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2019年4月 生化学基本コース
36 合法な関係
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うちは株式会社ホリデーパッチン代表取締役の一人娘として生まれた。
おとんの「大化」とおかんの「奈々美」から一文字ずつ名前を貰って生島化奈と名付けられ、小さい頃から親戚中にかわいがられて育った。
親も祖父母も欲しいものは何でも与えてくれて、会社経営者にとって数少ない休暇にはうちが行きたい所に連れて行ってくれた。
大人は自分に優しくしてくれるものだという前提で幼少期を過ごせたことは幸せだったけど、その頃のうちはいつも孤独だった。
4歳になって幼稚園に通い始めるまで、うちの面倒を見てくれるのはいつもベビーシッターさんたちだった。
2階建ての実家や時にはホリデーパッチン本社ビルの一室で、うちは1日の大半をシッターさんと過ごしていた。
本当は保育園に行きたかったけど、都市部で待機児童の増加が問題となる中でベビーシッターの費用を賄える家庭は保育園の利用を控えるべきだというのがうちの両親の信条だった。
そんな中、うちが2歳の時に生まれた従弟は自分にとって初めて現れた親戚の子供だった。
珠樹と名付けられた赤ちゃんはそれこそ珠のようにかわいくて、幼心にこの子とはずっと仲良くしていきたいと思った。
4歳から念願の幼稚園に通えたというのに、うちは幼稚園が終わると友達と遊ぶのもそこそこにいつも珠樹の様子を見に行っていた。
覚えたばかりのひらがなで絵本を読み聞かせてあげたり、シッターさんにお願いして離乳食をスプーンで食べさせてあげたり、眠そうな時は布団で添い寝しながら背中をトントンしてあげたりした。
珠樹は弟ではないから夕方になると叔母さんが迎えに来てお別れになるけど、それでもうちは珠樹を実の弟のようにかわいがっていた。
うちと珠樹はそれからも姉弟のように仲良く育って、二人とも同じ私立小学校に通った。
うちの中学受験の時には珠樹がお守りを作って持たせてくれて、珠樹の中学受験の時には同じことをしてあげた。
それぞれ女子校と男子校に進学して会える機会が少なくなっても休みの日には親戚付き合いで会うことが多かったし、時には二人だけで映画を見たり遊園地に行ったりすることもあった。
中学校の剣道部の試合を応援しに行った時は男子校の友達と一緒に真剣に竹刀を振るう珠樹を見て、いつか素敵な女の子と出会って欲しいと思った。
高校生になると、うちは珠樹の様子が以前とは変わってきたことに何となく気づいてしまった。
以前は普通のきょうだいの感覚で遊びに行けていたのに、珠樹は話していても時々黙り込んでしまったり映画を見に行っても内容をあまり覚えていなかったりすることが多くなった。
珠樹の心境の変化を深く考える間もなく大学受験が近くなったことでうちが珠樹と会う機会はほとんどなくなり、ゆっくり話す機会が再び訪れたのは畿内医大に現役で入学することが決まってからだった。
大学入学祝いの食事会の翌日、珠樹からメッセージアプリで「二人で会いたい」と伝えられたうちは実家の本社ビルの近くの公園に来ていた。
先に来ていた珠樹と一緒に人気の少ない公園のベンチに座ると、珠樹は緊張を隠せない様子でこれまで秘めていた思いを伝えてきた。
カナちゃんを異性として好きだったと告白された時、うちはそのことに何となく気づいていたから、珠樹の言葉に対して驚くことも拒否感を覚えることもなかった。
そして自分は珠樹を異性として見られないこともはっきり分かっていたから、うちは珠樹を傷つけないようにどう反応すればいいか迷った。
具体的にどう返事したかは思い出せない。
ただ、あの時にもっと正直に答えていれば、珠樹は余計な感情に悩まなくて済んだのだろう。
うちは珠樹との縁が切れるのを怖れてしまったけど、結局は珠樹を苦しめただけで何も解決せずに話を先送りにしてしまった。
だからこそ、今からでも何かできないかと考えたのだけど……
おとんの「大化」とおかんの「奈々美」から一文字ずつ名前を貰って生島化奈と名付けられ、小さい頃から親戚中にかわいがられて育った。
親も祖父母も欲しいものは何でも与えてくれて、会社経営者にとって数少ない休暇にはうちが行きたい所に連れて行ってくれた。
大人は自分に優しくしてくれるものだという前提で幼少期を過ごせたことは幸せだったけど、その頃のうちはいつも孤独だった。
4歳になって幼稚園に通い始めるまで、うちの面倒を見てくれるのはいつもベビーシッターさんたちだった。
2階建ての実家や時にはホリデーパッチン本社ビルの一室で、うちは1日の大半をシッターさんと過ごしていた。
本当は保育園に行きたかったけど、都市部で待機児童の増加が問題となる中でベビーシッターの費用を賄える家庭は保育園の利用を控えるべきだというのがうちの両親の信条だった。
そんな中、うちが2歳の時に生まれた従弟は自分にとって初めて現れた親戚の子供だった。
珠樹と名付けられた赤ちゃんはそれこそ珠のようにかわいくて、幼心にこの子とはずっと仲良くしていきたいと思った。
4歳から念願の幼稚園に通えたというのに、うちは幼稚園が終わると友達と遊ぶのもそこそこにいつも珠樹の様子を見に行っていた。
覚えたばかりのひらがなで絵本を読み聞かせてあげたり、シッターさんにお願いして離乳食をスプーンで食べさせてあげたり、眠そうな時は布団で添い寝しながら背中をトントンしてあげたりした。
珠樹は弟ではないから夕方になると叔母さんが迎えに来てお別れになるけど、それでもうちは珠樹を実の弟のようにかわいがっていた。
うちと珠樹はそれからも姉弟のように仲良く育って、二人とも同じ私立小学校に通った。
うちの中学受験の時には珠樹がお守りを作って持たせてくれて、珠樹の中学受験の時には同じことをしてあげた。
それぞれ女子校と男子校に進学して会える機会が少なくなっても休みの日には親戚付き合いで会うことが多かったし、時には二人だけで映画を見たり遊園地に行ったりすることもあった。
中学校の剣道部の試合を応援しに行った時は男子校の友達と一緒に真剣に竹刀を振るう珠樹を見て、いつか素敵な女の子と出会って欲しいと思った。
高校生になると、うちは珠樹の様子が以前とは変わってきたことに何となく気づいてしまった。
以前は普通のきょうだいの感覚で遊びに行けていたのに、珠樹は話していても時々黙り込んでしまったり映画を見に行っても内容をあまり覚えていなかったりすることが多くなった。
珠樹の心境の変化を深く考える間もなく大学受験が近くなったことでうちが珠樹と会う機会はほとんどなくなり、ゆっくり話す機会が再び訪れたのは畿内医大に現役で入学することが決まってからだった。
大学入学祝いの食事会の翌日、珠樹からメッセージアプリで「二人で会いたい」と伝えられたうちは実家の本社ビルの近くの公園に来ていた。
先に来ていた珠樹と一緒に人気の少ない公園のベンチに座ると、珠樹は緊張を隠せない様子でこれまで秘めていた思いを伝えてきた。
カナちゃんを異性として好きだったと告白された時、うちはそのことに何となく気づいていたから、珠樹の言葉に対して驚くことも拒否感を覚えることもなかった。
そして自分は珠樹を異性として見られないこともはっきり分かっていたから、うちは珠樹を傷つけないようにどう反応すればいいか迷った。
具体的にどう返事したかは思い出せない。
ただ、あの時にもっと正直に答えていれば、珠樹は余計な感情に悩まなくて済んだのだろう。
うちは珠樹との縁が切れるのを怖れてしまったけど、結局は珠樹を苦しめただけで何も解決せずに話を先送りにしてしまった。
だからこそ、今からでも何かできないかと考えたのだけど……
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