さんとおばあさんにも会話に口出ししないよう伝えた。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ウェブ小説家見習いの第117回医師国家試験受験記録
輪島ライ
エッセイ・ノンフィクション
ウェブ小説家見習いの現役医学生が第117回医師国家試験に合格するまでの体験記です。
※このエッセイは「小説家になろう」「アルファポリス」「カクヨム」「エブリスタ」に投稿しています。
※このエッセイの内容は一人の医師国家試験受験生の受験記録に過ぎません。今後国試を受験する医学生の参考になれば幸いですが実際に自分自身の勉強法に取り入れるかはよく考えて決めてください。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる