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2019年5月 生理学基本コース
60 気分はケアマインド
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2019年5月26日、日曜日。
月額制動画配信サイトの海外ドラマを大学から支給されているタブレット端末で見ながら昼食を済ませた僕は、午前中に実家から届いた荷物を開封していた。
家賃などの固定費用を除いて毎月9万円ほどの仕送りはコンビニのATMで受け取っているが、母は時折実家で余っている保存食や貰い物を送ってくれることがあり配送料はかかるが食費が浮くので助かっていた。
今回は実家から取り寄せたいものがあったのでメッセージアプリで事前に連絡して、僕の部屋の収納にあった分厚い冊子を同封して貰っていた。
わざわざ同じサイズの紙箱に入っていた冊子はハードカバーになっていて、その表紙には「松山市立第一中学校 平成25年度卒業アルバム」と印字されている。
冊子は全体的に綺麗なままで、僕も特に印象に残っていないことから卒業後に何度か見返したきりだったのだろう。
適当にアルバムを開くと4組あった学級それぞれの集合写真や行事の写真があり、記憶は薄れているが懐かしい友達の姿を多く見つけた。
冊子の後半には生徒それぞれの文集があり、自分の欄を見ると卒業時のクラスと出席番号に加えて「将来は医師になって実家の診療所を継ぎたい」という抱負が書かれていた。
あの頃は今ほど刺激的な生活は送っていなかったが両親の仲も表向きは良好で、地元の公立高校から地元の大学の医学部に入るという一つの目標に向けて頑張っていればよかった。
田舎なので物価は安く、高級な趣味がないせいもあるがお金に困ったことはなかったし剣道部の練習に励みつつ受験勉強をしていればそれで何も苦労はなかった。
二浪もして結局地元の国立大学に受からず、大阪の私立医大の学生になったと思ったら父親が急逝して借金を背負わされるとは思わなかったが今の生活も十分楽しいので僕の人生に後悔はない。
継承すべきクリニックはもうないし研究医養成コースの研修は充実しているし、何より沢山の魅力的な人々と知り合うことができた。
ヤミ子先輩、剖良先輩、ヤッ君先輩、マレー先輩といった頼りになる先輩方に、基礎医学教室の教授陣をはじめとする大学の先生方。
そして、林君や柳沢君、カナやんに壬生川さんといった愉快な同級生の面子。
そこまで物思いにふけっていた所で、僕はアルバムを取り寄せた理由を思い出して慌てて別のページを開いた。
卒業時の3年C組の生徒一覧が写真とともに掲載されているページを開くと、そこには確かに彼女の姿があった。
「えーと、これが壬生川さん……?」
写真に写る彼女は度が強そうな眼鏡をかけて長い黒髪を2つのおさげに下ろしている。
肌のケアには今ほど気を遣っていなかったのかお世辞にもお洒落とは言えない髪型と合わせて全体的に野暮ったい感じで、表情も暗い地味な女の子だ。
昨年度までなら絶対に分からなかったが、今の僕は彼女のラフな格好を見たことがあるので何とか面影を見出すことができた。
文集の欄には最低限のコメントしか書かれておらず、将来の夢は未定となっていて卒業後は家族で大阪に引っ越すという報告が記されていた。
彼女の話を疑っていた訳ではないが、僕とは中学校の同級生で高校から大阪に引っ越したというのは紛れもない事実だった。
先週金曜日の放課後に僕は壬生川さんと共に3回目の研究テーマ発表会に出席していて、その後に彼女と少々トラブルを生じていた。
僕と過ごす中で改めて大学デビューを行いゴージャスなお嬢様的ファッションから脱却しようとしていた壬生川さんは、先週半ばを境に突然元の姿に戻ってしまった。
彼女と僕が突然仲良くなったことは奇妙には思われても好意的に捉える人はいなかったので、おそらく誰かに変な噂を流されているのだろうというのが僕の見立てだった。
放課後に一緒に調べ物をしていても元の姿に戻ってからの彼女が幸せそうには見えなかったので、僕は発表会の終了後に彼女に直接事情を尋ねた。
変な噂を流されているという予想は当たっており、壬生川さんがゴージャスなファッションをやめたのは僕に貢いでいるからだという噂の内容には流石に驚いた。
彼女はほとんど女子バスケ部だけの狭い人間関係とはいえ平和に学生生活を送っていたはずなので異性関係でおかしな噂を流されるのは辛いだろうと思って、僕は今月が終わったらしばらく距離を置こうと提案した。
すると彼女は悲しみながら怒り出し、僕を突然平手打ちするとそのまま生理学教室を出ていってしまったのだった。
壬生川さんが初めて経験する学内でのトラブルに苦悩しているのは分かっていたので僕は彼女の行為を不快には思わなかった。
こちらからは完全に忘れていても彼女は僕と過ごしていた日々を覚えているらしいので、僕の態度や発言にも無神経な所があったのかも知れない。
現在まで返信はないがその日の帰宅後には短くメッセージを送り、僕は叩かれたことを全然気にしていないと伝えて来週以降会いにくかったら個別に調べ物をしようと提案していた。
生理学教室の基本コース研修も今日からの1週間で終わりなので、僕は彼女がこれ以上傷つかなくて済むように振る舞おうと思った。
月額制動画配信サイトの海外ドラマを大学から支給されているタブレット端末で見ながら昼食を済ませた僕は、午前中に実家から届いた荷物を開封していた。
家賃などの固定費用を除いて毎月9万円ほどの仕送りはコンビニのATMで受け取っているが、母は時折実家で余っている保存食や貰い物を送ってくれることがあり配送料はかかるが食費が浮くので助かっていた。
今回は実家から取り寄せたいものがあったのでメッセージアプリで事前に連絡して、僕の部屋の収納にあった分厚い冊子を同封して貰っていた。
わざわざ同じサイズの紙箱に入っていた冊子はハードカバーになっていて、その表紙には「松山市立第一中学校 平成25年度卒業アルバム」と印字されている。
冊子は全体的に綺麗なままで、僕も特に印象に残っていないことから卒業後に何度か見返したきりだったのだろう。
適当にアルバムを開くと4組あった学級それぞれの集合写真や行事の写真があり、記憶は薄れているが懐かしい友達の姿を多く見つけた。
冊子の後半には生徒それぞれの文集があり、自分の欄を見ると卒業時のクラスと出席番号に加えて「将来は医師になって実家の診療所を継ぎたい」という抱負が書かれていた。
あの頃は今ほど刺激的な生活は送っていなかったが両親の仲も表向きは良好で、地元の公立高校から地元の大学の医学部に入るという一つの目標に向けて頑張っていればよかった。
田舎なので物価は安く、高級な趣味がないせいもあるがお金に困ったことはなかったし剣道部の練習に励みつつ受験勉強をしていればそれで何も苦労はなかった。
二浪もして結局地元の国立大学に受からず、大阪の私立医大の学生になったと思ったら父親が急逝して借金を背負わされるとは思わなかったが今の生活も十分楽しいので僕の人生に後悔はない。
継承すべきクリニックはもうないし研究医養成コースの研修は充実しているし、何より沢山の魅力的な人々と知り合うことができた。
ヤミ子先輩、剖良先輩、ヤッ君先輩、マレー先輩といった頼りになる先輩方に、基礎医学教室の教授陣をはじめとする大学の先生方。
そして、林君や柳沢君、カナやんに壬生川さんといった愉快な同級生の面子。
そこまで物思いにふけっていた所で、僕はアルバムを取り寄せた理由を思い出して慌てて別のページを開いた。
卒業時の3年C組の生徒一覧が写真とともに掲載されているページを開くと、そこには確かに彼女の姿があった。
「えーと、これが壬生川さん……?」
写真に写る彼女は度が強そうな眼鏡をかけて長い黒髪を2つのおさげに下ろしている。
肌のケアには今ほど気を遣っていなかったのかお世辞にもお洒落とは言えない髪型と合わせて全体的に野暮ったい感じで、表情も暗い地味な女の子だ。
昨年度までなら絶対に分からなかったが、今の僕は彼女のラフな格好を見たことがあるので何とか面影を見出すことができた。
文集の欄には最低限のコメントしか書かれておらず、将来の夢は未定となっていて卒業後は家族で大阪に引っ越すという報告が記されていた。
彼女の話を疑っていた訳ではないが、僕とは中学校の同級生で高校から大阪に引っ越したというのは紛れもない事実だった。
先週金曜日の放課後に僕は壬生川さんと共に3回目の研究テーマ発表会に出席していて、その後に彼女と少々トラブルを生じていた。
僕と過ごす中で改めて大学デビューを行いゴージャスなお嬢様的ファッションから脱却しようとしていた壬生川さんは、先週半ばを境に突然元の姿に戻ってしまった。
彼女と僕が突然仲良くなったことは奇妙には思われても好意的に捉える人はいなかったので、おそらく誰かに変な噂を流されているのだろうというのが僕の見立てだった。
放課後に一緒に調べ物をしていても元の姿に戻ってからの彼女が幸せそうには見えなかったので、僕は発表会の終了後に彼女に直接事情を尋ねた。
変な噂を流されているという予想は当たっており、壬生川さんがゴージャスなファッションをやめたのは僕に貢いでいるからだという噂の内容には流石に驚いた。
彼女はほとんど女子バスケ部だけの狭い人間関係とはいえ平和に学生生活を送っていたはずなので異性関係でおかしな噂を流されるのは辛いだろうと思って、僕は今月が終わったらしばらく距離を置こうと提案した。
すると彼女は悲しみながら怒り出し、僕を突然平手打ちするとそのまま生理学教室を出ていってしまったのだった。
壬生川さんが初めて経験する学内でのトラブルに苦悩しているのは分かっていたので僕は彼女の行為を不快には思わなかった。
こちらからは完全に忘れていても彼女は僕と過ごしていた日々を覚えているらしいので、僕の態度や発言にも無神経な所があったのかも知れない。
現在まで返信はないがその日の帰宅後には短くメッセージを送り、僕は叩かれたことを全然気にしていないと伝えて来週以降会いにくかったら個別に調べ物をしようと提案していた。
生理学教室の基本コース研修も今日からの1週間で終わりなので、僕は彼女がこれ以上傷つかなくて済むように振る舞おうと思った。
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