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2019年11月 生化学発展コース
218 男の覚悟
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「……珠樹、入るで」
2階にある父の書斎のドアをノックしても珠樹からの返事はなかった。
相手の意思を承知した上で扉を開けて中に入ると、珠樹は座布団の上に腰かけて机に向かっていた。
机上にはセンター試験の過去問題集が置かれていて、既に大部分を解き終えたのか分厚い冊子はくたびれていた。
それでも今は勉強に手が付いていないらしい珠樹の傍に化奈は腰を下ろした。
「そろそろ寝たら。疲れてる時に無理しても身に付かへんで」
「……うん」
頭が一杯になっている珠樹は沈みきった表情でそう答えることしかできず、彼の気持ちは化奈にも痛いほど理解できた。
今は何よりも彼に寄り添ってあげたいと考え、化奈は珠樹を背中から抱きしめた。
「なあ、珠樹。今言うのもあれやねんけど」
「……」
「うち、珠樹に惚れてもうたわ。珠樹のこと、好きでしょうがない」
彼の背中に抱きついたまま化奈は右手で珠樹の頭を撫でた。
「無理、せんでええよ。カナちゃんの気持ちは嬉しいけど……」
「冗談やない。おじちゃんのことがなかったら、珠樹が大学受かってからプロポーズするつもりやった」
「……ほんまに?」
化奈の方に振り向くことなく、珠樹はぽつりとそう尋ねた。
「せやから、おじちゃんがおらんようなっても珠樹は寂しゅうない。うちがずっと一緒におって、珠樹を幸せにする」
静かな口調でそう告げると化奈は珠樹の背中に顔をうずめた。
彼の身体は温かくて、懐かしい感じがした。
そのまま10分ほど経って化奈は珠樹から身体を離した。
珠樹は身体を化奈の方に向け、何かを話し始めた。
「カナちゃんに内緒にしてたことがあるから、俺も正直に言うわ。聞いてくれる?」
「うん、何でも聞くで」
彼が話したいことは概ね察しつつ化奈は笑顔で答えた。
「俺、医学部受験やめる。立志社大学の経営学部やったら今からでも受けれるから、ちゃんとした文系大学行って会社継ぐわ。父さんがおらんなった分、俺が会社支える」
珠樹は医学部受験という目標を撤回し、地元の名門私立大学の経営学部に入学して会社の跡継ぎになりたいと言った。
「言っとくけど医学部受験が怖くて逃げるんやないで。あれだけ勉強してきてんから、今の俺やったらカナちゃんの後輩にもなれる思う。せやけどもう周りに甘えてられる状況でもないから、俺は現役で大学行って会社継ぐんや」
昔のような大阪弁に戻った珠樹の目は真っすぐに光っていて、化奈は医学部受験のための努力が彼を成長させたということを改めて理解した。
懸命に頑張り成果を上げていく姿を見て化奈は珠樹の魅力に気づいたのだ。
そして、ここからが自分の役目だと考えて化奈は動き出す。
「珠樹のやる気はよう分かった。珠樹が自分で考えて決めたことやったらうちは応援するで。……本当に、覚悟できてるんやったらな」
低い声でそう言うと化奈は床に腰かけたまま珠樹ににじり寄った。
「か、カナちゃん?」
「立志社大学、ちゃんと現役で受かるんやな? うちのこと幸せにしてくれるんやな?」
「せやで。俺やったらそれぐらい絶対できる」
従姉の剣幕にひるみつつ答えた珠樹に、化奈は頭の中の制御装置を解除すると、
「せやったら、うちを抱いて見せてや。覚悟、できてんねんやろ?」
「えっ!?」
はっきりとした口調で、珠樹の目を見てそう言った。
その言葉に驚愕する珠樹に化奈は床から立ち上がりつつ突進した。
そのまま部屋の隅に敷かれている布団まで珠樹を突き飛ばすと、化奈は彼の身体に馬乗りになった。
「あ、あかんわカナちゃん。そんなん、妊娠してまうし……」
「これ使い。万が一できたらそん時はそん時や!!」
パジャマのポケットに入れてきた新品のコンドームを箱ごと布団に叩きつけ、化奈は叫んだ。
「もう我慢できへんわ。珠樹!」
「んぐっ……」
布団に仰向けで寝ている珠樹の唇を奪い、化奈は本能に身を任せた。
人生で初めて飲んだアルコールが脳に回ってきて、化奈の意識はそのままどこかに飛んでいった。
2階にある父の書斎のドアをノックしても珠樹からの返事はなかった。
相手の意思を承知した上で扉を開けて中に入ると、珠樹は座布団の上に腰かけて机に向かっていた。
机上にはセンター試験の過去問題集が置かれていて、既に大部分を解き終えたのか分厚い冊子はくたびれていた。
それでも今は勉強に手が付いていないらしい珠樹の傍に化奈は腰を下ろした。
「そろそろ寝たら。疲れてる時に無理しても身に付かへんで」
「……うん」
頭が一杯になっている珠樹は沈みきった表情でそう答えることしかできず、彼の気持ちは化奈にも痛いほど理解できた。
今は何よりも彼に寄り添ってあげたいと考え、化奈は珠樹を背中から抱きしめた。
「なあ、珠樹。今言うのもあれやねんけど」
「……」
「うち、珠樹に惚れてもうたわ。珠樹のこと、好きでしょうがない」
彼の背中に抱きついたまま化奈は右手で珠樹の頭を撫でた。
「無理、せんでええよ。カナちゃんの気持ちは嬉しいけど……」
「冗談やない。おじちゃんのことがなかったら、珠樹が大学受かってからプロポーズするつもりやった」
「……ほんまに?」
化奈の方に振り向くことなく、珠樹はぽつりとそう尋ねた。
「せやから、おじちゃんがおらんようなっても珠樹は寂しゅうない。うちがずっと一緒におって、珠樹を幸せにする」
静かな口調でそう告げると化奈は珠樹の背中に顔をうずめた。
彼の身体は温かくて、懐かしい感じがした。
そのまま10分ほど経って化奈は珠樹から身体を離した。
珠樹は身体を化奈の方に向け、何かを話し始めた。
「カナちゃんに内緒にしてたことがあるから、俺も正直に言うわ。聞いてくれる?」
「うん、何でも聞くで」
彼が話したいことは概ね察しつつ化奈は笑顔で答えた。
「俺、医学部受験やめる。立志社大学の経営学部やったら今からでも受けれるから、ちゃんとした文系大学行って会社継ぐわ。父さんがおらんなった分、俺が会社支える」
珠樹は医学部受験という目標を撤回し、地元の名門私立大学の経営学部に入学して会社の跡継ぎになりたいと言った。
「言っとくけど医学部受験が怖くて逃げるんやないで。あれだけ勉強してきてんから、今の俺やったらカナちゃんの後輩にもなれる思う。せやけどもう周りに甘えてられる状況でもないから、俺は現役で大学行って会社継ぐんや」
昔のような大阪弁に戻った珠樹の目は真っすぐに光っていて、化奈は医学部受験のための努力が彼を成長させたということを改めて理解した。
懸命に頑張り成果を上げていく姿を見て化奈は珠樹の魅力に気づいたのだ。
そして、ここからが自分の役目だと考えて化奈は動き出す。
「珠樹のやる気はよう分かった。珠樹が自分で考えて決めたことやったらうちは応援するで。……本当に、覚悟できてるんやったらな」
低い声でそう言うと化奈は床に腰かけたまま珠樹ににじり寄った。
「か、カナちゃん?」
「立志社大学、ちゃんと現役で受かるんやな? うちのこと幸せにしてくれるんやな?」
「せやで。俺やったらそれぐらい絶対できる」
従姉の剣幕にひるみつつ答えた珠樹に、化奈は頭の中の制御装置を解除すると、
「せやったら、うちを抱いて見せてや。覚悟、できてんねんやろ?」
「えっ!?」
はっきりとした口調で、珠樹の目を見てそう言った。
その言葉に驚愕する珠樹に化奈は床から立ち上がりつつ突進した。
そのまま部屋の隅に敷かれている布団まで珠樹を突き飛ばすと、化奈は彼の身体に馬乗りになった。
「あ、あかんわカナちゃん。そんなん、妊娠してまうし……」
「これ使い。万が一できたらそん時はそん時や!!」
パジャマのポケットに入れてきた新品のコンドームを箱ごと布団に叩きつけ、化奈は叫んだ。
「もう我慢できへんわ。珠樹!」
「んぐっ……」
布団に仰向けで寝ている珠樹の唇を奪い、化奈は本能に身を任せた。
人生で初めて飲んだアルコールが脳に回ってきて、化奈の意識はそのままどこかに飛んでいった。
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