213 / 338
2019年11月 生化学発展コース
213 お姉様の心づかい
しおりを挟む
2019年11月16日、土曜日。時刻は昼12時頃。
立志社女子大学囲碁サークルの定例対局会を欠席して畿内医科大学の大学祭を訪れた上白石真琴は、待ち合わせをしている交際相手を探して第二キャンパスの周囲を歩き回っていた。
(地図によると第二キャンパスは今見えてるあれで……入り口どこなのかな?)
大学祭の会場である畿内医大の第二キャンパスは鉄製の柵で囲まれており入場門以外からは出入りできないため、初めての来訪となる真琴は目の前にある会場に入れず困っていた。
こういう時の鉄則として第二キャンパスを囲む柵を右手でつたうように歩いていくと入場門はようやく見つかり、真琴は若干緊張しながらグラウンドへと歩いていった。
総合大学である立志社女子大学の大学祭と比べればずっと小規模だが様々な部活の学生たちがグラウンドで出店を開いている様子にはやはり活気があり、真琴は後で何か買い物をしてみたいと思った。
といっても交際相手との待ち合わせ場所はグラウンドに併設された競技場の前であり、今来るべき所はここではないと離れようとした所で、
「あれ? もしかして真琴?」
「その声は……お姉様!?」
とても聞き覚えのある声が耳に届き、振り向いた先には畿内医大医学部2回生にして立志社女子高校囲碁部の先輩である壬生川恵理の姿があった。
真琴はこの場で知人と出くわす可能性を全く考慮していなかったが競技場に最も近いグラウンドの隅では女子バスケットボール部がペットボトル販売の出店を開いており、グラウンドを通り抜けて競技場に行こうとした彼女が恵理に見つかったのは不自然なことではなかった。
「何よ、来てくれるんなら教えてくれればいいのに」
「ごめんなさい、まさかお姉……じゃなくて壬生川先輩も出店やってるとは思わなくて」
本当は大学祭を訪れると事前に伝えたらここに来た真の目的を知られかねないからだが、真琴は焦りながら弁明した。
流石に恵理の部活仲間の前で「お姉様」を連呼するのはよくないと考え、慌てて呼び方を変える。
「えっ、恵理先輩のお知り合いなんですか? すっごく美人ー!」
「そんな、美人だなんて。私、壬生川先輩の高校の後輩で立志社女子大社会学部3回生の上白石真琴っていいます。部活の後輩さんですか?」
「はい、医学部1回生の滝藤です。えーと、恵理先輩の後輩だけど3回生で……」
「滝ちゃん、そこは今は置いときましょ?」
現役で畿内医大に入学しているためか「二浪以上した大学生が高校の後輩に学年を追い越される」現象を理解できていない滝藤に、女子バスケ部主将の金森は冷たい笑顔でその話題を打ち切るよう促した。
「実はこの大学に趣味で知り合った友達がいて、その子から来て欲しいって誘われたんです。今は競技場? の前で待ち合わせしてて……」
「そういうことね。だったら早く行ってあげたら? ついでに1本買ってってちょうだい」
「分かりました。ありがとうございます」
恵理は「趣味で知り合った」という台詞と真琴の性的指向から言わんとする所を察したらしく、ペットボトルを買わせつつ真琴がこの場から早く立ち去れるよう話題を誘導した。
100円玉を渡してお茶のペットボトルを買い女子バスケ部員たちに別れの挨拶をすると、真琴は恵理に手を振りつつ競技場へと歩いていった。
立志社女子大学囲碁サークルの定例対局会を欠席して畿内医科大学の大学祭を訪れた上白石真琴は、待ち合わせをしている交際相手を探して第二キャンパスの周囲を歩き回っていた。
(地図によると第二キャンパスは今見えてるあれで……入り口どこなのかな?)
大学祭の会場である畿内医大の第二キャンパスは鉄製の柵で囲まれており入場門以外からは出入りできないため、初めての来訪となる真琴は目の前にある会場に入れず困っていた。
こういう時の鉄則として第二キャンパスを囲む柵を右手でつたうように歩いていくと入場門はようやく見つかり、真琴は若干緊張しながらグラウンドへと歩いていった。
総合大学である立志社女子大学の大学祭と比べればずっと小規模だが様々な部活の学生たちがグラウンドで出店を開いている様子にはやはり活気があり、真琴は後で何か買い物をしてみたいと思った。
といっても交際相手との待ち合わせ場所はグラウンドに併設された競技場の前であり、今来るべき所はここではないと離れようとした所で、
「あれ? もしかして真琴?」
「その声は……お姉様!?」
とても聞き覚えのある声が耳に届き、振り向いた先には畿内医大医学部2回生にして立志社女子高校囲碁部の先輩である壬生川恵理の姿があった。
真琴はこの場で知人と出くわす可能性を全く考慮していなかったが競技場に最も近いグラウンドの隅では女子バスケットボール部がペットボトル販売の出店を開いており、グラウンドを通り抜けて競技場に行こうとした彼女が恵理に見つかったのは不自然なことではなかった。
「何よ、来てくれるんなら教えてくれればいいのに」
「ごめんなさい、まさかお姉……じゃなくて壬生川先輩も出店やってるとは思わなくて」
本当は大学祭を訪れると事前に伝えたらここに来た真の目的を知られかねないからだが、真琴は焦りながら弁明した。
流石に恵理の部活仲間の前で「お姉様」を連呼するのはよくないと考え、慌てて呼び方を変える。
「えっ、恵理先輩のお知り合いなんですか? すっごく美人ー!」
「そんな、美人だなんて。私、壬生川先輩の高校の後輩で立志社女子大社会学部3回生の上白石真琴っていいます。部活の後輩さんですか?」
「はい、医学部1回生の滝藤です。えーと、恵理先輩の後輩だけど3回生で……」
「滝ちゃん、そこは今は置いときましょ?」
現役で畿内医大に入学しているためか「二浪以上した大学生が高校の後輩に学年を追い越される」現象を理解できていない滝藤に、女子バスケ部主将の金森は冷たい笑顔でその話題を打ち切るよう促した。
「実はこの大学に趣味で知り合った友達がいて、その子から来て欲しいって誘われたんです。今は競技場? の前で待ち合わせしてて……」
「そういうことね。だったら早く行ってあげたら? ついでに1本買ってってちょうだい」
「分かりました。ありがとうございます」
恵理は「趣味で知り合った」という台詞と真琴の性的指向から言わんとする所を察したらしく、ペットボトルを買わせつつ真琴がこの場から早く立ち去れるよう話題を誘導した。
100円玉を渡してお茶のペットボトルを買い女子バスケ部員たちに別れの挨拶をすると、真琴は恵理に手を振りつつ競技場へと歩いていった。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ウェブ小説家見習いの第117回医師国家試験受験記録
輪島ライ
エッセイ・ノンフィクション
ウェブ小説家見習いの現役医学生が第117回医師国家試験に合格するまでの体験記です。
※このエッセイは「小説家になろう」「アルファポリス」「カクヨム」「エブリスタ」に投稿しています。
※このエッセイの内容は一人の医師国家試験受験生の受験記録に過ぎません。今後国試を受験する医学生の参考になれば幸いですが実際に自分自身の勉強法に取り入れるかはよく考えて決めてください。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる