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第5部 天然女子高生のための真そーかつ
第139話 大きなお友達
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東京都千代田区にある私立マルクス高等学校は今時珍しい革新系の学校で、在学生にはリベラルアーツ精神と左派系の思想が叩き込まれている。
ある日曜日の昼過ぎ、私、野掘真奈は弟の正輝と一緒に電車で隣の区のショッピングモールに来ていた。
「ほらほら行くよー、よし1点!」
「あちゃー、こういうのは姉ちゃんには敵わないなあ」
正輝はスポーツ用品店でアメフト用具を購入し、私もペットショップでハムスター用の小型遊具を購入できたので今は遅めの昼食を終えて帰る前に久々に姉弟でゲームセンターで遊んでいた。
最近では置いてあるゲーセンが少ない気がするエアホッケーで、私はテニス部で鍛えた瞬発力を発揮して正輝を圧倒していた。
エアホッケーで一通り遊び、そろそろ帰ろうとしていると、ゲーセンの壁際にある児童向けトレーディングカードアーケードゲームのコーナーから聞き覚えのある男性の声が聞こえてきた。
「皆、このアイドルコンテストではシック系統の服を選んで、アピール終了の直前にこのアクションを使うと勝ちやすいよ。僕がお手本を見せるから参考にしてみてね」
「わあー、ほんとうにかってる! おじちゃん、プリラキにすっごくくわしいんだね!!」
幼稚園児から小学校低学年ぐらいに見える女の子たちに囲まれていたのは2年生の赤城旗子先輩のお兄さんである赤城点太郎さんで、彼は慣れた手つきでアーケードゲームを操作しつつ女の子たちに攻略法を教えてあげていた。
少女漫画っぽいキャラクターデザインのアイドルたちが歌って踊るゲーム「プリティ☆ラッキースター」は成人男性である点太郎さんには全く似合わないが、女の子たちの母親らしい女性たちも点太郎さんを微笑ましく見守っており、私は点太郎さんに隠れた趣味があることを偶然知ることとなった。
「お疲れ様です。さっきは子供たちに大人気でしたね」
「うわっ野掘さんと弟さん! 隠すようなことでもないんだけど、実は昔から小さい女の子向けのアーケードカードゲームが好きでね。『大きなお友達』とか言われて恥ずかしいから遠くのゲーセンまで来てるんだけど、どこにでも知り合いはいるもんだね」
「でも女の子たちに攻略法を教えてあげたり、遊ぶ順番を守る大切さを説明したりしてすごく歓迎されてたじゃないですか。俺、恥ずかしい趣味だなんて全然思いませんでしたよ」
点太郎さんは勉強こそできないものの優しく真面目な性格であり、いわゆる「大きなお友達」でも子供たちによい影響を与えているのは純粋に素晴らしいと思った。
最寄り駅が同じなので私たち姉弟は点太郎さんと同じ電車で帰ることになり、夕方になって少し混雑し始めた電車に3人で乗り込んだ。
「そういえば点太郎さん、この駅には切符で来られてるんですね。ICカードお持ちじゃないんですか?」
「ちょっと前になくしちゃって、再発行を頼んでるんだよ。普段はここに……あっ!!」
出発前の電車内で定期入れを取り出した点太郎さんだが、その弾みで中に入っていた先ほどのアーケードゲームのユーザーカードが電車の自動ドアの床の隙間に落ちてしまった。
線路ではなく電車の床の下の空間に落ちてしまったようだが、隙間は小指も入らないほど狭いので拾いようがなさそうだった。
「うわあー! どうか行かないで!! あー、落としちゃった! うわぁぁぁぁぁぁ!! まあぁぁぁぁぁぁ!!」
「ちょっ、点太郎さん!?」
点太郎さんは突然電車内の床に這いつくばり、自動ドアの床の隙間に手を伸ばしつつ叫び始めた。
「うあー!! 落としたぁー!! ゲームのカード落としちゃった!!」
「あの、どうかしましたか?」
「はい、ゲームのカードを落としてしまったのですが」
「分かりました。それなら後で探しますから、車庫まで来てください。とりあえず大人しくして頂けませんか?」
「あ、はい」
「他のお客様もおられますのでね。では車掌室までご案内します」
錯乱していた点太郎さんはちょうど巡回に来ていた車掌さんに事情を説明し、そのまま車掌室に連れられていった。
「流石は点太郎さん、車掌さんにちゃんと事情を説明してカードを拾わせて貰うなんて! 俺もあのコミュ力見習いたいな」
「それギャグで言ってるんだよね……?」
電車内で奇行を繰り広げた点太郎さんの姿に目を輝かせている正輝を見て、私は点太郎さんも正輝もどこか常識を外れていると確信した。
(続く)
ある日曜日の昼過ぎ、私、野掘真奈は弟の正輝と一緒に電車で隣の区のショッピングモールに来ていた。
「ほらほら行くよー、よし1点!」
「あちゃー、こういうのは姉ちゃんには敵わないなあ」
正輝はスポーツ用品店でアメフト用具を購入し、私もペットショップでハムスター用の小型遊具を購入できたので今は遅めの昼食を終えて帰る前に久々に姉弟でゲームセンターで遊んでいた。
最近では置いてあるゲーセンが少ない気がするエアホッケーで、私はテニス部で鍛えた瞬発力を発揮して正輝を圧倒していた。
エアホッケーで一通り遊び、そろそろ帰ろうとしていると、ゲーセンの壁際にある児童向けトレーディングカードアーケードゲームのコーナーから聞き覚えのある男性の声が聞こえてきた。
「皆、このアイドルコンテストではシック系統の服を選んで、アピール終了の直前にこのアクションを使うと勝ちやすいよ。僕がお手本を見せるから参考にしてみてね」
「わあー、ほんとうにかってる! おじちゃん、プリラキにすっごくくわしいんだね!!」
幼稚園児から小学校低学年ぐらいに見える女の子たちに囲まれていたのは2年生の赤城旗子先輩のお兄さんである赤城点太郎さんで、彼は慣れた手つきでアーケードゲームを操作しつつ女の子たちに攻略法を教えてあげていた。
少女漫画っぽいキャラクターデザインのアイドルたちが歌って踊るゲーム「プリティ☆ラッキースター」は成人男性である点太郎さんには全く似合わないが、女の子たちの母親らしい女性たちも点太郎さんを微笑ましく見守っており、私は点太郎さんに隠れた趣味があることを偶然知ることとなった。
「お疲れ様です。さっきは子供たちに大人気でしたね」
「うわっ野掘さんと弟さん! 隠すようなことでもないんだけど、実は昔から小さい女の子向けのアーケードカードゲームが好きでね。『大きなお友達』とか言われて恥ずかしいから遠くのゲーセンまで来てるんだけど、どこにでも知り合いはいるもんだね」
「でも女の子たちに攻略法を教えてあげたり、遊ぶ順番を守る大切さを説明したりしてすごく歓迎されてたじゃないですか。俺、恥ずかしい趣味だなんて全然思いませんでしたよ」
点太郎さんは勉強こそできないものの優しく真面目な性格であり、いわゆる「大きなお友達」でも子供たちによい影響を与えているのは純粋に素晴らしいと思った。
最寄り駅が同じなので私たち姉弟は点太郎さんと同じ電車で帰ることになり、夕方になって少し混雑し始めた電車に3人で乗り込んだ。
「そういえば点太郎さん、この駅には切符で来られてるんですね。ICカードお持ちじゃないんですか?」
「ちょっと前になくしちゃって、再発行を頼んでるんだよ。普段はここに……あっ!!」
出発前の電車内で定期入れを取り出した点太郎さんだが、その弾みで中に入っていた先ほどのアーケードゲームのユーザーカードが電車の自動ドアの床の隙間に落ちてしまった。
線路ではなく電車の床の下の空間に落ちてしまったようだが、隙間は小指も入らないほど狭いので拾いようがなさそうだった。
「うわあー! どうか行かないで!! あー、落としちゃった! うわぁぁぁぁぁぁ!! まあぁぁぁぁぁぁ!!」
「ちょっ、点太郎さん!?」
点太郎さんは突然電車内の床に這いつくばり、自動ドアの床の隙間に手を伸ばしつつ叫び始めた。
「うあー!! 落としたぁー!! ゲームのカード落としちゃった!!」
「あの、どうかしましたか?」
「はい、ゲームのカードを落としてしまったのですが」
「分かりました。それなら後で探しますから、車庫まで来てください。とりあえず大人しくして頂けませんか?」
「あ、はい」
「他のお客様もおられますのでね。では車掌室までご案内します」
錯乱していた点太郎さんはちょうど巡回に来ていた車掌さんに事情を説明し、そのまま車掌室に連れられていった。
「流石は点太郎さん、車掌さんにちゃんと事情を説明してカードを拾わせて貰うなんて! 俺もあのコミュ力見習いたいな」
「それギャグで言ってるんだよね……?」
電車内で奇行を繰り広げた点太郎さんの姿に目を輝かせている正輝を見て、私は点太郎さんも正輝もどこか常識を外れていると確信した。
(続く)
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