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2019年9月 微生物学発展コース
172 気分は悪魔と女神のLIVE
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軽音部のメンバーがステージ上に姿を見せたのはそれから数分後でドラムの前には巨漢の男子学生が、キーボードの前には細身の女子学生がそれぞれ現れた。
その後にステージの横からベースを携えた筋肉質の男子学生が現れたが彼ら3名は真っ白なフェイスペイントに黒と紫を基調とした禍々しい衣装を身にまとっており、いわゆるデスメタルを彷彿とさせるファッションだった。
美波さんも同様の姿で現れるのかと思っていたが……
『それでは畿内歯科大学軽音楽部ロックバンド『ハミガキ電撃隊』の看板娘、宇都宮美波さんの登場です!!』
アナウンスが流れるとステージ上には突如として白煙が上がり、煙に紛れてステージの後方から人影が現れた。
そこに立っていたのは紛れもなく美波さんで、他のメンバー3名がデスメタル系のファッションに身を包んでいるのに対して美波さんは真っ白なチャイナドレスとでも形容すべきエロティックで神聖な衣装を身にまとっていた。
腰まで届くロングヘアの黒髪はそのままだが顔面には元々綺麗な肌をさらに美しく見せるメイクが施されており、今の彼女は3人の悪魔を従えた女神とでも呼ぶべき姿になっていた。
ギターボーカルの美波さんが何かコメントを述べるのかと思いきやそのままドラムとベースの演奏を皮切りに曲が流れ始め、美波さんも白いギターを弾きながら激しい曲調の歌を歌い始めた。
「先週私が見た夢は、あなたが私を見限って、私は奈落に身を投げて……」
ロックバンド「ハミガキ電撃隊」のオリジナルソングらしいその曲は激しい曲調でありながら歌詞には悲壮感が漂っており、美波さんの声量と高い歌唱力も相まって観客全員を圧倒するだけの威力を発揮していた。
「だから私、身を捧げたよ。大好きだって言わせない、あなたには私がいればいい……」
歌詞の内容は婉曲的にではあるがマレー先輩と美波さんが今に至るまでの経緯を表現しており、おそらく美波さんが作詞したのだろうと思われた。
それからはオリジナルソング以外にJ-POPのヒット曲のカバーも織り交ぜつつライブコンサートは続き、度々歓声を上げる大勢の観客にマレー先輩は満足そうな表情で美波さんを応援していた。
美波さん自身は入学後の対人関係の失敗により学内で孤立してしまったと話していたが、「軽音部の美人ギターボーカル」という扱いに限定されていても学内で評価される機会があるのは幸せなことだろうと思った。
合計で5曲の演奏が終わるとメンバー4名は一旦演奏を止め、美波さんはマイクを手に観客へと語りかけ始めた。
「皆さん、今日は私たちのライブを聴きに来てくださってありがとうございます! 一度は廃部寸前だった軽音部ですが、今は新入部員も増えて無事に活動を継続できています。これも皆さんの応援があってこそです。本当にありがとう!!」
激しい歌唱と演奏で汗をかいたまま美波さんが挨拶すると客席から何名もの男子学生がヒューヒュー! と口笛を吹いた。
それに続けて拍手が沸き起こり、誰よりも激しく手を叩くマレー先輩を見て僕も精一杯拍手を送った。
美波さんはそれから今日この日に軽音部のライブコンサートを開催できたことへの感謝を述べ、再び演奏を開始する前に意を決した表情で口を開いた。
「今日のライブは大学祭に来てくださった来客の皆さんに捧げるものですが、私はその中でも特にある人に向けて歌と演奏を送りたいと思っていました。その人は私のことを浪人中からずっと支えてくれた、かけがえのない恋人です」
看板娘のギターボーカルが来客の中にいる特定の人物に向けて呼びかけ始め、観客たちにどよめきが走った。
隣を見るとマレー先輩も突然の展開に驚いており、息を呑んでステージ上の美波さんを見つめている。
「この大学に入ってから、私は自分の未熟さのせいで上手く友達を作れなくていつも辛い日々を送っていました。でもその人は不安定な私をいつも優しく受け止めてくれて、何があっても私のことを愛してくれました。だから将来を誓ったあなたに、私はメッセージを送ります」
一気にそう言うと美波さんはすっと息を吸って、
「まれ君、私、あなたのお嫁さんになるから!!」
これまでで一番大きな声でマイクに向かって叫んだ。
観客席から次々と拍手が沸き起こり、マレー先輩は感動の涙を流していた。
この流れは元々想定されていたのか、拍手が最高潮に達したタイミングでドラムとベースを皮切りに再び演奏が開始された。
その時だった。
ギターを肩に掛けてステージ上に立っていた美波さんが突然気を失い、そのまま背中から倒れたのだ。
美波さんの身体から滑り落ちたギターはステージにぶつかりガコンと音を立てた。
元々このバンドはデスメタルの要素を取り入れているのでこれも何かの演出だろうと考え、僕も後方の観客も黙ってその様子を眺めていた。
しかし美波さんの周囲の3名のメンバーは明らかに動転しており、演奏は再び中断されたままになっていた。
はっとしてマレー先輩の方を見ると先輩もこれはイレギュラーな事態だと気づいたらしく、
「美波……美波っ!!」
客席最前列とステージを隔てる簡素な柵を足で踏み倒し、そのまま全速力でステージ上へとよじ登っていった。
「俺だ、微人だ! 美波、目を覚ましてくれ!!」
肩で息をしながらステージ上の美波さんに駆け寄り、先輩は必死で彼女の両肩を揺さぶっていた。
その後にステージの横からベースを携えた筋肉質の男子学生が現れたが彼ら3名は真っ白なフェイスペイントに黒と紫を基調とした禍々しい衣装を身にまとっており、いわゆるデスメタルを彷彿とさせるファッションだった。
美波さんも同様の姿で現れるのかと思っていたが……
『それでは畿内歯科大学軽音楽部ロックバンド『ハミガキ電撃隊』の看板娘、宇都宮美波さんの登場です!!』
アナウンスが流れるとステージ上には突如として白煙が上がり、煙に紛れてステージの後方から人影が現れた。
そこに立っていたのは紛れもなく美波さんで、他のメンバー3名がデスメタル系のファッションに身を包んでいるのに対して美波さんは真っ白なチャイナドレスとでも形容すべきエロティックで神聖な衣装を身にまとっていた。
腰まで届くロングヘアの黒髪はそのままだが顔面には元々綺麗な肌をさらに美しく見せるメイクが施されており、今の彼女は3人の悪魔を従えた女神とでも呼ぶべき姿になっていた。
ギターボーカルの美波さんが何かコメントを述べるのかと思いきやそのままドラムとベースの演奏を皮切りに曲が流れ始め、美波さんも白いギターを弾きながら激しい曲調の歌を歌い始めた。
「先週私が見た夢は、あなたが私を見限って、私は奈落に身を投げて……」
ロックバンド「ハミガキ電撃隊」のオリジナルソングらしいその曲は激しい曲調でありながら歌詞には悲壮感が漂っており、美波さんの声量と高い歌唱力も相まって観客全員を圧倒するだけの威力を発揮していた。
「だから私、身を捧げたよ。大好きだって言わせない、あなたには私がいればいい……」
歌詞の内容は婉曲的にではあるがマレー先輩と美波さんが今に至るまでの経緯を表現しており、おそらく美波さんが作詞したのだろうと思われた。
それからはオリジナルソング以外にJ-POPのヒット曲のカバーも織り交ぜつつライブコンサートは続き、度々歓声を上げる大勢の観客にマレー先輩は満足そうな表情で美波さんを応援していた。
美波さん自身は入学後の対人関係の失敗により学内で孤立してしまったと話していたが、「軽音部の美人ギターボーカル」という扱いに限定されていても学内で評価される機会があるのは幸せなことだろうと思った。
合計で5曲の演奏が終わるとメンバー4名は一旦演奏を止め、美波さんはマイクを手に観客へと語りかけ始めた。
「皆さん、今日は私たちのライブを聴きに来てくださってありがとうございます! 一度は廃部寸前だった軽音部ですが、今は新入部員も増えて無事に活動を継続できています。これも皆さんの応援があってこそです。本当にありがとう!!」
激しい歌唱と演奏で汗をかいたまま美波さんが挨拶すると客席から何名もの男子学生がヒューヒュー! と口笛を吹いた。
それに続けて拍手が沸き起こり、誰よりも激しく手を叩くマレー先輩を見て僕も精一杯拍手を送った。
美波さんはそれから今日この日に軽音部のライブコンサートを開催できたことへの感謝を述べ、再び演奏を開始する前に意を決した表情で口を開いた。
「今日のライブは大学祭に来てくださった来客の皆さんに捧げるものですが、私はその中でも特にある人に向けて歌と演奏を送りたいと思っていました。その人は私のことを浪人中からずっと支えてくれた、かけがえのない恋人です」
看板娘のギターボーカルが来客の中にいる特定の人物に向けて呼びかけ始め、観客たちにどよめきが走った。
隣を見るとマレー先輩も突然の展開に驚いており、息を呑んでステージ上の美波さんを見つめている。
「この大学に入ってから、私は自分の未熟さのせいで上手く友達を作れなくていつも辛い日々を送っていました。でもその人は不安定な私をいつも優しく受け止めてくれて、何があっても私のことを愛してくれました。だから将来を誓ったあなたに、私はメッセージを送ります」
一気にそう言うと美波さんはすっと息を吸って、
「まれ君、私、あなたのお嫁さんになるから!!」
これまでで一番大きな声でマイクに向かって叫んだ。
観客席から次々と拍手が沸き起こり、マレー先輩は感動の涙を流していた。
この流れは元々想定されていたのか、拍手が最高潮に達したタイミングでドラムとベースを皮切りに再び演奏が開始された。
その時だった。
ギターを肩に掛けてステージ上に立っていた美波さんが突然気を失い、そのまま背中から倒れたのだ。
美波さんの身体から滑り落ちたギターはステージにぶつかりガコンと音を立てた。
元々このバンドはデスメタルの要素を取り入れているのでこれも何かの演出だろうと考え、僕も後方の観客も黙ってその様子を眺めていた。
しかし美波さんの周囲の3名のメンバーは明らかに動転しており、演奏は再び中断されたままになっていた。
はっとしてマレー先輩の方を見ると先輩もこれはイレギュラーな事態だと気づいたらしく、
「美波……美波っ!!」
客席最前列とステージを隔てる簡素な柵を足で踏み倒し、そのまま全速力でステージ上へとよじ登っていった。
「俺だ、微人だ! 美波、目を覚ましてくれ!!」
肩で息をしながらステージ上の美波さんに駆け寄り、先輩は必死で彼女の両肩を揺さぶっていた。
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