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第6部 天然女子高生のための重そーかつ
第153話 インサイトアプローチ
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東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)
「はあー疲れたわー、こんなに寒いのにまなちゃん来てくれてありがたいわ」
「2月っていっても運動すると普通に暑いですよね。スポーツドリンクどうぞ」
2月上旬の土曜日、先生方の都合で授業がない日に私は朝から2年生の平塚鳴海先輩と二人で硬式テニス部の練習に励んでいた。
自主練扱いの日なのでこの日は部員の集まりが悪く、二人だけで延々練習してくれたなるみ先輩に私は持参したスポーツドリンクを渡した。
「あら、人がいてよかったわ。平塚さんと野掘さん、ちょっとこのお菓子を貰ってくれない? バレンタインに備えて作ってみたから試食して欲しいの」
「金原先輩じゃないですか。何かこの前もバレンタインデーだった気がしますけどお腹空いてるのでぜひ頂きたいです」
ケーキが入ってそうな白い箱を抱えて歩いてきたのは2年生で書道部員の金原真希先輩で、先輩が箱から出して紙製の取り皿に置いてくれたのは手作りのブラウニーだった。
手渡された割り箸でブラウニーを食べてみるとその味は予想よりずっと美味しく、なるみ先輩もぱくぱくと口に運んであっという間にブラウニーを平らげていた。
「やっぱり金原はんが作るブラウニーは美味しいわ。生地がしっとりしとって、せやのにベタつかへんスッキリした甘さやわ。ココアはバンホーテンのものを使用したんかいな?」
「フフフ、ありがとう平塚さん。同じ予備校の男友達にあげようと思ってるんだけど、相手は純朴な男の子だからちょっとブラウニーっていう感じじゃないのよね。本人に希望を聞いてみたら金原さんがくれるなら何でも嬉しいって言うし……」
金原先輩は以前から同じ予備校に通っている他校の男子に恋しており、美味しいブラウニーは作れたものの相手が本当にそれで喜んでくれるのか自信が持てないようだった。
「うーん、男の子は美人相手だと大抵そう言うと思いますけど、せっかくなら相手が心から喜んでくれるお菓子をあげたいですよね。ビジネス用語でインサイトアプローチっていうのがありますけど、どうせ同じ予備校に通ってるならその男子の友達を通じて好みを調査してみてはどうですか? 潜在的なニーズに応えられたら好感度がグッと上がると思いますよ」
「野掘さん、確かにそれはいい考えね。今日は午後から予備校の講義があるから、宇都木君の男友達にちょっと探りを入れてみようかしら。またお菓子の試食頼むかもだからその時はよろしくね」
「お菓子ならいつでも持ってきてくれてええで! 次も期待しとるわ!」
金原先輩はそう言うと紙皿と割り箸を回収して去っていき、私は先輩のバレンタインデーが上手くいくといいなと思った。
そしてバレンタインデー当日、帰宅後に買い物に出かけた私は近くの公園で金原先輩と宇都木さんがデートしているのを見かけた。
「金原さん、これもしかしてバレンタインのプレゼント? こんなに大きな箱を貰えるなんて僕ぁ幸せだなぁ」
「ええ、宇都木君が好きそうなチョコを特別に取り寄せたのよ。開けてみてくれる?」
「もちろん。……おっ、これはチョコタマゴの2ダースセット!? しかも僕が好きなVtuberのグッズ入りのやつ!? ありがとう金原さん、このチョコタマゴずっと欲しかったんだよ!!」
「喜んでくれてよかったわ。紅茶を水筒に入れてきたから今からここでお茶しない?」
通販で取り寄せたらしい食玩のチョコをプレゼントしている金原先輩を見て、私は思いっきり市販品だが相手の潜在的なニーズに応じているのでこれはこれで成功に違いないと思った。
(続く)
「はあー疲れたわー、こんなに寒いのにまなちゃん来てくれてありがたいわ」
「2月っていっても運動すると普通に暑いですよね。スポーツドリンクどうぞ」
2月上旬の土曜日、先生方の都合で授業がない日に私は朝から2年生の平塚鳴海先輩と二人で硬式テニス部の練習に励んでいた。
自主練扱いの日なのでこの日は部員の集まりが悪く、二人だけで延々練習してくれたなるみ先輩に私は持参したスポーツドリンクを渡した。
「あら、人がいてよかったわ。平塚さんと野掘さん、ちょっとこのお菓子を貰ってくれない? バレンタインに備えて作ってみたから試食して欲しいの」
「金原先輩じゃないですか。何かこの前もバレンタインデーだった気がしますけどお腹空いてるのでぜひ頂きたいです」
ケーキが入ってそうな白い箱を抱えて歩いてきたのは2年生で書道部員の金原真希先輩で、先輩が箱から出して紙製の取り皿に置いてくれたのは手作りのブラウニーだった。
手渡された割り箸でブラウニーを食べてみるとその味は予想よりずっと美味しく、なるみ先輩もぱくぱくと口に運んであっという間にブラウニーを平らげていた。
「やっぱり金原はんが作るブラウニーは美味しいわ。生地がしっとりしとって、せやのにベタつかへんスッキリした甘さやわ。ココアはバンホーテンのものを使用したんかいな?」
「フフフ、ありがとう平塚さん。同じ予備校の男友達にあげようと思ってるんだけど、相手は純朴な男の子だからちょっとブラウニーっていう感じじゃないのよね。本人に希望を聞いてみたら金原さんがくれるなら何でも嬉しいって言うし……」
金原先輩は以前から同じ予備校に通っている他校の男子に恋しており、美味しいブラウニーは作れたものの相手が本当にそれで喜んでくれるのか自信が持てないようだった。
「うーん、男の子は美人相手だと大抵そう言うと思いますけど、せっかくなら相手が心から喜んでくれるお菓子をあげたいですよね。ビジネス用語でインサイトアプローチっていうのがありますけど、どうせ同じ予備校に通ってるならその男子の友達を通じて好みを調査してみてはどうですか? 潜在的なニーズに応えられたら好感度がグッと上がると思いますよ」
「野掘さん、確かにそれはいい考えね。今日は午後から予備校の講義があるから、宇都木君の男友達にちょっと探りを入れてみようかしら。またお菓子の試食頼むかもだからその時はよろしくね」
「お菓子ならいつでも持ってきてくれてええで! 次も期待しとるわ!」
金原先輩はそう言うと紙皿と割り箸を回収して去っていき、私は先輩のバレンタインデーが上手くいくといいなと思った。
そしてバレンタインデー当日、帰宅後に買い物に出かけた私は近くの公園で金原先輩と宇都木さんがデートしているのを見かけた。
「金原さん、これもしかしてバレンタインのプレゼント? こんなに大きな箱を貰えるなんて僕ぁ幸せだなぁ」
「ええ、宇都木君が好きそうなチョコを特別に取り寄せたのよ。開けてみてくれる?」
「もちろん。……おっ、これはチョコタマゴの2ダースセット!? しかも僕が好きなVtuberのグッズ入りのやつ!? ありがとう金原さん、このチョコタマゴずっと欲しかったんだよ!!」
「喜んでくれてよかったわ。紅茶を水筒に入れてきたから今からここでお茶しない?」
通販で取り寄せたらしい食玩のチョコをプレゼントしている金原先輩を見て、私は思いっきり市販品だが相手の潜在的なニーズに応じているのでこれはこれで成功に違いないと思った。
(続く)
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