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2019年10月 解剖学発展コース
190 気分はブロークンハート
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第一講堂あるいは第二講堂を出て右に曲がった先には男女別のロッカールームに続く廊下があり、僕はその途中で今最も会いたくない相手に出会った。
ヤミ子先輩と柳沢君が話している講堂前のロビーを見渡せるその位置に立ち尽くしていたのは、
「…………」
やはりと言うべきか剖良先輩その人だった。
無言で廊下に立ちバッグを持っていない方の手でスーツのスカートをぎゅっと握りしめている先輩に、僕はどう声をかければいいのか迷った。
「えーと……」
スルーしてロッカールームに入るのは流石にと考慮していると、剖良先輩は怖ろしい勢いで僕に背中を向けた。
「先輩!?」
「ごめん塔也君、私は今日カラオケには行けないからこのまま帰るね。ヤミ子たちに伝えといて」
剖良先輩はそのまま廊下を走り出すと講義実習棟の1階へと続く階段を駆け下りていった。
「ちょっと待ってくださいよ、いきなり帰るなんて!」
今の先輩はパニックになっていると理解し、僕は慌てて剖良先輩の後を追った。
先輩は講義実習棟の1階に下りるとそのまま建物から走り出て、講義実習棟の裏まで行くと足を止めた。
「先輩、それは流石にひどいですよ! 確かにその、辛かったのは分かりますけど、前から約束してたんでしょう?」
事前に約束していたはずのカラオケをドタキャンされてはヤミ子先輩も男子2名も困惑するはずで、僕は剖良先輩を必死でなだめた。
すると先輩は僕に背中を向けたまま、何か言葉を口にしようとした。
「……そんなこと、私だって分かってる。……だけど、だけど……」
剖良先輩が涙を流しているのは声音から察せて、僕はそのまま沈黙していた。
「今ヤミ子の前に行ったら、私は絶対に普通に話せない。……そう、なったら、ヤミ子は私がおかしくなってる理由に気づく。……ヤミ子に辛い思いをさせるのだけは、絶対にっ……いやっ、だがらっ……」
先輩はそこまで言うと涙のあまりまともに声が出せなくなり、そのままコンクリートの地面に泣き崩れた。
「……私はヤミ子が好きだから、あの子の恋を邪魔したくない。……もういい! 私、あの子の傍からいなくなる! 大学なんてやめる! 私なんて、生きてても仕方ないから!!」
地面に座り込み大声で泣き叫ぶ剖良先輩は、この世の誰よりも哀れに見えた。
彼女のために今何をすべきかを考え、僕はポケットからスマホを取り出すとメッセージアプリを操作した。
マレー先輩のアカウントを開くと通話機能で電話をかける。
「……もしもし、白神です。先ほどロッカールームの前で剖良先輩が倒れてるのを見かけて、保健管理室まで連れて行きました。保健師さんが対応してくれてますけど、カラオケどころではないので今日は3人で行ってきてください。……ええ、後は僕に任せてください」
そこまで話して通話を切ると僕は泣き続けている剖良先輩の右腕を引っ張って立たせ、人や自転車が通らない所まで連れて行くことにした。
土曜日なので誰の姿もない研究棟の1階まで2人で歩いていくと、剖良先輩は気持ちが一杯になったらしく背後から僕に抱きついた。
「……ごめん塔也君。……しばらく、こうさせて」
涙は枯れ果て心は砕け散ったままで、剖良先輩は僕の背中に顔をうずめていた。
ヤミ子先輩と柳沢君が話している講堂前のロビーを見渡せるその位置に立ち尽くしていたのは、
「…………」
やはりと言うべきか剖良先輩その人だった。
無言で廊下に立ちバッグを持っていない方の手でスーツのスカートをぎゅっと握りしめている先輩に、僕はどう声をかければいいのか迷った。
「えーと……」
スルーしてロッカールームに入るのは流石にと考慮していると、剖良先輩は怖ろしい勢いで僕に背中を向けた。
「先輩!?」
「ごめん塔也君、私は今日カラオケには行けないからこのまま帰るね。ヤミ子たちに伝えといて」
剖良先輩はそのまま廊下を走り出すと講義実習棟の1階へと続く階段を駆け下りていった。
「ちょっと待ってくださいよ、いきなり帰るなんて!」
今の先輩はパニックになっていると理解し、僕は慌てて剖良先輩の後を追った。
先輩は講義実習棟の1階に下りるとそのまま建物から走り出て、講義実習棟の裏まで行くと足を止めた。
「先輩、それは流石にひどいですよ! 確かにその、辛かったのは分かりますけど、前から約束してたんでしょう?」
事前に約束していたはずのカラオケをドタキャンされてはヤミ子先輩も男子2名も困惑するはずで、僕は剖良先輩を必死でなだめた。
すると先輩は僕に背中を向けたまま、何か言葉を口にしようとした。
「……そんなこと、私だって分かってる。……だけど、だけど……」
剖良先輩が涙を流しているのは声音から察せて、僕はそのまま沈黙していた。
「今ヤミ子の前に行ったら、私は絶対に普通に話せない。……そう、なったら、ヤミ子は私がおかしくなってる理由に気づく。……ヤミ子に辛い思いをさせるのだけは、絶対にっ……いやっ、だがらっ……」
先輩はそこまで言うと涙のあまりまともに声が出せなくなり、そのままコンクリートの地面に泣き崩れた。
「……私はヤミ子が好きだから、あの子の恋を邪魔したくない。……もういい! 私、あの子の傍からいなくなる! 大学なんてやめる! 私なんて、生きてても仕方ないから!!」
地面に座り込み大声で泣き叫ぶ剖良先輩は、この世の誰よりも哀れに見えた。
彼女のために今何をすべきかを考え、僕はポケットからスマホを取り出すとメッセージアプリを操作した。
マレー先輩のアカウントを開くと通話機能で電話をかける。
「……もしもし、白神です。先ほどロッカールームの前で剖良先輩が倒れてるのを見かけて、保健管理室まで連れて行きました。保健師さんが対応してくれてますけど、カラオケどころではないので今日は3人で行ってきてください。……ええ、後は僕に任せてください」
そこまで話して通話を切ると僕は泣き続けている剖良先輩の右腕を引っ張って立たせ、人や自転車が通らない所まで連れて行くことにした。
土曜日なので誰の姿もない研究棟の1階まで2人で歩いていくと、剖良先輩は気持ちが一杯になったらしく背後から僕に抱きついた。
「……ごめん塔也君。……しばらく、こうさせて」
涙は枯れ果て心は砕け散ったままで、剖良先輩は僕の背中に顔をうずめていた。
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