171 / 181
第6部 天然女子高生のための重そーかつ
第153話 インサイトアプローチ
しおりを挟む
東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)
「はあー疲れたわー、こんなに寒いのにまなちゃん来てくれてありがたいわ」
「2月っていっても運動すると普通に暑いですよね。スポーツドリンクどうぞ」
2月上旬の土曜日、先生方の都合で授業がない日に私は朝から2年生の平塚鳴海先輩と二人で硬式テニス部の練習に励んでいた。
自主練扱いの日なのでこの日は部員の集まりが悪く、二人だけで延々練習してくれたなるみ先輩に私は持参したスポーツドリンクを渡した。
「あら、人がいてよかったわ。平塚さんと野掘さん、ちょっとこのお菓子を貰ってくれない? バレンタインに備えて作ってみたから試食して欲しいの」
「金原先輩じゃないですか。何かこの前もバレンタインデーだった気がしますけどお腹空いてるのでぜひ頂きたいです」
ケーキが入ってそうな白い箱を抱えて歩いてきたのは2年生で書道部員の金原真希先輩で、先輩が箱から出して紙製の取り皿に置いてくれたのは手作りのブラウニーだった。
手渡された割り箸でブラウニーを食べてみるとその味は予想よりずっと美味しく、なるみ先輩もぱくぱくと口に運んであっという間にブラウニーを平らげていた。
「やっぱり金原はんが作るブラウニーは美味しいわ。生地がしっとりしとって、せやのにベタつかへんスッキリした甘さやわ。ココアはバンホーテンのものを使用したんかいな?」
「フフフ、ありがとう平塚さん。同じ予備校の男友達にあげようと思ってるんだけど、相手は純朴な男の子だからちょっとブラウニーっていう感じじゃないのよね。本人に希望を聞いてみたら金原さんがくれるなら何でも嬉しいって言うし……」
金原先輩は以前から同じ予備校に通っている他校の男子に恋しており、美味しいブラウニーは作れたものの相手が本当にそれで喜んでくれるのか自信が持てないようだった。
「うーん、男の子は美人相手だと大抵そう言うと思いますけど、せっかくなら相手が心から喜んでくれるお菓子をあげたいですよね。ビジネス用語でインサイトアプローチっていうのがありますけど、どうせ同じ予備校に通ってるならその男子の友達を通じて好みを調査してみてはどうですか? 潜在的なニーズに応えられたら好感度がグッと上がると思いますよ」
「野掘さん、確かにそれはいい考えね。今日は午後から予備校の講義があるから、宇都木君の男友達にちょっと探りを入れてみようかしら。またお菓子の試食頼むかもだからその時はよろしくね」
「お菓子ならいつでも持ってきてくれてええで! 次も期待しとるわ!」
金原先輩はそう言うと紙皿と割り箸を回収して去っていき、私は先輩のバレンタインデーが上手くいくといいなと思った。
そしてバレンタインデー当日、帰宅後に買い物に出かけた私は近くの公園で金原先輩と宇都木さんがデートしているのを見かけた。
「金原さん、これもしかしてバレンタインのプレゼント? こんなに大きな箱を貰えるなんて僕ぁ幸せだなぁ」
「ええ、宇都木君が好きそうなチョコを特別に取り寄せたのよ。開けてみてくれる?」
「もちろん。……おっ、これはチョコタマゴの2ダースセット!? しかも僕が好きなVtuberのグッズ入りのやつ!? ありがとう金原さん、このチョコタマゴずっと欲しかったんだよ!!」
「喜んでくれてよかったわ。紅茶を水筒に入れてきたから今からここでお茶しない?」
通販で取り寄せたらしい食玩のチョコをプレゼントしている金原先輩を見て、私は思いっきり市販品だが相手の潜在的なニーズに応じているのでこれはこれで成功に違いないと思った。
(続く)
「はあー疲れたわー、こんなに寒いのにまなちゃん来てくれてありがたいわ」
「2月っていっても運動すると普通に暑いですよね。スポーツドリンクどうぞ」
2月上旬の土曜日、先生方の都合で授業がない日に私は朝から2年生の平塚鳴海先輩と二人で硬式テニス部の練習に励んでいた。
自主練扱いの日なのでこの日は部員の集まりが悪く、二人だけで延々練習してくれたなるみ先輩に私は持参したスポーツドリンクを渡した。
「あら、人がいてよかったわ。平塚さんと野掘さん、ちょっとこのお菓子を貰ってくれない? バレンタインに備えて作ってみたから試食して欲しいの」
「金原先輩じゃないですか。何かこの前もバレンタインデーだった気がしますけどお腹空いてるのでぜひ頂きたいです」
ケーキが入ってそうな白い箱を抱えて歩いてきたのは2年生で書道部員の金原真希先輩で、先輩が箱から出して紙製の取り皿に置いてくれたのは手作りのブラウニーだった。
手渡された割り箸でブラウニーを食べてみるとその味は予想よりずっと美味しく、なるみ先輩もぱくぱくと口に運んであっという間にブラウニーを平らげていた。
「やっぱり金原はんが作るブラウニーは美味しいわ。生地がしっとりしとって、せやのにベタつかへんスッキリした甘さやわ。ココアはバンホーテンのものを使用したんかいな?」
「フフフ、ありがとう平塚さん。同じ予備校の男友達にあげようと思ってるんだけど、相手は純朴な男の子だからちょっとブラウニーっていう感じじゃないのよね。本人に希望を聞いてみたら金原さんがくれるなら何でも嬉しいって言うし……」
金原先輩は以前から同じ予備校に通っている他校の男子に恋しており、美味しいブラウニーは作れたものの相手が本当にそれで喜んでくれるのか自信が持てないようだった。
「うーん、男の子は美人相手だと大抵そう言うと思いますけど、せっかくなら相手が心から喜んでくれるお菓子をあげたいですよね。ビジネス用語でインサイトアプローチっていうのがありますけど、どうせ同じ予備校に通ってるならその男子の友達を通じて好みを調査してみてはどうですか? 潜在的なニーズに応えられたら好感度がグッと上がると思いますよ」
「野掘さん、確かにそれはいい考えね。今日は午後から予備校の講義があるから、宇都木君の男友達にちょっと探りを入れてみようかしら。またお菓子の試食頼むかもだからその時はよろしくね」
「お菓子ならいつでも持ってきてくれてええで! 次も期待しとるわ!」
金原先輩はそう言うと紙皿と割り箸を回収して去っていき、私は先輩のバレンタインデーが上手くいくといいなと思った。
そしてバレンタインデー当日、帰宅後に買い物に出かけた私は近くの公園で金原先輩と宇都木さんがデートしているのを見かけた。
「金原さん、これもしかしてバレンタインのプレゼント? こんなに大きな箱を貰えるなんて僕ぁ幸せだなぁ」
「ええ、宇都木君が好きそうなチョコを特別に取り寄せたのよ。開けてみてくれる?」
「もちろん。……おっ、これはチョコタマゴの2ダースセット!? しかも僕が好きなVtuberのグッズ入りのやつ!? ありがとう金原さん、このチョコタマゴずっと欲しかったんだよ!!」
「喜んでくれてよかったわ。紅茶を水筒に入れてきたから今からここでお茶しない?」
通販で取り寄せたらしい食玩のチョコをプレゼントしている金原先輩を見て、私は思いっきり市販品だが相手の潜在的なニーズに応じているのでこれはこれで成功に違いないと思った。
(続く)
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天使の隣
鉄紺忍者
大衆娯楽
人間の意思に反応する『フットギア』という特殊なシューズで走る新世代・駅伝SFストーリー!レース前、主人公・栗原楓は憧れの神宮寺エリカから突然声をかけられた。慌てふためく楓だったが、実は2人にはとある共通点があって……?
みなとみらいと八景島を結ぶ絶景のコースを、7人の女子大生ランナーが駆け抜ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる