気分は基礎医学

輪島ライ

文字の大きさ
上 下
180 / 338
2019年10月 解剖学発展コース

180 魅力的な女性

しおりを挟む
 2019年10月13日、日曜日。時刻は朝の10時。

 祝日である体育の日を翌日に控えたこの日、剖良は阪急京都河原町駅で出会いの相手を待っていた。

 レズビアン専用マッチングアプリ「フェルミオン」で唯一剖良が興味を持てた相手のハンドルネームは「まこっちゃん」といって、京都府内の文系大学に通う女子大生とのことだった。

 特に加工していなさそうな写真によれば相手は中々の美人で将来的な社会的地位も低くなく、趣味や特技には知的さが感じられた。

 剖良は理子の外見と性格のみならず知的さと将来の社会的地位も含めて愛していたので、マッチングアプリで出会う相手には少なくともそれらの要素のうちいくつかは持っておいて欲しいと思っていた。


 ひとまずこちらからフォローリクエストを送ってみると相手もすぐにリクエストを受け入れてくれて、メッセージのやり取りをした限りでは感じの良い女性だった。

 彼女は京都府内でも宇治市在住とのことで自分は阪急神戸線の沿線に自宅があると伝えた結果、直近の日曜日に阪急京都線の京都河原町駅で直接会うことになった。

 神戸市にある剖良の実家から畿内医大までは電車で1時間近くかかり阪急京都線の皆月市駅を越えて京都河原町駅まで行くとさらに数十分かかるが、魅力的な女性と会いに行くためならばその程度の移動時間は気にならなかった。


 特急の電車を降りて駅の改札口を通過し、集合場所となっている看板の前まで行くとそれらしき相手はすぐに見つかった。

 文系女子大生らしい洗練されたファッションに身を包んだ彼女は写真と同じショートボブの髪型で小柄な背丈が特徴的だった。


「あの、すみません。私、アプリを見て来たんですけど……」

 万が一人違いでも問題がないような台詞で呼びかけると、

「あっ、こんにちは。あなた、さっちゃんさんですか?」

 スマホを見ていた女性はすぐに笑顔で振り向き、剖良のハンドルネームを口にした。


 相手は紛れもなく「まこっちゃん」というハンドルネームを使っていた女性で、お互いの身元を確認すると2人は適当に話そうと近場の喫茶店に入った。

 「まこっちゃん」は普段は京阪本線とそれにつながる路線の駅しか利用しないらしくこの辺りの地理にはあまり詳しくないとのことだった。


「今日はお会いしてくださってありがとうございます。私、立志社女子大学社会学部3回生の上白石かみしらいし真琴まことっていいます。さっちゃんさんも大学生なんですよね?」
「ええ。私は畿内医科大学医学部3回生の解川剖良です。上白石さんとお呼びしてもいいですか?」
「どうぞどうぞ。私も今からは解川さんって呼びますね」

 直接会ってすぐにお互い本名と在籍校を伝え、剖良は出会いの始まりとしては順調な流れだと思った。


「解川さん、年収1000万円以上予定って書かれてましたけど医学生だったんですね。畿内医大の医学生っていうと私の知人にも1人いますよ」
「そうなんですね。ご存知かも知れませんけど医学部医学科って1学年が100人ぐらいしかいないので、本当に出会いが少ないんです。性的指向をオープンにしてる人も全然いないので私ももっと幅広く出会いを探してみることにしたんです」

 意中の女性に彼氏ができたという直接のきっかけは隠しつつ、剖良は真琴にそう話した。


「お気持ち分かりますー。女子大っていうと私みたいな人でも出会いを見つけやすいって思われがちなんですけど、実際は共学に比べてそもそも恋愛に奥手な学生が多いのでそんなに相手がいる訳でもないんです。学内で下手に恋愛してトラブルになるのも嫌なので、私も今はアプリで出会いを探すようにしてます」
「なるほど……」

 剖良は生まれてこの方総合大学というものに在籍したことがないので学生数が多くても、ましてや女子大でも出会いが見つからないという話には意外さを感じた。

 ちなみに京都河原町駅近辺というこの地域は都会に分類されるのでレズビアンが露骨な差別を受けることはないが、会話を聞いてしまった人が驚かないよう剖良と真琴は暗黙の了解で同性愛を直接的に意味する言葉は口にしないようにしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ウェブ小説家見習いの第117回医師国家試験受験記録

輪島ライ
エッセイ・ノンフィクション
ウェブ小説家見習いの現役医学生が第117回医師国家試験に合格するまでの体験記です。 ※このエッセイは「小説家になろう」「アルファポリス」「カクヨム」「エブリスタ」に投稿しています。 ※このエッセイの内容は一人の医師国家試験受験生の受験記録に過ぎません。今後国試を受験する医学生の参考になれば幸いですが実際に自分自身の勉強法に取り入れるかはよく考えて決めてください。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...