1 / 1
政拳は我にあり
しおりを挟む
令和X年、世界は核の炎に包まれた。
宇宙から飛来した変動重力波の影響により地球上全ての核兵器と原子力発電所は一斉に核爆発を起こし、先進諸国の大半は瞬時にして滅亡した。
核兵器を保有しておらず原発の廃炉も進んでいた日本は辛うじて壊滅を免れたが地球上のほとんどの地域では放射能汚染が広がり、日本人は各地にシェルターで覆われた地下都市を建造して生き延びていた。
「ヒャッハー! 水だぁ!! 備蓄食料もこんなに残っていやがったぜ」
「これ、一万円札か? こんなもん今やハイパーインフレで紙切れ同然だってのにな!」
かつて大阪府大阪市と呼ばれた一帯の路上で、ならず者の集団が廃墟の物資を漁っていた。
地下都市に居場所のない彼らはシェルター外の廃墟群で放棄された物資を漁って生活しており、残留放射線への曝露は彼らの生命に「直ちに影響はない」とされていた。
日本社会の棄民となった彼らに、ボロボロのマントを羽織った巨漢が歩み寄ってきた。
「……おい、お前たち。この一帯では誰が政拳を握っている」
「何だ、お前。俺たちの食糧を横取りする気かぁ?」
「質問に答えろ!!」
巨漢はならず者を怒鳴りつけると身体を覆っていたマントを取り去った。
彼の全身から放たれる神聖なオーラに感化され、ならず者たちの精神は瞬く間に浄化された。
「は、はい、地下都市ナンヴァーの松代トキオ市長です。俺たちは松代市長にシェルターを追い出されて、こうして生活しています」
「そうか、その市長が君たちをこのような境遇に追いやっているのだな」
「私の噂をしているのは君かね? 神谷ケン君といったか」
巨漢とならず者の前に、噂の当人であるナンヴァー市長の松代トキオが現れた。
周囲にはスーツを着た護衛官僚が数十名ほど集まり市長の様子を注視している。
「君が四国一帯の政拳を掌握したという流れ者だね。一体ここに何をしに来た?」
「知れたこと。貴様を倒し、近畿圏制覇の第一歩とする! いざ勝負!!」
「受けて立った!!」
ケンと松代の叫びに呼応し、廃墟群の一帯に不可視の領域が展開された。
絶対政闘圏と呼ばれるそのフィールドに侵入できるのは、政拳家と呼ばれる闘士のみ。
中央政府を失った日本は暴力と恐怖により統治される社会になっていた。
己の肉体と闘気によりあらゆる政敵を打ち倒し、政拳を握った者だけが社会の統治者となる。
ナンヴァー地域の支配者は、相手を殺して生き残ったどちらか以外に存在しない。
「松代、貴様の弱点は脚と見たっ!!」
ケンは政敵の弱点を言い当てると、高速で左右に移動しつつ正拳突きを放った。
繰り出された突きは松代の右脚を狙うと思いきや、寸前で方向を変えて彼の脇腹を狙った。
素早く左手で身を守ると松代は攻勢に転じる隙を伺う。
「流石は流浪の政拳家。攻約違反拳程度は造作もないか!」
相手の巧みさを賞賛しつつ、松代は全身に闘気を集中させ始めた。
後方で待機している護衛官僚たちをはじめとする全ての市民から闘気を吸収し、光り輝く闘気をその身に宿す奥義は立食宴会拳発光と呼ばれ、政拳を手にした者だけが使える秘術だった。
四国一帯の政拳を握っているケンだが、この場所では遠すぎて同じ奥義を使うことはできない。
「やらせんっ! 受けてみろ、闘首討論拳!!」
松代が闘気を集中させる前に彼の首を手刀で叩き割ろうとしたケンだが、その拳は圧倒的な闘気によるオーラの前に弾かれた。
「やはりな……政闘助勢圏か」
「その通り。私は大日本統一党の党員だからね」
政拳家同士が集団となったものは政拳党と呼ばれ、それに属する政拳家は無条件に多くの闘気を得ることができる。
立食宴会拳発光に加えて政闘助勢圏までもを身に宿した松代の前に、ケンの攻撃はもはや通用しない。
「さあ、どうする流浪の政拳家よ!! 大人しく我らが軍門に下るか!?」
「くうっ!!」
溢れ出る闘気により素早い連撃を繰り出す松代の前にケンは防戦一方となっていた。
しかし、ケンには最終奥義が残されている。
「貴様の本当の弱点は、ここにある!!」
「何だとっ!?」
ケンは空中を跳んで松代の背後に回ると、彼の右肩を人差し指で突いた。
わずかな衝撃であるはずのその一撃に、莫大な闘気をまとった松代は動きを止めた。
「貴様の秘所を捉えた。もはやその身を維持することもできまい」
「そ、そんな……」
「これで終わりだっ! 政拳攻退百裂撃!! あたたたたたたたっっっ!!」
身動きできない松代の背後からケンは必殺奥義たる連撃を炸裂させた。
目にも留まらぬ速さの連撃が松代の背中に次々と叩き込まれる。
「ぐうっ、ぐあああああっ!! す、全て秘書がやりましたあああああっっ!!」
背後から高速の連撃を受けた松代は訳の分からない叫び声を上げると吹き飛ばされ、そのまま地面に倒れ伏した。
怯える護衛官僚たちを無視して倒れた松代の首筋をつかみ上げると、ケンは彼に詰問を始めた。
「貴様など俺の政敵には値しない! 大日本統一党の党首はこの近くに来ているのだろう!?」
「何だと、あの方に勝負を挑むというのか!?」
「話さないのであれば貴様にとどめを刺してやる」
「わ、分かった、あの方は今……うっ、ううっ、記憶にございませんんんんっっ!!」
自らが仕える相手の居場所を口にしようとした瞬間松代は苦しみ始め、叫び声を上げるとその身体は爆散した。
「闘技拘束術の奥義、一過性記憶消去か。相当な強者と見える……」
飛び散った肉片を後方に跳んで避けつつ、ケンは自らが探し求める相手の強大さを悟った。
呪術である闘技拘束術をかけられた政闘家は、禁じられた行為を実行に移すと必ずその代償を払うことになる。
「石原シン……決着を付けねばなるまい」
「神谷さん、あなたは今この瞬間地下都市ナンヴァーの市長となりました。ここに残って頂けませんか?」
「いや、それはできない。この日本を牛耳る連中を打ち倒したら俺はまたここに戻ってこよう」
「そうなのですか……」
自らの背中に後光を見出す護衛官僚たちに振り返ることもせず、彼は廃墟群を後にした。
日本の政拳家の頂点に立ち人々に自由をもたらすまで、ケンの戦いが終わることはない。
(END)
宇宙から飛来した変動重力波の影響により地球上全ての核兵器と原子力発電所は一斉に核爆発を起こし、先進諸国の大半は瞬時にして滅亡した。
核兵器を保有しておらず原発の廃炉も進んでいた日本は辛うじて壊滅を免れたが地球上のほとんどの地域では放射能汚染が広がり、日本人は各地にシェルターで覆われた地下都市を建造して生き延びていた。
「ヒャッハー! 水だぁ!! 備蓄食料もこんなに残っていやがったぜ」
「これ、一万円札か? こんなもん今やハイパーインフレで紙切れ同然だってのにな!」
かつて大阪府大阪市と呼ばれた一帯の路上で、ならず者の集団が廃墟の物資を漁っていた。
地下都市に居場所のない彼らはシェルター外の廃墟群で放棄された物資を漁って生活しており、残留放射線への曝露は彼らの生命に「直ちに影響はない」とされていた。
日本社会の棄民となった彼らに、ボロボロのマントを羽織った巨漢が歩み寄ってきた。
「……おい、お前たち。この一帯では誰が政拳を握っている」
「何だ、お前。俺たちの食糧を横取りする気かぁ?」
「質問に答えろ!!」
巨漢はならず者を怒鳴りつけると身体を覆っていたマントを取り去った。
彼の全身から放たれる神聖なオーラに感化され、ならず者たちの精神は瞬く間に浄化された。
「は、はい、地下都市ナンヴァーの松代トキオ市長です。俺たちは松代市長にシェルターを追い出されて、こうして生活しています」
「そうか、その市長が君たちをこのような境遇に追いやっているのだな」
「私の噂をしているのは君かね? 神谷ケン君といったか」
巨漢とならず者の前に、噂の当人であるナンヴァー市長の松代トキオが現れた。
周囲にはスーツを着た護衛官僚が数十名ほど集まり市長の様子を注視している。
「君が四国一帯の政拳を掌握したという流れ者だね。一体ここに何をしに来た?」
「知れたこと。貴様を倒し、近畿圏制覇の第一歩とする! いざ勝負!!」
「受けて立った!!」
ケンと松代の叫びに呼応し、廃墟群の一帯に不可視の領域が展開された。
絶対政闘圏と呼ばれるそのフィールドに侵入できるのは、政拳家と呼ばれる闘士のみ。
中央政府を失った日本は暴力と恐怖により統治される社会になっていた。
己の肉体と闘気によりあらゆる政敵を打ち倒し、政拳を握った者だけが社会の統治者となる。
ナンヴァー地域の支配者は、相手を殺して生き残ったどちらか以外に存在しない。
「松代、貴様の弱点は脚と見たっ!!」
ケンは政敵の弱点を言い当てると、高速で左右に移動しつつ正拳突きを放った。
繰り出された突きは松代の右脚を狙うと思いきや、寸前で方向を変えて彼の脇腹を狙った。
素早く左手で身を守ると松代は攻勢に転じる隙を伺う。
「流石は流浪の政拳家。攻約違反拳程度は造作もないか!」
相手の巧みさを賞賛しつつ、松代は全身に闘気を集中させ始めた。
後方で待機している護衛官僚たちをはじめとする全ての市民から闘気を吸収し、光り輝く闘気をその身に宿す奥義は立食宴会拳発光と呼ばれ、政拳を手にした者だけが使える秘術だった。
四国一帯の政拳を握っているケンだが、この場所では遠すぎて同じ奥義を使うことはできない。
「やらせんっ! 受けてみろ、闘首討論拳!!」
松代が闘気を集中させる前に彼の首を手刀で叩き割ろうとしたケンだが、その拳は圧倒的な闘気によるオーラの前に弾かれた。
「やはりな……政闘助勢圏か」
「その通り。私は大日本統一党の党員だからね」
政拳家同士が集団となったものは政拳党と呼ばれ、それに属する政拳家は無条件に多くの闘気を得ることができる。
立食宴会拳発光に加えて政闘助勢圏までもを身に宿した松代の前に、ケンの攻撃はもはや通用しない。
「さあ、どうする流浪の政拳家よ!! 大人しく我らが軍門に下るか!?」
「くうっ!!」
溢れ出る闘気により素早い連撃を繰り出す松代の前にケンは防戦一方となっていた。
しかし、ケンには最終奥義が残されている。
「貴様の本当の弱点は、ここにある!!」
「何だとっ!?」
ケンは空中を跳んで松代の背後に回ると、彼の右肩を人差し指で突いた。
わずかな衝撃であるはずのその一撃に、莫大な闘気をまとった松代は動きを止めた。
「貴様の秘所を捉えた。もはやその身を維持することもできまい」
「そ、そんな……」
「これで終わりだっ! 政拳攻退百裂撃!! あたたたたたたたっっっ!!」
身動きできない松代の背後からケンは必殺奥義たる連撃を炸裂させた。
目にも留まらぬ速さの連撃が松代の背中に次々と叩き込まれる。
「ぐうっ、ぐあああああっ!! す、全て秘書がやりましたあああああっっ!!」
背後から高速の連撃を受けた松代は訳の分からない叫び声を上げると吹き飛ばされ、そのまま地面に倒れ伏した。
怯える護衛官僚たちを無視して倒れた松代の首筋をつかみ上げると、ケンは彼に詰問を始めた。
「貴様など俺の政敵には値しない! 大日本統一党の党首はこの近くに来ているのだろう!?」
「何だと、あの方に勝負を挑むというのか!?」
「話さないのであれば貴様にとどめを刺してやる」
「わ、分かった、あの方は今……うっ、ううっ、記憶にございませんんんんっっ!!」
自らが仕える相手の居場所を口にしようとした瞬間松代は苦しみ始め、叫び声を上げるとその身体は爆散した。
「闘技拘束術の奥義、一過性記憶消去か。相当な強者と見える……」
飛び散った肉片を後方に跳んで避けつつ、ケンは自らが探し求める相手の強大さを悟った。
呪術である闘技拘束術をかけられた政闘家は、禁じられた行為を実行に移すと必ずその代償を払うことになる。
「石原シン……決着を付けねばなるまい」
「神谷さん、あなたは今この瞬間地下都市ナンヴァーの市長となりました。ここに残って頂けませんか?」
「いや、それはできない。この日本を牛耳る連中を打ち倒したら俺はまたここに戻ってこよう」
「そうなのですか……」
自らの背中に後光を見出す護衛官僚たちに振り返ることもせず、彼は廃墟群を後にした。
日本の政拳家の頂点に立ち人々に自由をもたらすまで、ケンの戦いが終わることはない。
(END)
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
天然女子高生のためのそーかつ
輪島ライ
大衆娯楽
東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生にはリベラルアーツ精神と左派系の思想が叩き込まれている。
再試にかかったら → 先生に自己批判させる
共産主義は → 金で買う
男女平等実現のため → 相撲部にも女子部員
体育会系への差別には → 報道しない自由を行使
部活の予算は → MMTで調達
左派系ドタバタポリティカルコメディ、ここに開幕!!
※この作品は「小説家になろう」「アルファポリス」「カクヨム」「エブリスタ」に投稿しています。
※本作は小説賞・コンテストへの応募を含む一切の商業化を行いません。
※これは架空の物語です。過去、あるいは現在において、たまたま実在する人物、出来事と類似していても、それは偶然に過ぎません。
※姉妹作「最近の女子高生は思想が強い」を並行連載中です。(内容に一部重複があります)
そうかつ【総括】
[名](スル)
1.個々のものを一つにまとめること。全体をとりまとめて締めくくること。「各人の意見を―する」
2.労働運動や政治運動で、それまでの活動の内容・成果などを評価・反省すること。「春闘を―する」
(出典:デジタル大辞泉)
最近の女子高生は思想が強い ~雇用・利子および女子高生の一般りろん~
輪島ライ
大衆娯楽
東京都千代田区にある私立ケインズ女子高校は本来の意味でリベラルな学校で、在学生には寛容の精神と資本主義思想が教え込まれている。
社会派ドタバタポリティカルコメディ、ここでも開幕!!
※この作品は「小説家になろう」「アルファポリス」「カクヨム」「エブリスタ」に投稿しています。
※これは架空の物語です。過去、あるいは現在において、たまたま実在する人物、出来事と類似していても、それは偶然に過ぎません。
※姉妹作「天然女子高生のためのそーかつ」を並行連載中です。(内容に一部重複があります)
異世界の民主主義って何だ!?
輪島ライ
ファンタジー
民主主義と平和主義を愛する早田学院大学人間科学部4年生の沖田正輝は政治団体「民主の盾」を結成して学生運動に参加していた。そんな中、国会前でのデモ中に交通事故で死亡した彼は異世界のダモクレス王国に転生し、国王リッケンミー3世から魔王ドクーサを打倒する勇者として任命される。
※この作品は「小説家になろう」「アルファポリス」「カクヨム」「エブリスタ」に投稿しています。
※この作品は2021年に文芸同人誌で発表した作品を改稿したものです。
瓢箪独楽のショートショート
瓢箪独楽
現代文学
自分が面白いと思うものを書いていきます。
ショートショートですので、どこからお読みいただいても構いません。気軽にお楽しみいただければと思う所存でございます。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
十二支vs十二星座
ビッグバン
キャラ文芸
東洋と西洋、場所や司る物は違えど同じ12の物を司る獣や物の神達。普通なら会うはずの彼等だが年に一度、お互いの代表する地域の繁栄を決める為、年に一度12月31日の大晦日に戦い会うのだ。勝負に勝ち、繁栄するのは東洋か、それとも西洋か
3分で解けるとっても簡単(いや全問正解したらすごいかも)ななぞなぞ10題
ムーワ
大衆娯楽
電車の移動時間やちょっとした待ち時間に「頭の体操」をしてみませんか?
幼児から高齢者まで幅広い年代の方に楽しんでいただけるとっても簡単ななぞなぞ遊びです。
でも、全問正解する方はほとんどいないかもしれません。
毎日10題ずつ更新していく予定です。
男性向けにしましたが、女性も大歓迎です。
答えについては翌日の午後にでも1日目のこたえという感じで更新します。
2023年7月13日で人気もないようなのでいったん中止しますが、リクエストなどがあれば再開します。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる