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第5部 天然女子高生のための真そーかつ
第147話 推し活
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東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は(後略)
ある朝目覚めたと思った私は、自分が寝ている姿を空中から眺めていた。
『うわっ何これ! 死んだの!? 私持病もないのに16歳で死んだの!?』
『落ち着いてくださいませ、今日は緊急の用件がありましたので真奈様の霊魂を身体から分離させました』
隣でふわふわ浮いている三頭身の小さな女の子は私の部屋に居候している幽霊の一人である真霊たそで、彼女は何らかの目的により霊能力で私を幽体離脱させたらしかった。
『ここから少し離れた住宅で強力な負の波動を感知し、このまま放置しておくと波動の持ち主が自らを殺めてしまうかも知れないのです。幽霊である私の独力ではどうにもできませんので、真奈様に見て頂き生身に戻ってから介入をお願いしたいのです』
『私がどうこうできるってことは知り合いの人なんですよね? 誰かな……』
詳しく考える間もなく真霊たそは私の霊魂を連れて空間転移し、気がつくと私の霊魂と真霊たそは三階建ての一軒家の2階にあるリビングルームに浮かんでいた。
そこではマルクス高校3年生の秋葉拓雄先輩がテーブルを挟んで厳格そうなお父さんと向かい合っており、私は二人の会話に耳を傾けた。
「拓雄、この前の模試の成績はどういうことだ。私はこれまでお前がいわゆるオタクなのも堀江さんとかいう後輩のファンクラブに入っているのも許してきたが、それもお前がちゃんと大学受験に向き合っていたからだ。私はデイトレーダーなどという不安定な仕事で家族を養ってきたから、お前には名門大学に進学してまともな仕事に就いて欲しいと何度も言ってきたはずだ」
「それは、ちょっと調子が悪かっただけです。次の模試ではまた元の成績に……」
「元の成績に戻すだとか、お前はそういう後ろ向きな姿勢であの三橋大学に現役合格できると思っているのか。大体、私はお前が堀江さんという後輩に入れ込みすぎているのもどうかと思っている。彼女は没落した元社長令嬢だと聞いたが、いくらお前がファンクラブに入ったりファングッズを買ったりしたところで、彼女がお前の奥さんになってくれる訳ではないだろう。アイドル気取りの素人なんかに入れ込むのはやめて、そろそろ自分の人生に向き合ったらどうなんだ」
「父さん、ほっちゃんは僕の推しなんだよ! 僕はほっちゃんがいたからこれまで辛い受験生活を頑張ってこれたし、ほっちゃんと付き合いたいって思ったことなんて一度もないよ! 僕をいくら批判してくれてもいいけど、ほっちゃんのことを悪く言われるのは心外だ!!」
秋葉先輩はお父さんを怒鳴りつけるとそのまま3階に向けて階段を駆け上がってしまい、私は空中を浮遊して壁を通り抜けると先輩の部屋に入った。
「うっ……ぐすっ……そうだよ、僕だって本当はほっちゃんをお嫁さんにしたいよ……でも……」
『ちょっと何なんですかこれ、この小説多分こういうシリアス展開求められてないですよ!?』
『いわゆる推し活を続ける自分に苦しむオタクの方だったようですね。あの男性はこのままですと今から首を吊ってしまいかねませんので、特例措置として真奈様を恵美押勝に変身させた上で話しかけられるようにします。どうぞ上手いこと説得なさってください』
『押勝って言いたいだけですよね!? それより説得方法を教えてくださいよ!!』
そうこうしている内に真霊たそは私を奈良時代の公卿である恵美押勝に変身させ、私は仕方なく恵美押勝の幽霊として秋葉先輩に話しかけることにした。
『えー、そこの青年よ、私の声に耳を傾けたまえ。私は奈良時代に、えーと、何か活躍してた恵美押勝だ』
「恵美押勝っていうと藤原仲麻呂!? 一体なぜ僕のもとに!?」
『まあ細かい話はいいとして、君はある女性への推し活を続けている自分自身に悩んでいるそうだな。確かに君がその女性をどれだけ応援してもお金を払っても、彼女が君と交際してくれることはないだろう』
「そうなんです。僕はほっちゃんと付き合いたいなんて思っちゃいけないのに、ずっと推していればいつかはって思ってしまうんです」
秋葉先輩はやはり本心から堀江有紀先輩と付き合いたいと思っていたらしく、私は上手いこと秋葉先輩を納得させる理屈を考えた。
『しかしだな、君が本音では彼女と付き合いたいと考えていて、その上で自らの感情を抑えて彼女の推しに徹することこそが本当の推し活なのではないだろうか。そもそも付き合いたいとまで考えていない人間には真の推し活はできないし、彼女もそこまで愛している上で自分を純粋に応援しようとしてくれるファンを誰よりも大事にするはずだ。自分自身の感情が不純などと思うのは根本的な誤解に他ならないから、君はこれからもゆき先輩への推し活を堂々と続ければいいと思うぞ』
「分かりました! あれ、どうして恵美押勝さんがほっちゃんの名前を……」
秋葉先輩がそう尋ねた瞬間に真霊たその霊力は底を突き、私の霊魂は自宅で寝ている自分自身の身体に戻っていた。
その翌日……
「ほっちゃん、僕が今度の模試で三橋大学にB判定以上を取ったら……」
いつものように中庭でサイン会を開いていたゆき先輩に、秋葉先輩は何かを伝えようとしていた。
「模試の成績表の裏に、ほっちゃんの直筆サインを書いてください!!」
「そんなことですの? 別に何判定でもいいですけど、それならもちろん約束致しますわ。どうぞ頑張ってね」
「ありがとうっ! ほっちゃーん! ほ、ほーっ、ホアアーッ!! ホアーッ!!」
ゆき先輩にちょっとした約束を取り付けた秋葉先輩は大喜びで教室に戻り、私は先輩がこれからも自分なりの「推し活」を続けてくれればいいなと思った。
(続く)
ある朝目覚めたと思った私は、自分が寝ている姿を空中から眺めていた。
『うわっ何これ! 死んだの!? 私持病もないのに16歳で死んだの!?』
『落ち着いてくださいませ、今日は緊急の用件がありましたので真奈様の霊魂を身体から分離させました』
隣でふわふわ浮いている三頭身の小さな女の子は私の部屋に居候している幽霊の一人である真霊たそで、彼女は何らかの目的により霊能力で私を幽体離脱させたらしかった。
『ここから少し離れた住宅で強力な負の波動を感知し、このまま放置しておくと波動の持ち主が自らを殺めてしまうかも知れないのです。幽霊である私の独力ではどうにもできませんので、真奈様に見て頂き生身に戻ってから介入をお願いしたいのです』
『私がどうこうできるってことは知り合いの人なんですよね? 誰かな……』
詳しく考える間もなく真霊たそは私の霊魂を連れて空間転移し、気がつくと私の霊魂と真霊たそは三階建ての一軒家の2階にあるリビングルームに浮かんでいた。
そこではマルクス高校3年生の秋葉拓雄先輩がテーブルを挟んで厳格そうなお父さんと向かい合っており、私は二人の会話に耳を傾けた。
「拓雄、この前の模試の成績はどういうことだ。私はこれまでお前がいわゆるオタクなのも堀江さんとかいう後輩のファンクラブに入っているのも許してきたが、それもお前がちゃんと大学受験に向き合っていたからだ。私はデイトレーダーなどという不安定な仕事で家族を養ってきたから、お前には名門大学に進学してまともな仕事に就いて欲しいと何度も言ってきたはずだ」
「それは、ちょっと調子が悪かっただけです。次の模試ではまた元の成績に……」
「元の成績に戻すだとか、お前はそういう後ろ向きな姿勢であの三橋大学に現役合格できると思っているのか。大体、私はお前が堀江さんという後輩に入れ込みすぎているのもどうかと思っている。彼女は没落した元社長令嬢だと聞いたが、いくらお前がファンクラブに入ったりファングッズを買ったりしたところで、彼女がお前の奥さんになってくれる訳ではないだろう。アイドル気取りの素人なんかに入れ込むのはやめて、そろそろ自分の人生に向き合ったらどうなんだ」
「父さん、ほっちゃんは僕の推しなんだよ! 僕はほっちゃんがいたからこれまで辛い受験生活を頑張ってこれたし、ほっちゃんと付き合いたいって思ったことなんて一度もないよ! 僕をいくら批判してくれてもいいけど、ほっちゃんのことを悪く言われるのは心外だ!!」
秋葉先輩はお父さんを怒鳴りつけるとそのまま3階に向けて階段を駆け上がってしまい、私は空中を浮遊して壁を通り抜けると先輩の部屋に入った。
「うっ……ぐすっ……そうだよ、僕だって本当はほっちゃんをお嫁さんにしたいよ……でも……」
『ちょっと何なんですかこれ、この小説多分こういうシリアス展開求められてないですよ!?』
『いわゆる推し活を続ける自分に苦しむオタクの方だったようですね。あの男性はこのままですと今から首を吊ってしまいかねませんので、特例措置として真奈様を恵美押勝に変身させた上で話しかけられるようにします。どうぞ上手いこと説得なさってください』
『押勝って言いたいだけですよね!? それより説得方法を教えてくださいよ!!』
そうこうしている内に真霊たそは私を奈良時代の公卿である恵美押勝に変身させ、私は仕方なく恵美押勝の幽霊として秋葉先輩に話しかけることにした。
『えー、そこの青年よ、私の声に耳を傾けたまえ。私は奈良時代に、えーと、何か活躍してた恵美押勝だ』
「恵美押勝っていうと藤原仲麻呂!? 一体なぜ僕のもとに!?」
『まあ細かい話はいいとして、君はある女性への推し活を続けている自分自身に悩んでいるそうだな。確かに君がその女性をどれだけ応援してもお金を払っても、彼女が君と交際してくれることはないだろう』
「そうなんです。僕はほっちゃんと付き合いたいなんて思っちゃいけないのに、ずっと推していればいつかはって思ってしまうんです」
秋葉先輩はやはり本心から堀江有紀先輩と付き合いたいと思っていたらしく、私は上手いこと秋葉先輩を納得させる理屈を考えた。
『しかしだな、君が本音では彼女と付き合いたいと考えていて、その上で自らの感情を抑えて彼女の推しに徹することこそが本当の推し活なのではないだろうか。そもそも付き合いたいとまで考えていない人間には真の推し活はできないし、彼女もそこまで愛している上で自分を純粋に応援しようとしてくれるファンを誰よりも大事にするはずだ。自分自身の感情が不純などと思うのは根本的な誤解に他ならないから、君はこれからもゆき先輩への推し活を堂々と続ければいいと思うぞ』
「分かりました! あれ、どうして恵美押勝さんがほっちゃんの名前を……」
秋葉先輩がそう尋ねた瞬間に真霊たその霊力は底を突き、私の霊魂は自宅で寝ている自分自身の身体に戻っていた。
その翌日……
「ほっちゃん、僕が今度の模試で三橋大学にB判定以上を取ったら……」
いつものように中庭でサイン会を開いていたゆき先輩に、秋葉先輩は何かを伝えようとしていた。
「模試の成績表の裏に、ほっちゃんの直筆サインを書いてください!!」
「そんなことですの? 別に何判定でもいいですけど、それならもちろん約束致しますわ。どうぞ頑張ってね」
「ありがとうっ! ほっちゃーん! ほ、ほーっ、ホアアーッ!! ホアーッ!!」
ゆき先輩にちょっとした約束を取り付けた秋葉先輩は大喜びで教室に戻り、私は先輩がこれからも自分なりの「推し活」を続けてくれればいいなと思った。
(続く)
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