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2019年4月 生化学基本コース
20 気分はオリエンテーション
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交友関係の広さを頼ることにして、僕は林君にあることを尋ねた。
「そういえば林君、生島さんの席って分かる?」
研究医養成コースのシラバスに従い、僕は今日から生化学教室で基本コースの研修を受けることになっていた。
詳しくはオリエンテーション終了後に生化学教室で聞くことになっているがその前に指導を担当してくれる同級生の生島さんには会っておきたいと思っていた。
「いくしま? ああ、カナやんの席ならあの辺だよ」
林君はそう言って右ブロック前方の座席を指さした。
そこには茶髪のセミロングヘアを後方で1本にまとめた女の子が座っていて、ここからでは顔は見えないがあの子が生島さんだろうと推定できた。
「ありがとう。ちょっと用事があるから話してくるね」
「おう」
林君の返事を背中で受けつつ僕は講堂内を歩いていった。
生島さんは右ブロックの最前列中央に座っていて、タブレット端末を開いてメッセージアプリを操作していた。
軽い茶髪はおそらく地毛で陸上部に入っているからか肌は少し日焼けしている。身長は低めで全体的にスレンダーな印象だ。
「おはよう、生島さん」
机の前方から呼びかけると彼女は僕に気づいて、
「おはよ。えーと、白神君やったっけ?」
と自信なさそうに尋ねた。
お互いに顔は覚えているものの1対1で話したことはなく、生島さんにしてみれば僕は同級生Aという扱いだったらしい。
医学部医学科はどこの大学でも1学年100人程度なので世間は狭いがその100人全員の顔と名前を把握するのは案外難しい。「友達100人できるかな」などというのは簡単な話ではないのだ。
「そうそう、2回生の白神塔也。今日から生化学教室でお世話になることになってて……」
「ああ、そういえば成宮先生が言うてたわ。研究医養成コースに途中から移ってくれたんやってな」
生島さんはそう言うとタブレット端末のカバーを閉じて身体ごと僕の方に向いた。
同級生Aという扱いは早々に脱したようだ。
「今日から生島さんが色々教えてくれるっていうから今のうちに挨拶しておこうと思って。生化学には素人だから面倒かけるかもしれないけどよろしく」
「全然ええで! うちも初心者に毛が生えたレベルやし、こっちこそうまく教えられんかったらごめんやで」
生島さんはニカっと笑いながらそう言った。
彼女は活発な印象のせいで目立たないが十分美人に分類されるルックスで、サバサバした性格のおかげで男女問わず交友関係が広い。
剖良先輩もこういう人を見習えばいいのにと思った。
「ところで、その生島さんっていうのやめてくれん? あんまり名字で呼ばれへんから何かこしょばいわ。カナやんで構へんよ」
「あ、ごめん。じゃあカナやん、今日からよろしく」
僕は女の子には同級生でもさん付けなのだがカナやんのノリには合わなかったらしい。
ちなみに「こしょばい」というのは「くすぐったい」という意味の大阪弁で、僕も入学したばかりの頃はこれぐらいの会話も理解できなかった覚えがある。
カナやんというのは生島化奈さんという名前に由来しており、アクセントは一般にカ→ナ↑やん↓とされている。同級生からは大体このあだ名で呼ばれているらしい。
オリエンテーションの開始時刻が近づいてきたので、僕はカナやんに会釈するとそのまま自分の席に戻った。
カナやんは基本的に誰とでも仲良くしているためか林君からもカナやんと何を話していたのかは聞かれなかった。こういう所も剖良先輩とは対照的だと感じた。
予定通り9時ちょうどからオリエンテーションが始まり、2回生の授業を担当する各教室の先生方が交代で講堂に入りつつ講義や実習に関する説明を行った。
生化学、生理学、分子生物学、免疫学、微生物学、感染症学、薬理学、病理学、診断学、医学英語といった主な授業に加えて附属病院体験実習や医看合同実習といった短期間の実習についても説明され、学則の再説明と定期健康診断に関する告知でオリエンテーションは締めくくられた。
ざっと分けて4月~6月に生化学・生理学・分子生物学、7月に免疫学と微生物学、9月に感染症学、10月~12月に薬理学と病理学、そして来年の1月~2月に診断学の授業があり医学英語の授業は年間を通して行われるということが分かった。
基礎医学の講義・実習は12月までで終わるので1月~2月は臨床医学の入門として診断学を教わりつつ該当者は再試を受けるらしい。
再試にかからなければ2月中旬には春休みになると知り、いかにも再試にかかりそうな人も含めて結構な数の学生が喜んでいた。
免疫学と微生物学と感染症学はすべて微生物学教室の担当科目で、分子生物学は一般教養の化学教室が教えるため2回生の教育に携わる基礎医学教室は解剖学教室を除いた5つとなる。
基礎医学の試験の成績は4回生で受けるCBTや6回生で受ける医師国家試験の成績とも相関関係が強いとオリエンテーションで教わり、僕は今年もなるべく真面目にやっていこうと決意した。
「そういえば林君、生島さんの席って分かる?」
研究医養成コースのシラバスに従い、僕は今日から生化学教室で基本コースの研修を受けることになっていた。
詳しくはオリエンテーション終了後に生化学教室で聞くことになっているがその前に指導を担当してくれる同級生の生島さんには会っておきたいと思っていた。
「いくしま? ああ、カナやんの席ならあの辺だよ」
林君はそう言って右ブロック前方の座席を指さした。
そこには茶髪のセミロングヘアを後方で1本にまとめた女の子が座っていて、ここからでは顔は見えないがあの子が生島さんだろうと推定できた。
「ありがとう。ちょっと用事があるから話してくるね」
「おう」
林君の返事を背中で受けつつ僕は講堂内を歩いていった。
生島さんは右ブロックの最前列中央に座っていて、タブレット端末を開いてメッセージアプリを操作していた。
軽い茶髪はおそらく地毛で陸上部に入っているからか肌は少し日焼けしている。身長は低めで全体的にスレンダーな印象だ。
「おはよう、生島さん」
机の前方から呼びかけると彼女は僕に気づいて、
「おはよ。えーと、白神君やったっけ?」
と自信なさそうに尋ねた。
お互いに顔は覚えているものの1対1で話したことはなく、生島さんにしてみれば僕は同級生Aという扱いだったらしい。
医学部医学科はどこの大学でも1学年100人程度なので世間は狭いがその100人全員の顔と名前を把握するのは案外難しい。「友達100人できるかな」などというのは簡単な話ではないのだ。
「そうそう、2回生の白神塔也。今日から生化学教室でお世話になることになってて……」
「ああ、そういえば成宮先生が言うてたわ。研究医養成コースに途中から移ってくれたんやってな」
生島さんはそう言うとタブレット端末のカバーを閉じて身体ごと僕の方に向いた。
同級生Aという扱いは早々に脱したようだ。
「今日から生島さんが色々教えてくれるっていうから今のうちに挨拶しておこうと思って。生化学には素人だから面倒かけるかもしれないけどよろしく」
「全然ええで! うちも初心者に毛が生えたレベルやし、こっちこそうまく教えられんかったらごめんやで」
生島さんはニカっと笑いながらそう言った。
彼女は活発な印象のせいで目立たないが十分美人に分類されるルックスで、サバサバした性格のおかげで男女問わず交友関係が広い。
剖良先輩もこういう人を見習えばいいのにと思った。
「ところで、その生島さんっていうのやめてくれん? あんまり名字で呼ばれへんから何かこしょばいわ。カナやんで構へんよ」
「あ、ごめん。じゃあカナやん、今日からよろしく」
僕は女の子には同級生でもさん付けなのだがカナやんのノリには合わなかったらしい。
ちなみに「こしょばい」というのは「くすぐったい」という意味の大阪弁で、僕も入学したばかりの頃はこれぐらいの会話も理解できなかった覚えがある。
カナやんというのは生島化奈さんという名前に由来しており、アクセントは一般にカ→ナ↑やん↓とされている。同級生からは大体このあだ名で呼ばれているらしい。
オリエンテーションの開始時刻が近づいてきたので、僕はカナやんに会釈するとそのまま自分の席に戻った。
カナやんは基本的に誰とでも仲良くしているためか林君からもカナやんと何を話していたのかは聞かれなかった。こういう所も剖良先輩とは対照的だと感じた。
予定通り9時ちょうどからオリエンテーションが始まり、2回生の授業を担当する各教室の先生方が交代で講堂に入りつつ講義や実習に関する説明を行った。
生化学、生理学、分子生物学、免疫学、微生物学、感染症学、薬理学、病理学、診断学、医学英語といった主な授業に加えて附属病院体験実習や医看合同実習といった短期間の実習についても説明され、学則の再説明と定期健康診断に関する告知でオリエンテーションは締めくくられた。
ざっと分けて4月~6月に生化学・生理学・分子生物学、7月に免疫学と微生物学、9月に感染症学、10月~12月に薬理学と病理学、そして来年の1月~2月に診断学の授業があり医学英語の授業は年間を通して行われるということが分かった。
基礎医学の講義・実習は12月までで終わるので1月~2月は臨床医学の入門として診断学を教わりつつ該当者は再試を受けるらしい。
再試にかからなければ2月中旬には春休みになると知り、いかにも再試にかかりそうな人も含めて結構な数の学生が喜んでいた。
免疫学と微生物学と感染症学はすべて微生物学教室の担当科目で、分子生物学は一般教養の化学教室が教えるため2回生の教育に携わる基礎医学教室は解剖学教室を除いた5つとなる。
基礎医学の試験の成績は4回生で受けるCBTや6回生で受ける医師国家試験の成績とも相関関係が強いとオリエンテーションで教わり、僕は今年もなるべく真面目にやっていこうと決意した。
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