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2019年11月 生化学発展コース
211 気分はいとこ婚
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カナやんがAI相性診断を受ける所を結局最後まで見てしまった僕は、彼女と2人で計良君に別れの挨拶をするとテントの外に出た。
テントから離れて競技場内の隅の方まで歩くと僕らは来客用の椅子に腰かけて話し始めた。
「それにしてもカナやんも計良君の占いに興味あったんだね。元々知ってたの?」
「せやで。1回生の計良君がパソコンで相性診断やってくれる言うから、その、気になってる人との相性を確かめよう思て」
「なるほど……」
道心君は占いの館に人が来なくて計良君が困っていると話していたが、少なくとも需要はあったらしい。
「お似合い度100%とかすごい数字出てたね。カナやんにそんな相手がいたなんて」
「あはは、うちもあれにはびっくりしたで……あーもう、駄目やわ。白神君には隠し事できへんわ」
あえて白々しいコメントをすると、カナやんはパイプ椅子に座ったまま頭を抱えた。
「あのな、白神君。うち、珠樹のことが気になってんねん」
「うん……気づいてた」
僕の反応は彼女も大体予測していたらしく、彼女は真剣な表情のまま無言で頷いた。
競技場には現在ほとんど人の姿がなく誰に話を聞かれる恐れもない中で、僕はカナやんと並んで座って会話を続けていた。
「ごめんな、また変な話聞かせて。……うち、恋愛小説ばっかり読んでておかしくなったんかな? 白神君と付き合えへんかったからなんかな? ……こんなこと言われても、困るだけやんな……」
隠していた悩み事を初めて打ち明け、その相手がかつて思いを寄せていた異性だったこともあってかカナやんは頭が一杯になってしまっているようだった。
両手で顔を押さえ、声をひそめて泣き始めたカナやんに僕はあえて何も声をかけずに黙っていた。
数分するとカナやんは落ち着いてくれて、やはり豪快に長袖で涙をぬぐった。
そろそろいい頃だろうと判断して僕は再びカナやんに話しかける。
「あのさ、カナやん。僕はカナやんと同じような悩みを持ったことがないから十分に共感はできてないと思う」
「……」
僕の声に耳を傾けている彼女に僕は最も大切なメッセージを伝える。
「だけど僕個人の意見として言わせて貰えば、カナやんが珠樹君を好きになったのは恋愛小説にはまってるからじゃないし、僕とのことも関係ないと思う。だって、単なる気の迷いなら本気で泣くほど悩んだりしないから」
そのまま続けて、
「だから今この場で、珠樹君のどこが好きなのかを僕に教えてよ。話してみるだけでも楽になれると思うから」
静かにそう伝えると、カナやんはこくこくと頷いてから話し始めた。
それから彼女が語ったのは次のようなことだった。
かつての珠樹君、つまり今年4月に僕と知り合うまでの珠樹君は確かに超進学校で落ちこぼれている残念な高校生だった。
彼が本当の意味で残念な高校生だったかは置いておいて、少なくともカナやんからはそう見えていた。
しかしそれから医学部受験に向けて全力で頑張り始め、驚くほどの短期間で成績を急上昇させていった珠樹君は半年前と同じ人とは思えないほど輝いていた。
目的に向かって全力で努力して時には熱中症で倒れるほど勉強に打ち込み、彼は成績を伸ばすのみならず人間としても成長していった。
珠樹君は確かに高校で落ちこぼれていたが超進学校に入学できている時点で地頭は非常に良く、剣道部のエースだけあってスポーツの才能もあれば容姿にも優れている。
それほどまでに才能に溢れ異性からのアプローチも度々経験してきた男子でありながら、彼は従姉であるカナやんを一途に愛していた。
彼が本気で自分を追って畿内医大に入学したいと考え、それを実現できるだけの成果も上げていく中で、カナやんが珠樹君の異性としての魅力に気づいたのは何も不思議なことではなかった。
それでもカナやんと珠樹君の間には従姉弟同士であるという現代日本では小さくない障害があり、カナやんは珠樹君を愛してしまった自分の感情そのものにも悩まざるを得なかったのだった。
「……そんで、珠樹を好きになってもうた自分が嫌になっててんけど、うちはおかしくないんかな?」
「全然おかしくないよ。そもそも日本の法律ではいとこ同士は結婚できるし、歴代の総理大臣にもいとこと結婚した人がいるぐらいだよ。お互いがお互いをちゃんと好きになったなら、それを邪魔していい人なんて誰もいないと思う」
現代日本においていとこ婚が一般的でないのはあくまで道徳的・習俗的な観点によるもので、法的に認められている以上はカナやんと珠樹君との恋は誰からも批判されるべきではない。
今となっては2人の関係は完全なる両想いであり、お互いが本当に愛し合ってさえいればその行く先がいとこ婚の是非などに左右されてはならないと思った。
「そうなんやね。うちの両親は珠樹のことを良く思てへんみたいやけど、珠樹のお父さんとお母さんはあんまり反対してへんみたいやからいとこ同士やからって絶望的に考えるんはやめとくわ」
笑顔を浮かべてそう言ったカナやんに、僕は何度も深く頷いた。
テントから離れて競技場内の隅の方まで歩くと僕らは来客用の椅子に腰かけて話し始めた。
「それにしてもカナやんも計良君の占いに興味あったんだね。元々知ってたの?」
「せやで。1回生の計良君がパソコンで相性診断やってくれる言うから、その、気になってる人との相性を確かめよう思て」
「なるほど……」
道心君は占いの館に人が来なくて計良君が困っていると話していたが、少なくとも需要はあったらしい。
「お似合い度100%とかすごい数字出てたね。カナやんにそんな相手がいたなんて」
「あはは、うちもあれにはびっくりしたで……あーもう、駄目やわ。白神君には隠し事できへんわ」
あえて白々しいコメントをすると、カナやんはパイプ椅子に座ったまま頭を抱えた。
「あのな、白神君。うち、珠樹のことが気になってんねん」
「うん……気づいてた」
僕の反応は彼女も大体予測していたらしく、彼女は真剣な表情のまま無言で頷いた。
競技場には現在ほとんど人の姿がなく誰に話を聞かれる恐れもない中で、僕はカナやんと並んで座って会話を続けていた。
「ごめんな、また変な話聞かせて。……うち、恋愛小説ばっかり読んでておかしくなったんかな? 白神君と付き合えへんかったからなんかな? ……こんなこと言われても、困るだけやんな……」
隠していた悩み事を初めて打ち明け、その相手がかつて思いを寄せていた異性だったこともあってかカナやんは頭が一杯になってしまっているようだった。
両手で顔を押さえ、声をひそめて泣き始めたカナやんに僕はあえて何も声をかけずに黙っていた。
数分するとカナやんは落ち着いてくれて、やはり豪快に長袖で涙をぬぐった。
そろそろいい頃だろうと判断して僕は再びカナやんに話しかける。
「あのさ、カナやん。僕はカナやんと同じような悩みを持ったことがないから十分に共感はできてないと思う」
「……」
僕の声に耳を傾けている彼女に僕は最も大切なメッセージを伝える。
「だけど僕個人の意見として言わせて貰えば、カナやんが珠樹君を好きになったのは恋愛小説にはまってるからじゃないし、僕とのことも関係ないと思う。だって、単なる気の迷いなら本気で泣くほど悩んだりしないから」
そのまま続けて、
「だから今この場で、珠樹君のどこが好きなのかを僕に教えてよ。話してみるだけでも楽になれると思うから」
静かにそう伝えると、カナやんはこくこくと頷いてから話し始めた。
それから彼女が語ったのは次のようなことだった。
かつての珠樹君、つまり今年4月に僕と知り合うまでの珠樹君は確かに超進学校で落ちこぼれている残念な高校生だった。
彼が本当の意味で残念な高校生だったかは置いておいて、少なくともカナやんからはそう見えていた。
しかしそれから医学部受験に向けて全力で頑張り始め、驚くほどの短期間で成績を急上昇させていった珠樹君は半年前と同じ人とは思えないほど輝いていた。
目的に向かって全力で努力して時には熱中症で倒れるほど勉強に打ち込み、彼は成績を伸ばすのみならず人間としても成長していった。
珠樹君は確かに高校で落ちこぼれていたが超進学校に入学できている時点で地頭は非常に良く、剣道部のエースだけあってスポーツの才能もあれば容姿にも優れている。
それほどまでに才能に溢れ異性からのアプローチも度々経験してきた男子でありながら、彼は従姉であるカナやんを一途に愛していた。
彼が本気で自分を追って畿内医大に入学したいと考え、それを実現できるだけの成果も上げていく中で、カナやんが珠樹君の異性としての魅力に気づいたのは何も不思議なことではなかった。
それでもカナやんと珠樹君の間には従姉弟同士であるという現代日本では小さくない障害があり、カナやんは珠樹君を愛してしまった自分の感情そのものにも悩まざるを得なかったのだった。
「……そんで、珠樹を好きになってもうた自分が嫌になっててんけど、うちはおかしくないんかな?」
「全然おかしくないよ。そもそも日本の法律ではいとこ同士は結婚できるし、歴代の総理大臣にもいとこと結婚した人がいるぐらいだよ。お互いがお互いをちゃんと好きになったなら、それを邪魔していい人なんて誰もいないと思う」
現代日本においていとこ婚が一般的でないのはあくまで道徳的・習俗的な観点によるもので、法的に認められている以上はカナやんと珠樹君との恋は誰からも批判されるべきではない。
今となっては2人の関係は完全なる両想いであり、お互いが本当に愛し合ってさえいればその行く先がいとこ婚の是非などに左右されてはならないと思った。
「そうなんやね。うちの両親は珠樹のことを良く思てへんみたいやけど、珠樹のお父さんとお母さんはあんまり反対してへんみたいやからいとこ同士やからって絶望的に考えるんはやめとくわ」
笑顔を浮かべてそう言ったカナやんに、僕は何度も深く頷いた。
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