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2019年3月 解剖学基本コース
5 気分はやっぱり不安
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昨晩は阪急皆月市駅前のファミレスで美人の先輩2名に夕食をおごって貰って、お互いの話をして親睦を深めた。
といっても解川先輩はほとんど自分から喋らず、全体の9割以上は僕とヤミ子先輩の会話に終始していた。
20時ぐらいには解散し、ワンルームの下宿に帰ってからは剣道部の先輩にメッセージアプリで退部願いの連絡をした。
やむを得ない事情とはいえこういったことは直接言わなければならないから、先輩には後日大学で正式に事情を説明したいと申し出た。
週明けの練習の際に話がしたいという丁寧な返信がすぐに来て、僕はメッセージとスタンプで感謝の意を伝えた。
先輩方に余計な心配をかけないため、家庭の事情により部費を払えなくなったという退部理由は今のうちから伝えておいた。
医学部の運動部では基本的にどこでも部費の徴収があるが、特に剣道部は道具代や合宿費用の負担が大きい。
あらゆるクラブに共通する慣習として1回生の間は食事会や飲み会での飲食費は一切払わなくてよいが、それでも合宿費を含む定期部費だけで1年間に12万円ほどを支払う必要があった。
2回生になれば後輩に食事をおごったりする必要も出てくるだろうし、流石にクラブ活動にそこまでのリソースは割けない。
退部といっても部内のトラブルで辞める訳ではないし剣道部員でなくなっても部活の友達とは仲良くやっていけるだろうが、金銭的な問題で好きだった部活から離れざるを得なくなった事実にはかなり辛いものがあった。
今時の医学部は奨学金が充実しているから、私立大学の医学生といっても決して3000万円の学費を余裕で払える家庭の子供ばかりではない。
直接の知り合いではないが先輩の中には兄弟の多いサラリーマン家庭からこの大学に入学し、貸与型奨学金とアルバイト収入のフル活用で学費を賄っている猛者もいるという。
それに比べると僕は給付型奨学金を貰えるしアルバイトで世間の荒波に揉まれる苦労もないのだが、ほんの少し前まで金銭的には何の問題もなく医大を卒業できると信じていただけに環境の変化に慣れるには時間がかかりそうだった。
入浴や歯磨きを済ませてベッドに入った僕が中々寝付けなかったのは環境の変化に対する長期的な不安によるが、短期的な不安として最も大きかったのは、
(明日の朝から、解川先輩とずっと一緒なのか……)
ということだった。
ヤミ子先輩は明日から解剖学教室でオリエンテーションを受ける僕のために、あえて指導担当の解川先輩を呼んでくれたはずだ。
向こうとしても僕の存在は昨日か今日に初めて知ったはずだから、この機会に少しでも打ち解けられればと思っていたのだが……
(あの様子じゃ、取り付く島もないよな……)
という印象にしかならなかった。
毛布に潜って悩んでいても仕方がないので、僕は思考を停止してそのまま眠りに就いた。
といっても解川先輩はほとんど自分から喋らず、全体の9割以上は僕とヤミ子先輩の会話に終始していた。
20時ぐらいには解散し、ワンルームの下宿に帰ってからは剣道部の先輩にメッセージアプリで退部願いの連絡をした。
やむを得ない事情とはいえこういったことは直接言わなければならないから、先輩には後日大学で正式に事情を説明したいと申し出た。
週明けの練習の際に話がしたいという丁寧な返信がすぐに来て、僕はメッセージとスタンプで感謝の意を伝えた。
先輩方に余計な心配をかけないため、家庭の事情により部費を払えなくなったという退部理由は今のうちから伝えておいた。
医学部の運動部では基本的にどこでも部費の徴収があるが、特に剣道部は道具代や合宿費用の負担が大きい。
あらゆるクラブに共通する慣習として1回生の間は食事会や飲み会での飲食費は一切払わなくてよいが、それでも合宿費を含む定期部費だけで1年間に12万円ほどを支払う必要があった。
2回生になれば後輩に食事をおごったりする必要も出てくるだろうし、流石にクラブ活動にそこまでのリソースは割けない。
退部といっても部内のトラブルで辞める訳ではないし剣道部員でなくなっても部活の友達とは仲良くやっていけるだろうが、金銭的な問題で好きだった部活から離れざるを得なくなった事実にはかなり辛いものがあった。
今時の医学部は奨学金が充実しているから、私立大学の医学生といっても決して3000万円の学費を余裕で払える家庭の子供ばかりではない。
直接の知り合いではないが先輩の中には兄弟の多いサラリーマン家庭からこの大学に入学し、貸与型奨学金とアルバイト収入のフル活用で学費を賄っている猛者もいるという。
それに比べると僕は給付型奨学金を貰えるしアルバイトで世間の荒波に揉まれる苦労もないのだが、ほんの少し前まで金銭的には何の問題もなく医大を卒業できると信じていただけに環境の変化に慣れるには時間がかかりそうだった。
入浴や歯磨きを済ませてベッドに入った僕が中々寝付けなかったのは環境の変化に対する長期的な不安によるが、短期的な不安として最も大きかったのは、
(明日の朝から、解川先輩とずっと一緒なのか……)
ということだった。
ヤミ子先輩は明日から解剖学教室でオリエンテーションを受ける僕のために、あえて指導担当の解川先輩を呼んでくれたはずだ。
向こうとしても僕の存在は昨日か今日に初めて知ったはずだから、この機会に少しでも打ち解けられればと思っていたのだが……
(あの様子じゃ、取り付く島もないよな……)
という印象にしかならなかった。
毛布に潜って悩んでいても仕方がないので、僕は思考を停止してそのまま眠りに就いた。
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